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マタギの孫をなめんなよ!【書籍化】  作者: ハーーナ殿下
【下界 イスラマ神聖皇国 大侵攻】の章

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126/204

94羽:戦場夜襲




狂剣士エレナと森の民『魔獣喰い』の一騎打ちに決着がつき、ぽっかりと『間』が空いた瞬間を狙ってその男は現れた



「マリオ様・・・何で、こんな前線まで・・・」



大剣を放し狂剣士モードから聖女モードに戻っていた聖女エレナは、一兵卒に変装までして現れた自軍の総大将マリオの顔を見て驚きを隠せない



それはエレナだけではなく、敵軍であるグラニス軍の本陣にいた全員が同じだった



何しろ切り込み隊の突撃を受け、劣勢なグラニス軍であったが、ここでこのマリオ法皇子の首を獲ったなら勝利を手にしたも同然だ



場の空気を読まずに弓矢で射ろうとする者もいたが、マリオの放つ眼光によりその手を止められる



「エレナ、今日のとことはここまでにするぞ。グラニス軍の皆さんの実力も大体把握できたし・・・・とりあえずは『合格』というところかな」



マリオは敵軍のど真ん中にいるにも関わらず、敵兵のグラニス兵の面々を見てまるで我が軍のように嬉しそうに微笑む



「イスラマ神聖皇国軍マリオ!ここからただで帰えられると思っているのか!?」



グラニス軍の総大将であるレオンハルト剣を構え、部下を引き連れ敵の総大将であるマリオの前に立ちはだかる



「何もタダで帰るとは言ってないだろう。そう焦るな、レオンハルト君」



そう言いマリオは右手を上げて合図をする



すると突然グラニス本陣の四方から、爆音と共に色とりどりの煙が巻き上がり本陣とその周囲を煙が包んでいき視界を奪う



「これは毒煙かもしれない吸うな!」



本陣にいた誰かから声が上がり本陣は混乱する



冷静に考えれば自軍もいるのに毒は使わないはずだ



しかし、初めて見る煙の兵器と視界不良、混乱をあおる声で混乱は広がる



「では、我々はこの辺で失礼する。今後の皆さんの活躍を期待する」



そう言い、マリオをはじめてとする皇国の切り込み隊は煙の中に消えて行く



「待て!聖女ちゃんを置いていくんだ」



魔獣喰いは煙の中で短弓を構え、マリオの声がする方を狙い叫ぶ



視界はほとんど無いに等しいが、この距離なら気配で狙う事は出来そうだ



しかし、マリオの側で一緒に撤退しようとした聖女エレナに、当てないようにするのが神経をすり減らす



「この声はさっきの森の弓使い君か。この子エレナは大事な仲間なので、君に今はあげる事は出来ない。どうしても欲しいというなら今度、文明道のお茶菓子でも持って挨拶に来てくれたまえ・・・・そうだ、弓使い君、名前は何て言うんだ?」



