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マタギの孫をなめんなよ!【書籍化】  作者: ハーーナ殿下
【下界 イスラマ神聖皇国 大侵攻】の章

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123/204

91羽:第一次グラニス西部会戦 ☆地図有り

主人公の情報内での地図です

今後話が進んでいく内に情報量が増えていきます

測量技術が発展途上なので正確さに欠ける地図になります


挿絵(By みてみん)

東から朝日が昇り大地を照らす



大地の上には白いモヤが生き物のようにうねっている



この時期に朝霧はよく発生する



今朝もこの草原は濃い霧に覆われ、木の葉はしっとりと濡れていた



普段は静かな草原で、近隣の農民にたちに放牧地として利用されている場所だが、今朝の様子はいつもとは違っていた



馬が整然と並んでいた



馬は馬でも農夫が飼うようなものではなく、きらびやか馬鎧や鞍を着けた軍馬であった



太陽の昇る方に見える小さな丘の上には、その軍馬にまたがった白銀の鎧や盾を身につけた騎士や兵士たちが整然と並んでいる



騎兵や歩兵、弓兵など部隊を何個にも分けており、開戦の合図を今か今かと待ちわびていた





一方、反対側の西側には黄色く塗られた盾や鎧を着た軍勢が陣を構えていた



こちらは全体的に歩兵が多く、どちらかと言えば隊列も雑然としていて無駄な話し声も聞こえる



しかし、その目には燃えるような狂気が籠った炎が宿り、こちらも開戦の時を待つ



気付くと黄色い軍勢から歌が聞こえて来る



それはやがて合唱となり全軍に広がり、熱唱となって兵士達の士気を上げていく



イスラマ神聖皇国の戦歌である



ボルテージも最高潮になり前進のラッパの音が響き渡る



「進め!異教徒共を皆殺しにするのだ!!」



歩兵達は歓声をあげて、長い槍と盾を構えて進み出す



戦歌を唄い大軍が前進する度に大地が地震で揺れているようだった






いよいよ戦闘が始まった



その様子をオレはグラニス軍本陣の側面に広がる林の中から見ていた



オレの周りには同じように、森の戦士たちが弓矢を携えて息を潜めて隠れている



グラニス伯爵領西部の草原でいよいよ戦が始まっていた



しかし、オレたち森の戦士達は、序盤はこの林の中で待機となる



今すぐにでも駆けて行きたい衝動を抑え、オレは林の中から戦場を観察していた




見ると敵国である皇国軍は歩兵を中心とした陣形を組んでいた



横に歩兵の隊列を目一杯広げていて、数の有利さを利用して左右から包み込む作戦だろうか


敵の本陣はやや後方に待機していて動きはない



敵の前衛は大きな盾を密集して並べ、通常の倍以上もある長い槍を盾の隙間から突き出し、こちらのグラニス軍の攻撃を加えていた



現世の世界史をあまり詳しくなかった魔獣喰いは気付いていなかったが、これは密集隊形ファランクスという戦術だった



密集隊形により正面に対する防御と攻撃力を集中し、素人である農民兵でもある程度の効果を生み出していた



弱点としては兵足が遅くなる事と、左右からの攻撃に弱い事、応用力が低いことなどがあるが、その欠点を数の差でカバーしている戦術であった



「あの密集隊形の槍隊は厄介だな。機動力を生かして側面から攻撃するか、もしくは一点突破で穴を空けてそこから山蟻のように入り込むか・・・」



オレの後ろで同じように観察していた女戦士『黒豹の爪』クラウディア(仮)がそう呟く



戦士として超一流な彼女であるが指揮官としても優秀なのだ




一方、グラニス軍も弓矢の雨を降らせ、こちらも槍隊で応戦している



練度ではグラニス軍が上回り、兵数では皇国軍が勝っていた



今はお互いに一進一退、中央付近でぶつかり合い目が離せない様子だ



両軍とも後方の本陣に騎兵や正規兵の多くをまだ温存しており、様子見な時間帯なんだろう



それでも下界の軍団の兵数の規模は、森の戦士団の十倍以上ある



