12羽:10歳になりました
“オレ”は十歳になった。
こうして言葉にすると一言で終わるが、今考えるとこの三年間色々あった。あっ、ちなみに三年間というのはあの“赤熊”との死闘から数えて三年という事だ。
あの赤熊狩りの後、オレは何故か腕利き狩人戦士《流れる風》のオジさんとよく同じ狩組になる事が多かった。これがまたかなり厳しい毎日だった。
近隣の森で普通の食用の獣を狩る事もあったが、殆どはあの赤熊の時のように近くの小さな村で手に負えない様な凶暴な獣を駆除する事が多かった。
行動範囲も格段に広がり自分の育った村の近くもあれば、遠く離れた村に何日もかけて出かけ、更には普段森の民も足を踏み入れない様な“秘境”みたいな所にも連れて行かれた。
そんな刺激的過ぎる狩り人生を強いられ、オレも否応なしにその経験値を重ねていった。自分で言うのも何だが狩人として結構成長していた。
それもその筈、《流れる風》のオジさんをはじめその狩組の大人たちは、人間離れした身体能力を持ち優れた技術を持った凄腕の狩人であり教育係りであったからだ。
だが、その逆の影響として、オレの狩りでの食肉用の獣の収穫量はそれ程増えてはいない。何故なら同じ狩組の大人たちが凄すぎてオレの出番が中々無いのだ。
「あまり子供の内はデングになるんじゃねえぞ」
《流れる風》のオジさんにいつもそう釘を刺される。自分の作戦では腕利き揃いの狩組に入り、有り余る獣を狩った量で村中の脚光を浴びモテモテ男になろうと思っていたのに、中々計画通りにはいかないもんだ。
何しろこの森の部族では狩猟が主な産業なので、狩りが出来る男は村中からもてはやされる。
まあ、オレもまだ十歳なので焦らずにいこうと日々思う。
そんな《流れる風》の狩組での仕事は多くが辛く厳しい事ばかりだが、そんな中でも前述の通り狩術を含め色々な技術をオレは学ぶ事が出来た。
隠密行動技術や夜営に戦闘格闘術・・・
《流れる風》のオジさんを筆頭に同じ組の大人達はそれぞれの道の達人であり、そこから盗み見て学ぶ技術は小さな村に育ったオレには宝の宝庫でもあった。
「何だ、人の事をジロジロ見てブツブツ独り言を言って気持ち悪いな・・・」
何て最初の頃は大人たちに言われていたが、一緒に寝食を過ごす内に次第に大人達には可愛がってもらっていた。
「おかしな子供だが筋は悪くなない」
だが、そんな事を言われ褒められた後は必ず失敗をする。お仕置き“脳天ゲンコツ”も毎日の様に喰らっていたが、最近では受ける場所を少しズラして痛みを半減する技の習得にも成功した。避けては相手は怒りだす、適度に叩かれるのが大人を喜ばせるコミュニケーションで処世術だ。
そんな感じ色々な場所に行き獣を狩りそして村に帰る生活をオレは結構満喫していた。
大人たちと危険な獣の狩りの仕事もしつつ村に帰っている期間は、オレも他の同年代の子供たちと同じように村の仕事や、弓や剣・格闘技、隠密活動の鍛錬も続けていた。
早朝の雑務からから日暮れまで修行まで一日中が体力勝負。まだ身体が小さい方のオレはかなりゲッソリになりながら毎晩泥のように寝ていた。
この年代が技術の吸収が一番早く、次から次へ村では新しい技術を学ばされた。
オレも三年前とは違い大きめの弓を引けるようになり、獣の気付かれない様に行う隠密活動も同年代では成績は高い方だ。
影が薄いからでは無い。これも実戦を潜り抜けて《流れる風》のオジさんたちから盗み得た技だとオレは確信している・・・たぶん。
えっ、それ以外の成績?
“剣技”とか?
(そ、それは・・・)
それを聞かれるとオレは汗をかく。勇者や騎士に一番重要な“剣術”の方はオレの上達具合はまだ微妙な感じだ。
それでも前よりはオレの剣技も成長はしている。
三年前まではナイフサイズの刃物しか使えなかったが、今では少し縮めた短剣位ならなんとか振り回すことが出来る。いつもは獣相手なので弓矢が基本だが、止めを差す時は威力のあり剣を帯刀しているだけで強くなった気分になる。
(もしやオレは“天才”なのか・・・)
だがそんな上達しているオレでも、オレの剣技は下の方の成績だ。何故なら同年代の奴らはオレ以上に格段に成長しているからだ。
十歳になったが身体大きさは同年代では下から数えた方が早いかもしれない。言っておくが一番前ではないぞ。
身体能力が高いこの部族の子供達は身体の成長も早く、成長の早い者ならその歳で大人と同じ武器を扱う者も出て来た。筋肉キッズといったところか。
当たり前だが同年代ライバル達もオレと同じように身体も技も成長しているのだから、彼らに一生追い付けないのかもしれない・・・
(はぁ・・・この三年間、結構真面目に仕事と剣の訓練をこなしてきたんだけど、もしかしたらオレには勇者や騎士の才能ないのかな・・・)
そんな事を思いながら挫折感が漂う。
いやそうではない。
(もしかして、オレは“大器晩成”かもしれない・・・)
そう思う様にして日々懲りずに剣の訓練と仕事に没頭する。