姿は見えないが、気配と声だけする敵の総大将マリオが問いかけてくる



「オレの名前は・・・・ 『魔獣喰い』マジウス。 ん?・・・・『文明道』って!?ちょっと待ってくれ!」



突然聞きなれた菓子メーカーの名前を聞き、うろたえる魔獣喰い



しかし、その声の主の気配はいつの間にかこの場を遠く離れていた



それは他の皇国軍の切り込み兵も同じで、まさに煙のように消えていたのであった



しばらくしてグラニス軍の本陣を包んでいた煙も風に流されて消えてしまった



もちろん相手側もこの煙を吸っていたので毒ではなかった



しかし、初めて使われた『煙幕』という兵器に、グラニス軍は混乱し敵の大将を逃がしてしまった



その動きと連動するように、敵の長槍隊をはじめてとする皇国軍も迎撃の陣を組みながら撤退して行った



気付くと早朝に始まった戦いも、夕方近くになっていた



グラニス軍としては追撃をしたいところだが、この状況ではそれも難しい




こうして、グラニス西部会戦の一日目は終了したのである







イスラマ神聖皇国軍を何とか退けたグラニス軍は、崩された本陣を強化し夜営の準備をしていた



一方、敵である皇国軍は北西の離れた所に陣を敷きこちらを警戒していた



その陣は無駄がなく指揮官の能力の高さが垣間見える




下界の定石であるならば両軍とも今晩はゆっくり休み、明日の早朝にまた二日目の戦いが始まる



グラニス兵は夕食の準備をしながら、各隊で点呼をとり兵の状態を確認していた



初日という事もあり、こちら騎士や傭兵の死者数は思っていたよりも少ない



これは金属鎧や盾などの防具が発達していた時代であり、戦により致死率が低くなっていたのが理由だ



その代わりに軽装の農民市民歩兵で前線にいた者や、狂剣士エレナと敵の精鋭の突撃を受けた部隊はかなりの死者が出ていた



死者や重傷者は荷馬車隊により、後方の補給基地を経由して伯都に送られて行く



補充兵も欲しい所だが、領内の治安維持もあり今の動員数が一杯いっぱいだ




最後の煙幕で敵大将を逃がしてしまったが、倍以上の敵兵を追い払ったグラニス軍の士気は高いままであった



本当ならば寡兵であるグラニス軍は、この初日に森の民との挟撃で相手を倒しておきたかったが、この士気なら明日以降も何とか戦えそうだ



グラニス軍総大将であるレオンハルトを始めとする幹部たちはそう計算をしていた






「夜襲をかけるだと!?」



明日以降の作戦を修正する為に、グラニス軍の本陣で夕食を食べながら軍議をしていた陣幕から声があがる




「そうなのだ。今日の戦いで分かったが、やはり敵の総大将であるマリオ法皇子はただ者ではないのだ。ここで相手の裏をかき潰しておかないといけないのだ」



森の研究軍師である少女セリーナは、グラニス軍の騎士幹部にそう進言する



「闇討ちなど、誇り高き我がグラニス軍はそんな姑息な真似はしない!」



血気盛んな幹部騎士の一人が顔を赤らめて反対をする



「それは分かっているのだ。だから夜襲は我が森の戦士団だけで行う。レオンハルト様それでいいのだろう?」



この下界では夜襲は騎士道に反する行為として嫌われている



その事を分かっていた軍師セリーナは、既に森の戦士だけで準備をしていた



この軍議もある意味、部下に対するパフォーマンス的なものもあるのだろう



「・・・・貴軍は独立軍だ。反対する理由もなく、それなら問題はない。ただし、明日の朝の合同の戦に疲れを残さないように頼むぞ」



グラニス軍の総大将であるレオンハルトは部下のいる手前なのか、いつもより少し固い表情で森の民の軍師にお願いをする



確かに今回の相手である皇国軍は手強い



敵兵が多いのは最初から分かってはいたが、徴兵が主体で弱兵として名高い皇国軍の兵士が、まさかここまで戦術や士気を高めてこちらに拮抗してくるとは計算違いではあった



しかも、見た事のないような長い槍と盾を使う槍隊や、改良を重ねているだろう石弓隊を揃え、これまでにない強敵であった




(今回の戦で勝つためには森の戦士の力と知恵が必要だ)



先ほどの顔を赤らめて反対した騎士をはじめ、グラニス軍の幹部全員がその事を理解はしていた



しかし、初めての本格的な連携の戦で、森の戦士たちと自分たちがあまりにも違いがある為に、今は少し戸惑っているだけであった



(彼らは戦士としては確かに優秀だ。しかし騎士には騎士の戦いがあるのだ)



そういった心境も大きいのだろう



そんなこともあり軍議と夕食を終え、会議に参加していた森の軍師セリーナと女戦士『黒豹の爪』、鬼軍曹こと戦士団長は自軍の陣に戻って行く




「それにしても、さすがは大地豊かなグラニス軍。戦場の夕食でもあんな立派で美味しいご飯を食べられるんだね」



軍議には同席していたが、会議中は一言も発言せずにひたすら食べまくっていた弓使い『魔獣喰い』もそう言えば一緒だった



彼のあまりの食べる量に、グラニス軍お抱えの調理長も、大慌てで追加で料理を作りもてなしてくれた



その量を最後まで全部ペロリと食べ、更にお土産の料理まで包んで持って帰って来たこの男を見て、グラニス軍の幹部騎士は目を丸くしていた



(そ、底なし沼の胃袋の持ち主か・・・)