初めてみる下界の合戦の様子をオレは固唾を飲んで見守る



「もどかしいな、さっさと突撃してケリをつけたいな」



オレの横で同じように様子を見ていた『岩の矛』イワノフが、自慢の大矛をまだ振り回せずにイライラしていた



「下界には下界の戦のやり方があるからしょうがないさ。作戦通り指示が出るまでここで待機だ」



早く戦場に出たいのは岩の矛だけではなかった



林に潜む戦士達は自分を押し殺し、出番を今か今かと待ち続ける





しばらくして戦況が動く



数で圧倒する皇国軍の中央歩兵がジワジワとグラニス軍の歩兵を押している



このまま押し込まれては、陣形が乱れて敗走してしまう



グラニス軍の中央を預かるベテラン騎士と傭兵隊長は部下に後退の合図を出す



タイミングを見てグラニス軍歩兵は後退する



勝機とばかりにそれを追いかける皇国軍長槍部隊



重い大盾と長槍でその移動速度は遅いが、逃げる獲物を追いかけるように皆興奮している



この戦に勝ち異教徒共を皆殺しにし、自分達もこの豊かな国土の富を略奪し犯し奪う事を想いエネルギーにしているのだろう



決して後ろを顧みず、ひたすら前進して獲物を追いかける



そこへ、いつの間にか左右から回り込んでいたグラニス軍騎兵が突撃してくる



「石弓隊横へ!」




その動きを読んでいたのか、皇国マリオ軍団自慢の石弓隊が迎え撃つ



テコの原理で巻き上げられた弓から繰り出される矢は、弾丸のような速度で発射され騎兵達に襲い掛かる



石弓は連射能力が出来ないが欠点だが、その威力は金属鎧や盾さえ貫通し致命傷を与える



また、練度の低い農民兵でも比較的安定して命中させられる事ができ、マリオ軍はこの武器を改造し多く揃えていた



発射された矢によりグラニス軍の騎兵達が倒れていく



しかし、多くの者は見た事もないような形をした盾で、その石弓の矢を防いていた



(ん?何だあの盾は!?)



それは大森林に住む魔獣の皮を使った硬盾だ



この為に森の戦士からグラニス騎兵に貸し出されていたのだ



いつもの西部戦線の敵とは違い、この石弓の矢を物ともしない騎兵の突撃に混乱する皇国軍石弓隊と長槍隊



その間にグラニス軍中央歩兵隊は距離をとり陣形を整えていた






「思ったよりもやるではないか」



その様子を少し小高い丘に布陣していた本陣から見ていた、イスラマ神聖皇国第二法皇子マリオは呟く



「はい、相手も戦の経験が多いのでしょう。総合的な数は少ないものの、動きはこちらを上回っています」



マリオの側に控える女官騎士エマは冷静に観察し報告している



「あちらの例の隠し玉は・・・・・恐らくあの本陣の横にある林の中に隠しているのだろう。どんなヤツ等か分からないが、こちらもその誘いに乗ってみるか」



そう呟きマリオは指示を出す



・・・マリオは鋭い



その圧倒的な知識や、この世界に来てから実戦で培われる経験もあるが、とにかく『鼻』が利くのだ



相手の立場になり戦場を想像し、将棋のように何十手先も読んでいく



そして相手が一番嫌がる事を、ここ一番で仕掛けるのだ



「『聖女隊』も準備させておけ。その後にオレも出るぞ!」



殲滅皇子マリオの指示の元、皇国軍は忙しなく動き出す





朝霧が晴れてきた



ようやく戦場の全体像が見渡せる



草原中央の戦いは一進一退のまま膠着し、少数であるグラニス軍が徐々に後退している



グラニス軍は弓矢隊や騎兵の援護を受けながら後退している



皇国軍長槍隊も深い追いせずに着々と距離を詰めていた



しかし、勝気にはやった長槍兵は何時の間にか敵陣の深くまで進んでいた



見ると草原の左右に深い林が広がっている



しかし、林からここまでは距離もあり、例え伏兵があったとしても十分対応できる距離だ




「よし、今なのだ!」



そんな皇国軍の思いを他所に、グラニス軍の本陣にいた研究軍師セリーナの合図で動物の鳴き声マネが草原に響き渡る



その合図を待ってました、とばかりに左右の林から凄まじい勢いで矢の雨が皇国軍に降り注ぐ



(クソッ、マリオ殿下の言っていた通りだ。)



