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マタギの孫をなめんなよ!【書籍化】  作者: ハーーナ殿下
【下界 イスラマ神聖皇国 大侵攻】の章

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120/204

88羽:森の軍勢 下界に出る

夜明けと共に敵の攻撃が再開される



守るこちら側は高い壁に取り囲まれた砦の中に籠、城壁上から弓矢や投石で向かい撃つ



上からの攻撃に狙いを定めずとも、密集した敵は面白いように倒れていく



しかし、下から攻める敵はその数倍の弓矢と投石機から繰り出す猛攻で、城壁の上の守備兵を倍以上のペースで殺している



普通なら攻城戦は守る方が圧倒的に有利なはずなのだが、この場合は兵力に数倍の差がある為にその原理は無視されていた



堅牢な砦の周りも蟻の這はい出る隙間もないほど取り囲まれ、落城するのも時間の問題であった



(一応隠し通路で逃げる事も出来るが果たした上手くいくかどうか・・・・)



守備隊長であるベール王国の騎士はその光景を見ながら、折れそうになる自分の心と部下達に喝を入れる



こんな圧倒的な状況で普通ならば守備側の兵士達は降伏をして投降する



降伏して捕虜になっても、命は自国が払う身代金で安全に買えるのだが、今回は守備側の兵士の顔も全員必死で反撃している



正に死ぬ気でこの砦を死守している



それもその筈、この砦の前に落とされた前線の砦は早々に降伏したものの、降伏した全員が斬首と火あぶりなどの刑に合い全員虐殺されたのだったから



更に道中の街道沿いの村々や小さな町もこの侵略者共に蹂躙され、家々は金目の物を全て奪われた後に村ごと焼き払われているという話だ



逃げ遅れた村の女たちは獣と化した兵士たちに犯され、老人や男どもは全員皆殺し、小さい子供や高い値段で売れる女は奴隷としてヤツ等の本国に連れ去られていた



丹精込めて育てた穀物畑も成長途中のまま、ヤツ等は火を放ち焼き払い焦土と化している



民を皆殺しに土地を焼くのであれば、この土地を占領したとしてもこの年の収穫を得る事は見込めない



それらの様子は知恵を持たないイナゴが、自分の欲望に飲み込まれて喰い進む様子にも似ていた



この時代で戦ではある程度の略奪行為はどの国も行っていたが、ヤツ等の行為は他国の人間を人とも思わない行為だ



大きな動物が蟻を踏み潰すのに罪悪感がないように、ヤツ等にとって異教徒はとその程度の存在なのだろう



今もこの砦を攻撃してくるヤツ等は、自分たちの信じる神を称える不気味な戦歌を歌いながら城壁をハシゴを使いよじ登って来る



守備兵も敵に上から矢を射り石を投げつけ、城壁の上に取り付かれないように必死で撃ち落す



援軍も無く降伏も出来なく、この砦の攻防で勝てる見込みがない



それなら一人でも多くの敵の道連れにしてこの後の戦いを有利にする



そんな思いでこちら側の守備兵たちは戦っていた



実際、敵は練度も低く装備も貧弱な農民歩兵が中心達だったが、その死をも恐れぬ士気の高さは守る側としてはやりにくい相手である



戦とは兵の数の差もあるが、最終的にはいかに相手の士気を無くして退却させるのが勝機となる



最後の矢を使い果たし、守備隊長は砦から少し離れた所を通る街道を見た



この砦を無視して、更に奥地にあるベール王国の王都を目指す敵の本軍が見えた



信じられない程の大軍勢だ



(やれやれ、奴さんたちはこんな非生産な戦を起こして何が目的なんだ・・・・)



この大陸で最大の大国であるイスラマ神聖皇国の大軍勢によって、ベール王国の国土が蹂躙されたいたのであった






『イスラマ神聖皇国の大軍勢が侵攻した』



時間差はあれども、この情報は大陸各地に瞬時に広まった



超大国とまではいかないにしろ、大陸である意味一番規模の大きい大国が突如侵攻を始めたのだ



平時は少し押しつけがましい宗教を母体とする国家であるが、ここまで他国に対して本格的に侵略をしたのはこれまでになかった



形だけの使者が戦の前に、近隣諸国を訪れ宣戦布告はしていたものの、


『我がイスラマ神聖皇国の皇都が異教徒の操る獣の集団によって多大なる被害を被った。即刻その操っていた当事者を引き渡せ。さもなくば、武力を持ってその皇国民の流された血を補う』