これまで見慣れていたレオンハルトや女騎士スザンナは声をあげて笑っていたが、今日の戦いで戦果を出していなければ非難物であろう光景だ




その言葉通り、今日の戦いでこの『魔獣喰い』にグラニス軍は助けられたといっても過言ではない



実際には狂剣士である聖女エレナの大剣をただ避けて逃げていただけであったが、彼らの助けがなければ恐らくはグラニス軍の本陣は壊滅していただろう




それ程までに恐ろしい武力を持った敵と、明日も戦わなくてはならないのである



それを食べ物で助けてくれるのなら安いものであろう



グラニス軍の幹部騎士はそう思いこんで自分を納得させていた







草原を見渡せる小高い丘を中心に陣を敷くグラニス軍に比べ、森の戦士団たちはそこから少し離れた林の中に陣を敷いていた




陣と言っても自然の地形を利用し、周囲に何重にも哨戒を置きその中心で休む簡単なものだった



しかし、森に育った彼らにとって木に囲まれた場所こそが落ち着き、また安全な場所なのである



敵に見つからないように、煙が立たないように夕食を済ませていた自軍の戦士達と『魔獣喰い』たちは合流した




「休憩と仮眠を済ませて、朝闇の頃になったら夜襲をかける。各戦士団から夜目と鼻の効く者を選出して準備しておけ」



今回の森の戦士団の総大将である女戦士『黒豹の爪』は、部下や他の砦から援軍に来た戦士たちに指示を出す



戦士たちは手際よく野営の準備をし、周囲を警戒しながら行動する



森の戦士たちも今日の戦いで死傷者は出ていたが、投入されたのが敵の横穴への奇襲だったこともありその数は多くは無い




森の民は全員、精霊の加護のお蔭で身体能力だけではなく、傷や体力の回復力も優れている



また、同行して来た精霊神官の使う秘薬草や精霊術によって、重症の傷さえも治りが断然早い



そういった意味もあり、彼らは生まれながらにして全員が優れた戦士であり兵士である



(しかし、それも死ぬまで永遠と魔獣を殺す為にかけられた悪い神の呪いではないだろうか・・・・)



下界から来た研究軍師であるセリーナを除き、そんな事を考える者は森の民の中には一人もいない



全員が誇りを持って勇敢に戦い、死んでいくのだ






「どうぞ、神官ちゃん。これも美味しいでしょう!」



そんな中、持ってきた大量の夕食のお土産を、自分と契約している精霊神官に差し出している『魔獣喰い』は相変わらず呑気であった




本当なら彼は夜襲の為の部隊編制を行う立場ではあったが、優秀な副官たちはそれを手馴れて感じで既に終えていた



上司が使えないと部下が育つ、いい例であった




さっき夕食を食べたはずなのだが、精霊神官『清い水』レティーナはその大量の土産をバクバク一人で美味しそうに食べていた



「マジ様、美味しいです。でも次回はもう少し栄養バランスを考えて持って来るのをお願いします」



相変わらず無表情な精霊神官ちゃんだが、ご飯を食べる時だけは少し嬉しそうにしている



(煮込みのソースが、ほっぺの横についているのがこれまた可愛い・・・)



今回は戦場ということもあり、精霊神官は後方の林の中で基本待機だが、彼女たちも全員が武装して自衛の訓練を受けており、慣れた林や森の中であったなら下界の兵士にも引けを取らない



主な任務は治療になるが、下界にいる間は戦士団全員に加護をかけているので気は抜けない



食事の為に体のラインが隠れる革鎧を脱いでいた神官ちゃん



神官着から溢れそうな胸の膨らみと、その食べっぷりを見ながら『魔獣喰い』ことマジ君は幸せの時間を過ごすのであった







朝闇に包まれた林の中を戦士達が移動している



敵は多くのかがり火を焚いているので、うかつに正面から近付くのは危険だ



木々と暗闇を利用しながら接近する



先頭を進む『魔獣喰い』は違和感を感じていた



弓使いとしての魔獣喰いの目は優れている



それも夜目も同様で、普通の森の民が見えない距離でも遠くを判別することができる




(おかしいぞ、これは・・・・)




近付くにつれてそれは確信へと変わる



さんさんと輝くかがり火に照らされて敵陣



その周囲に立つ人影はピクリとも動かない木の板だ



また敵のテント内には誰もおらず、さっきまでここで寝ていたような気配しか残っていなかった






そう、敵の夜襲に備えて煌々とかがり火が焚かれていた皇国軍の敵陣は『もぬけの殻』であったのだ







この章は登場人物がいつもより多いので簡単な人物紹介も行います


【森の戦士団】

魔獣喰い:(下界名;マジウス)

主人公?17歳で森林弓兵の小隊長。他人の見えない何かを感じたり見たりすることができる。新たな転生者の出現に、維新復活のために張り切る。弓と避ける達人。敵を懐柔する能力がある?食い気=女気>>任務



研究軍師セリーナ:

下界人で森に住む女の子天才軍師。実はイスラマ神聖皇国の皇女。グラニス軍でも影の軍師として采配をふるう。ブラコン。奇策好き



精霊神官『清い水』(下界名:レティーナ)

森の戦士『魔獣喰い』の専属精霊神官。戦場では隠れていたので出て来なかった。決して影が薄い訳ではない。餌付けされてきている



イケメン剣士:(下界名:セバスチャン)

魔獣喰いのかつての仲間。結構な剣の腕前で指揮能力もあり万能選手。未だに魔獣喰いの事を班長と前の呼び方で呼ぶ。飯を食いながら隠れて晩酌していた。夜目は効く方



牛さん:(下界名:不明)

魔獣喰いのかつての仲間。無口な重量戦士。夜目は効くが比較的足が遅いので夜襲は留守番



坊ちゃん:(下界:不明)

魔獣喰いのかつての仲間。金の計算と弓が得意。無理やり夜襲に連れていかれている



黒豹の爪:(下界名:クラウディア)

大砦の大剣女剣士で大隊長。統率力、個人戦闘力が高く軍略にも長けている。日焼け野獣系巨乳なので騎士幹部も目のやり場に困る。いつも魔獣喰いを会議に無理やり連れて行く。夜襲の総大将



鬼軍曹:大村の城の戦斧筋肉戦士団長。大戦斧と盾を使い獅子奮迅の活躍。敵の槍隊の指揮官を倒せた。ベテランなので夜襲は留守番



魔獣喰い小隊の副官:三人いるが全員が経験豊かで有能。よく職場放棄する小隊長の代わりに隊を指揮する。地味に有能



『文明道』:現世では有名は菓子ブランド。カステラが有名




【グラニス軍】

青年騎士レオンハルト副伯爵:たくましく大きくなった成長率No1の騎士。元々イケメンだったので左ホオに傷跡が残っても絵になる。下界と森のハーフ。自信家。なかなか成長した剣技を披露する場面が出てこない。実は夜襲は嫌いではない



女騎士スザンナ:レオンハルトの護衛騎士で今はグラニス軍の近衛騎士を率いる。剣の腕間の他に統率力や内政力などの各種能力が成長。プライベートは真面目なドジっ子。金髪碧眼で着やせタイプで周囲から人気が高い。剣と盾を上手く使い、受け流しからのカウンターを得意とする。一晩経って体力満タン



ベテラン騎士:昔からグラニス家に仕える騎士。耐える守備力に定評がある。十代半ばの可愛い娘がいる。傭兵隊と共になんとか前線で踏ん張った影の功労者



傭兵隊長:グラニス軍のお抱え傭兵隊を率いる。才能よりも経験値が物を言う歴戦の戦士。大陸中の噂話に通じる。今回は地味な受け役をして疲れている。




【イスラマ神聖皇国 第三軍】

第二法皇子マリオ:(殲滅皇子)(好色皇子)

神聖皇国の皇子で小さい頃から変わり者の奇人皇子。父親にも煙たがれていた。成人してから西部の辺境前線に飛ばされて連戦連勝。女の子好き。研究軍師セリーナお兄ちゃん。現代からの転生者。軍略マニアで化学も得意な天才である意味もう主人公。弱兵の皇国兵を現世の歴史から引用し長槍隊や石弓隊、工作兵を抱える。七色煙幕や火炎矢は彼の特性兵器。変装して最前線に来ていた。眼力がリキヤさんばりに強い?



女官騎士エマ:マリオ殿下の幼い頃からの教育係りの女騎士。能力に弱点がない騎士で体型も無駄がないスレンダー型。通称『秘書騎士』。マリオが転生者だという事には気付いていない。最前線に行ってしまったマリオの代わりに全軍を指揮していた。




聖女エレナ様:身長はそんなに大きくない童顔の少女。天の声を聞き勇気を出し前線に出る仮初めの聖女。顔は小動物系。実は戦闘で変身してしまう。ここ数年は正規流派の剣も学び意外と頭はいい。大剣モードから2刀流モードに別れる特殊剣を使用する。魔獣喰いの洗脳波を浴びてしまうが仲間であるマリオの元にとりあえずは戻る。





『黒影衆』:マリオ法皇子お抱えの諜報活動衆。孤児を集め訓練していた。敵のかく乱や情報収集などが得意で戦闘能力も高い。今回は煙幕から逃げるのやかく乱で活躍していたらしい。

(忍者)





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