長槍隊の司令官は舌打ちし部下に指示する



「恐れるな!この距離だと大した致命傷にはならない!近づいてこちらも火矢で反撃しろ!」



しかし、林からの矢の威力は予想以上でこちらの歩兵の側部が削られていく



皇国軍も大盾でその矢を防ぎつつ、前回も使用した特製の火矢を林に放ち有害な煙で燻り出そうとする




「その攻撃は前回見ているぞ!」



大村の森林戦士団である鬼軍曹が大戦斧を構え叫ぶ



火矢が到達し煙が上がる前に、林の中から武器を手にした戦士出しが躍り出て突撃してくる



思い思い武器も統一されておらず、奇怪な雄叫びあげて向かって来る



その走る速度は武装した人間の足とは思えない程早く、こちらが身構える前に襲い掛かって来た



ドスン



人の紙の様に吹き飛ばされるというのはこの事だろうか



大戦斧に、大棍棒に、大矛に、大剣に皇国歩兵が吹き飛ばされ倒れていく



こちらも反撃しているが、その森の戦士の突撃を両面に受けた皇国の歩兵たちは一方的に攻撃を受けていた



森の戦士達は下界の人間より身体能力や戦闘能力が優れている



しかし、集団戦闘時はそれに甘んじる事無く、数人一組で班を作り、敵を取り囲んで殲滅する



これは普段から人知を超えた存在である獣や魔獣を集団で取り囲んで相手にしており、それにより阿吽の呼吸で連携攻撃を繰り出しているのだ





(このままでいけば、こちらの勝つのだ。でも、兄上にしては随分稚拙な戦術なのだ)



森の民の伏兵に呼応しるように、反転し皇国軍に反撃をしているグラニス軍の本陣の中で女軍師セリーナは思う



相手の数はまだまだ多い



しかし、このままこの本陣が相手の攻撃を受け止めて、左右から森の戦士達の攻撃が敵の司令官まで届いたらこちらの勝ちだ



(まだまだ油断は出来ないのだ)



そう思っていたその時、セリーナやグラニス軍の総大将であるレオンハルトがいる本陣の前方が何か騒がしい



(何かあったのか?前方には騎士団と傭兵団の精鋭を集めて防備を固めていたのだが)



その原因は直ぐに分かった



こちらの堅固な本隊前線が何者かに破られたのであった






(悪い夢を見ているようだ)



グラニス軍傭兵隊長はそう心の中で呟く



これまで一緒に戦ってきた傭兵仲間や兵士達が、相手の一振り一振りで命を刈られていたのだ




つい先ほど、こちらのグラニス軍の本陣の前衛の一か所が突破されたのだ



何個か策を練ったひとつに、敵さんは引っかかってくれた



今はオレたち傭兵隊と騎士隊で、相手の攻撃を受け流すのが仕事だ



長槍隊相手に結構骨が折れる仕事だが、オレたち傭兵隊は器用さがウリだ



このまま上手くここで持ち応えるたら、あの森の奴らが相手の司令官の首を獲ってくれるだろう



そうしたら憎たらしい皇国の長槍隊も壊滅して、こちらが圧倒的に有利になる




しかしそんな時、突如として現れたヤツに前線を破られた



(くそっ、騎士の奴らがドジったか)



オレは悪態をつきながら部下に指示を出し、その破られた穴を埋めようとする



しかし、その穴は埋まるどころか更に大きく決壊していた




(何だ、味方が全て跳ね返されているだと!?)