という半ば言い掛かりのような宣戦布告であった



実際に皇都に潜ませていた情報役によると、皇都にも魔獣の群れが突如現れた国民に被害が多数出てという事だった



しかし、それは宣戦布告をされた隣国のベール王国やヴェルネア帝国も同じであり、正に難くせをつけた侵略行為であった



イスラマ神聖皇国軍は招集に時間のかかる農民兵が中心で、しかも今回は大軍ということもあり、本隊が到着するまでには時間の余裕はまだあった



しかし、事前に出兵準備をしていたかのように、正規兵と一部の徴兵された兵士たちの先発隊は、既にベール王国とヴェルネア帝国の各国境付近の砦や村々を落とし進軍していた



異教徒狩りとも言えるその略奪行為は、報告してくる偵察兵の話に耳を塞ぎたくなるような残虐さだ



ベール王国とヴェルネア帝国も黙って侵攻を受けていた訳ではない



領内の諸侯たちに出陣の命を出し、有効関係にある隣国に援軍の要請を出し、全力を持って迎え撃つ準備を進めていたのであった






そんな情勢の中、オレ達の森の部族にもベール王国から援軍の要請があった



実際にはその前に下界の諜報員から足の速い連絡鳥によるイスラマ神聖皇国の侵攻の情報が来ていた



大村の城ですぐさま会議を開き、各砦に連絡を送り援軍を出す準備をする



情報によると、敵であるイスラマ神聖皇国の大軍勢は、ベール王都を目指す本軍の他に、部隊を何個かに分けて同時進軍しているという



その別働隊が大森林と接するグラニス伯都を目指しており、そこを抜かれたらオレ達の直轄地であるザクソンの宿場街とその周辺領地も敵軍に占領されてしまうのだ



そのまま、この森の中まで進軍して来るとは思えないが、義を尊ぶ森の民は援軍を出す事をすぐに決断する



作戦として今回はオレたち森の民は、グラニス伯爵軍と合流して敵の部隊を迎撃するのが任務となった


いくら森の戦士達が優れているといっても、下界の戦の兵数は桁が違う



周りの軍と連携を取り慎重に対応しなければいけないのだ



そんな中、オレは出陣の準備を整えて戦士団と共に大村を出発し、下界と大森林の境目にある『倉庫砦』を目指していた



そこは元々が下界との交易の為に作られた森の中の倉庫だ



唯一正式に下界につながる場所に作られた物資倉庫であったが、ここ数年で下界の情勢に対応するために砦化されていた



一本道で両側は険しい断崖



ここを抜かないと下界から大村の城にはたどり着けないよう、大規模な天然の要塞と化していた




その『倉庫砦』に到着すると、大村の戦士団を始め大砦や近隣の村や砦から集められ戦士や精霊神官たちが大集結していた



大村からは鬼軍曹こと戦士団長に率いられた戦士団と精霊神官たち



大砦からは女戦士『黒豹の爪』に率いられた強者どもが集まっていた



それ以外にも各砦から戦士団が続々と集まり、『倉庫砦』はこれまで見た事もないような数の森の戦士達でごった返していた



ちなみに、魔獣や魔素に対して守りも固める為に、獅子王様は大村の城に残り、各砦も半数以上の戦士は防衛の為に残してきている



そう言えば、大砦の総司令官である白猫姫様は、数か月前に修業に出たまま帰って来ておらず行方不明でこの場にいないのが少し寂しい



面倒くさがりの彼女だが、一度戦場に立ったなら戦鬼のような働きで敵を切り裂く達人だ



それでも情報によると、妹である剣鬼の獅子姫ちゃんはベール王国の本軍の傭兵として参戦するだろうという話だった



我が強く扱い辛い彼女たちだが、同じ戦場にいるというだけで味方には安心感がある





そんな中、倉庫砦でオレは懐かしい顔ぶれに久しぶりに会えた



オレがまだ戦士訓練生の時に一緒に組んでいた、イケメン剣士『清流の刃』、その相棒で無口な大棍使い『荒き牛』、そして有力な部族の生まれの弓使い『坊ちゃん』の三人だった



