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マタギの孫をなめんなよ!【書籍化】  作者: ハーーナ殿下
【最期の森】の章

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182/204

150羽:望み望まぬ再会

「!?」


その気配を感じ『魔獣喰い』マジウスことオレは森道を急ぐ足を止める。自分の隣を進んでいた青年騎士レオンハルトも剣を抜き同じく周囲を警戒する。


魔素の濃い“魔穴”に近付くに連れて獣や魔獣の姿はすっかり消し、森の中は不気味なほど静かだ。


この地点の後方では自分たちの代わりに森の戦士『岩の矛』イワノフと帝国の大剣使い『赤髪』ガエルが黒騎士たちを相手に奮戦している。それを突破し目的地である“魔穴”までもう少しという場所であった。


(姿形は見えないが・・・確実にいる・・・)


オレはこれまで感じた事が無い強烈な殺気を感じ周囲の警戒に全神経を注ぐ。


この殺気には覚えがある。自分が幼い頃に森の中に大人たちと狩りに出て、初めて凶暴な獣と対峙した時の感覚とよく似ている。


ねっとりした殺気が自分たちの全身を舐めるように浴びせられる。こちらの実力を値踏みするかの様な狡猾こうかつな視線だ。幼いあの頃は必至で弓矢を引き射っていたが、青年になった今の自分は余計な事を考えてしまう分、見えない“敵”に対して思慮を巡らせてしまった。


その一瞬をつかれた。


同じ様に警戒していたレオンハルトの後方の死角から無音で鋭い矢が襲いかかる。


「レオン後ろだ!」


 オレはそう叫びながら腰の愛用の手斧を手に持ちその矢を切り払う。


ガギン


 寸前の所で斬り払いに成功したが、その矢の威力は凄まじく斧を持つ手がジーンと痺れる。だが躊躇ちゅうちょはしていられない。直ぐに自分の弓矢を構え相手の隠れている木陰に向かい意識を集中し矢を射る。


着弾点を中心に爆風と共に周囲を風のうずが粉砕する。“敵”の一人である女弓使い“紅鳳王べにほうおう”が使う風の精霊弓術だ。覚醒した自分が使える術の一つであり本来なら、この力は“魔穴”まで温存しておく予定であった。だが、この“相手”に出し惜しみは命取りだと瞬時に判断した。


(やったか!?いや!)


当たった手応えはあった。だが相手はその爆風を物ともせずに、場所を移動しこちらに激しい反撃の矢を射って来る。


「レオン、前に!」


オレはレオンハルトに声を掛け陣形を組み直しそれに対応する。剣盾と鎧で武装したレオンハルトが前衛で防御に徹し、後方のオレが相手に矢でけん制し仕留める。


その作戦通りにレオンハルトは次々と襲撃者の矢を受け流し相手の動きを封じ込める。


本来なら攻撃的な性格で守備よりも攻撃を得意とするレオンハルトだが対弓術は別だ。


弓使いであるオレに対抗する為に密かに対弓術の激しい鍛錬を積んできたという。それにより弓矢に対する防御術は下界の剣士の中でも屈指と言ってもいいだろう。そしてその技を存分に発揮している。


「今だ!」


オレは合図と同時に意識を集中し爆砕の矢を放つ。今度は相手を仕留めるのではなく、敢えて一ケ所逃げ道を残し誘導する。


先ほどと同じ様に激しい爆風を受け流した相手は罠にかかりその方向に回避する。だがそこには盾を投げ捨て身軽になったレオンハルトが剣を振りかざし待ち構えていた。


「どりゃあ!!」


相手の無防備な頭を叩き斬ろうとレオンハルトは一歩踏み出し強烈な一撃を振り下ろす。


「うわっ!」


その瞬間、踏み出したレオンハルトの足は足元にあった木のつたに絡め取られ、頭上高くまで一気に持ち上げられる。


「くっ、森の精霊術の罠の一種か!」


オレは矢を放ちその蔦ごと断ち切る。身の軽いレオンハルトは上手く木を蹴り放ち、回転し受け身をとりその相手と距離を取る。恐らくはこちらの動きを予測して事前に罠の術を設置していたのだろう・・・その事だけでこの相手が只者でないことが推測される。


『何度も言ったはずだ、森の中では決して油断はするなと・・・野生の獣は時には弱ったフリをして狩人を誘い込み逆に罠おに仕掛けると』


相手はこちらにさとす様に静かな声で話し掛けてくる。いや、それは“こちら”というよりはオレ一人に対しての言葉である。それまで身を隠していた木陰からゆっくりとその姿をこちらに表す。


長身の男であった。かといって『岩の矛』やガエルの様に決して巨躯きょくで筋肉隆々ではない。そのあごに生えている無精ひげをなでながらこちらをジッと見つめてくる。


黒銀に輝く不思議な素材の鎧を身にまとい弓矢と長剣で武装している。どちらかと言えば動きやすさと静音性を重視した森の戦士の装備である。


こんな時でなければこの森の中のどこにでもいる大人の狩人戦士・・・そんな姿形の男が姿を見せる。


もしかしたら生き残りの森の戦士の一人かと錯覚も覚えてしまう。


だが、押し殺しているその全身から溢れだす闘気は尋常ではない。さやに収められた国宝級の剣・・・ひとたび抜かれたならその周りに息をして立つ者はいないだろう、と思わせる程の秘めた剣気である。



「ああ・・・確かに何度も口が酸っぱくなる程言われた小言だった・・・この頭にゲンコツを何発も貰いながらな・・・」


 オレはその男に言葉を返すように返事をする。“どんな時も油断するな”“ゲンコツ”懐かしい思い出だ・・・そしてこの聞き覚えのある声を聞いて実感した。


情報では聞き理解はしていた。だが受け入れる事をオレは何故か出来なかった。


 数年前にオレたちが帝都で女弓使い“紅鳳王べにほうおう”と魔獣の群れに襲われた時に、ベール王都にこの剣使いの“敵”が現れたと、間接的には聞いていた。


 この男はそれ以前に『岩の矛』イワノフの父である『岩の盾』のオジサンと何か目的があり大森林中を旅していた。そして、『岩の盾』のオジサンはある日突然“黒騎士”としてオレたちの前に“敵”として立ちはだかった。


 予測はしていた。だが現実としてオレはそれを心の中から信じる事が出来ないでいた。だが、この声を聞き、そして木陰から出て来るその姿を見てオレは覚悟を決めてその現実に向き合う。


『どうした幽霊でも見た様な青い顔して・・・直ぐに表情に出しちまうからお前はガキなんだよ』


 まだ混乱しているオレを挑発する様に声を掛けて来る。


「相変わらず、そうやって相手を怒らせてペースを崩すのが上手いね・・・でも、歳をとってからそんな事ばかり言っていると女性に嫌われよ・・・『流れる風』のオッサン」


オレは冷静を装いつつ相手に言葉を返しその姿を直視する。


 そこに立っていたのは間違いなくこの森の部族の英雄であり、オレの幼い頃の教育係りであった戦士『流れる風』であった。


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