穴を空けたそのキリ先にいるのは敵の一人の剣士だった



右手には身長よりも大きな大剣をぶらりと片手で持ち、左手にはこちらの兵士の生首を何個もぶら下げていた



足元に倒れているまだ息のあるグラニスの騎士の頭を踵で踏み砕く



「異教徒共に死を!神に奉げる血をもっとぉぉお!!」



そう叫びながら、後ろの死角から斬りつけようとしてオレの部下を、見向きもせずにその大剣で横に真っ二つに切り裂く



(化け物か・・・・)



恐ろしい程の膂力りょくりょくに背筋が寒くなる



・・・・その顔に見覚えがあった



つい昨日見たばかりだ



いや、あまりの変わりように気付く事ができなかった




グラニス軍の本陣の堅牢な前線を切り裂いたのは、たった一人の『聖女』様だった









☆今回の戦場での戦術描写は、実際に中世であった戦記を元にしております。




この章は登場人物がいつもより多いので簡単な人物紹介も行います


【森の戦士団】

魔獣喰い:(下界名;マジウス)

主人公?17歳で森林弓兵の小隊長。知略が低いが毎回重要な会議に強制同席。歴史の勉強はあまり得意ではなかった。新たな転生者の出現に早くも影が薄くなる・・・いや、それは前からか。



研究軍師セリーナ:

下界人で森に住む女の子天才軍師。実はイスラマ神聖皇国の皇女。グラニス軍でも影の軍師として采配をふるう。



イケメン剣士:(下界名:セバスチャン)

魔獣喰いのかつての仲間。結構な剣の腕前で指揮能力もあり万能選手。器用貧乏にならないように育成したい



牛さん:(下界名:不明)

魔獣喰いのかつての仲間。無口な重量戦士。今回の戦いも大棍棒の名前だけで無口で参加。



坊ちゃん:(下界:不明)

魔獣喰いのかつての仲間。金の計算と弓が得意。今回は突撃には消極的で弓矢で援護中。



黒豹の爪:(下界名:クラウディア)

大砦の大剣女剣士で大隊長。統率力、個人戦闘力が高く軍略にも長けている。日焼け野獣系巨乳なので皇国軍の長槍兵も目のやり場に困る。魔獣喰いの側に結構いる



鬼軍曹:大村の城の戦斧筋肉戦士団長。前回は別行動で林の中で奇襲をかけたが読まれて失敗に終わりストレス溜まる。今回はうっぷん晴らしに大戦斧を振り周りして敵陣に突撃中



【グラニス軍】

青年騎士レオンハルト副伯爵:たくましく大きくなった成長率No1の騎士。元々イケメンだったので左ホオに傷跡が残っても絵になる。下界と森のハーフ。自信家。今は本陣でうずうずしている。



女騎士スザンナ:レオンハルトの護衛騎士で今はグラニス軍の近衛騎士を率いる。剣の腕間の他に統率力や内政力などの各種能力が成長。プライベートは真面目なドジっ子。金髪碧眼で着やせタイプで人気が高い。今は本陣でレオンハルトの護衛中。



ベテラン騎士:昔からグラニス家に仕える騎士。耐える守備力に定評がある。今回は歩兵隊を指揮し最前線で活躍していたらしい。



傭兵隊長:グラニス軍のお抱え傭兵隊を率いる。才能よりも経験値が物を言う歴戦の戦士。大陸中の噂話に通じる。今回もまさかの後半の語り手。死なないで欲しいです。



【イスラマ神聖皇国 第三軍】

第二法皇子マリオ:(殲滅皇子)(好色皇子)

神聖皇国の皇子で小さい頃から変わり者の奇人皇子。成人してから西部の辺境前線に飛ばされて連戦連勝。女の子好き。研究軍師セリーナお兄ちゃん。なんと現代からの転生者。軍略マニアで化学も得意な天才である意味もう主人公。弱兵しかいない皇国兵を、現世の歴史から知識を引用し、長槍隊や石弓隊、工作兵で強化した私兵を抱える。まだまだ余裕がある。



女官騎士エマ:マリオ殿下の幼い頃からの教育係りの女騎士。能力に弱点がない騎士で体型も無駄がないスレンダー型。通称『秘書騎士』。怪しんでいるが、マリオが転生者だという事には気付いていない。



聖女エレナ様:身長はそんなに大きくない童顔の少女。天の声を聞き勇気を出し前線に出る。小動物系。


だったが、実は戦闘で変身してしまう。みんな逃げて・・・・





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