話を聞くと、イケメン剣士と牛さんは相変わらず腐れ縁で、二人とも同じ小さな砦に所属しており、獣や魔獣相手に腕を磨いていたという



元々才能があったイケメン剣士はそこでは小隊長の任に着き、部下を指揮しながら相変わらずの剣の腕を発揮しているという



数年ぶりに会うが、二人とも体が大きくたくましい成長しており、その立ち振る舞いから剣や棍の腕も格段に上達しているのがうかがえた



一方生まれが良く商才があった『坊ちゃん』は、この倉庫砦と下界のザクソンの宿場街の交易の担当者の一人となり出世していた



何でもザクソンの宿場村時代の酒場の女将の娘と今は結婚して、往復しながら下界人としても生活もしているという



何とも羨ましい限りだが、弓の訓練は毎日欠かしておらず狩りの腕前も昔に比べて上達しているようだった



とにかく森の戦士が勢揃いした倉庫砦で、オレたちは同窓会のような懐かしい雰囲気になる



「それにしても、みんな立派に成長して小隊長になったり、下界人のお嫁さんを貰って交易部門の管理を任されたり出世したもんだな」



オレは懐かしい仲間たちと出陣の時間までの空いた時間で、昔話に華を咲かせる



「それを言ったら班長が一番の出世頭だな。何しろ大森林の精鋭が集まる大砦、その若さにして小隊長に任命され、更に大活躍だからな。昔から思っていた通り、班長は何か運命の星を持っているのかもしれないな」



そう言ってくれるのは、昔から情報通なイケメン剣士だ



今もイケメンだが未だ独身という事でオレは共感が持てる



しかもオレを褒めてくれる最高の仲間だ



「班長は前から強かった・・・」



相変わらず無口な牛さんもオレを褒めてくれる



しかし、牛さんは年上のセクシーな嫁さんを見つけたらしいので少し許せない



「そうですよ。今や大砦の『魔獣喰い』小隊長といえば大森林中に名の知れた大戦士です。昔同じ組にいた事は僕の自慢話です。でも、班長が結婚しないのは、言い寄る女の子達を選んでいるからじゃないですか?」



そう言うのは下界と倉庫砦の往復の生活をしている『坊ちゃん』だが、明らか昔より小太りになっている



噂では宿場街の嫁さんが年下で可愛い、更に料理上手という事なので明らかに幸せ太りであろう



やはりキレナイな嫁さんを貰った奴は許せん



(そうは言われても、こんなオレに言いよってくれる可愛い女の子なんていたかな。大砦の周りは村も無くむさ苦しい戦士たちと魔獣しかいない悲しい職場だしな・・・・)



戦いに明け暮れた数年魔・・・・そんな事を考えていると少し寂しくなる



(よし、この戦が終わったら職場移動のお願いでも出してみよう)



(出来れば若い女の子が住む村の近くがいい)



そんな事を考えつつ話している間に、いよいよ大森林から下界に出陣する日となる





何度も言うようだが、オレたち森の民は下界には気軽には出られない



これは森の精霊の加護の副作用である『呪い』が発動する為だ



その呪いを無効化する為に、今回も大森林中から多くの精霊神官たちが急ぎ集まってくれていた



更に今回初めての試みだが、研究軍師であるセリーナが開発した『拡張精霊石』を使用するという



魔素を浄化した後に残る聖なる石『精霊石』を改造した拡張石



それを能力のある精霊神官との術と併用する事により、今回のような大人数の下界行きでも滞在期間が大幅に伸びるという便利な道具だ



しかし、前に言った通り精霊石は非常に貴重な石なのでホイホイとこの術を使えないのが難点だという



ちなみにオレは精霊神官ちゃんが契約を行った為に前よりは少し長く下界に居られるという



何故か下界に行く時、オレは重石のように扱われる・・・



「さあ、行くぞ!」



深夜の森の中に前進の掛け声がよく響く



敵国であるイスラマ神聖皇国を迎撃する為に、オレたち森の戦士たちはかつてない程の大人数で森を静かに出て行くのであった







この章は登場人物がいつもより多いので簡単な人物紹介も行います


魔獣喰い:一応主人公?17歳で森林弓兵に分類される小隊長。本人は気付いてないが結構名が知られている


研究軍師セリーナ:下界人であり幼女であり森に住む天才変人研究者。剣の腕前は微妙



イケメン剣士:魔獣喰いのかつての仲間で久しぶりに登場。技巧派で結構な剣の腕前。指揮能力が昔に比べ成長している



牛さん:魔獣喰いのかつての仲間で久しぶりに登場。鈍重だが大型戦士で大棍を使う。無口で陰が薄い上にイワノフ氏と見た目が被っている



坊ちゃん:魔獣喰いのかつての仲間で久しぶりに登場。弓と努力の才能の小太り男。常に敵に狙われるので要注意



黒豹の爪:大砦の大剣を使う女剣士で大隊長。指揮能力が高いので今回のような下界遠征に欠かせない。日焼け野獣系巨乳



鬼軍曹:大村の城の戦士団長。いつもは大村にいるが今回下界戦に参加。戦斧と盾を使う歴戦の戦士。実は昔『流れる風』と下界を旅していた経験がある



序盤の守備隊長:人気があれば再登場もあるかも・・・・


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