11羽:戦士 《流れる風》その1.
「せっかく村でノンビリしようと思っていたのに、相変わらず人使いの荒いジイさんだぜ」
大森林の辺境を踏破する長旅から戻って来た戦士《流れる風》は生まれ故郷の村に戻り、落ち着く間もなく村長に呼ばれそんな愚痴をこぼしながら屋敷へ行く。
村長の屋敷といっても丸太を組み合わせて作った簡素な家で、《流れる風》が以前“下界”で見た王侯貴族や大商人の屋敷に比べたら月とスッポンだ。
それでもこの村の中では一番大きい建物であり、昔から村人からは“屋敷”と呼ばれていた。
ここの大広間で食事時となれば村人全員で飯を食い、また他の村から来客があれば宴を催し持て成したりもする。
(更にはオレもガキの頃は悪さをした時に、ここのジイさんに真っ暗な納屋によく閉じ込められたりもしたな・・・)
そんな懐かしい事を思い出しながら、《流れる風》は村長の待ついつもの部屋へ向かう。
「面白い子がおる」
《流れる風》が部屋に入るなり、開口一番で村長のジイさんはそんな事を言ってくる。
「面白いガキだと?」
ジイさんの話では、数日前に狩りから帰って来た狩組の中で、まだ幼い子供が森鹿を含む獣を数匹狩ってきたという。どれも見事にまでに一撃で獣の“心の臓”を射止めており、一緒に同伴した大人達も信じられという話だった。
気になった村長がその子供を村の精霊神官に見せたところ、『“森徒”の才能がもしかしたらあるかもしれん』という事だった。
「あの精霊神官のバアさんはまだ生きていたのか。全く一体何歳になるんだか・・・」
《流れる風》は村長の話を聞きながらそんな事を呟く。
そして今度は《流れる風》たちの狩りに同伴させて、その“真意”を見極めて欲しいとの事だった。
「ふうん、“森徒”候補ね・・・」
《流れる風》は半信半疑でその話を終始聞く。
今までも《流れる風》は色々な村で“森徒の才能が有るかもしれない”と言われた子供を見せられてきた。だがそれらへ全て“ハズレ”であった。
確かに剣や弓・精霊術など才能は他の子供より優れていた子供たちではあった。だが、それでもそいつらは全員“人”の領域は越えてはいなかった。
(この大森林に何十年か何百年かに一人だけ産まれるか生まれないかという話の“森徒”が、こんな辺境の小さな村にいたとは信じられん話だ・・・・)
これまで半信半疑で希望を持たずに現実的に生きて来た《流れる風》は、面倒臭そうな表情を隠そうともせずに村長の話を最後まで聞く。
「ジイさん。万が一そのガキが“森徒”だとしても、オレの鍛え方は半端なく厳しい・・・もしかしたら潰してしまうかもしれないぞ」
最後まで村長の話を聞き終えた《流れる風》は真剣な顔付きでそう問い掛ける。
「お前の好きにせい」
年配の村長はそう呟き、シワを寄せ小さな瞳でニヤリと笑う。
「相変わらず食えないジジイだな」
「ホッホッホ、食うのは獣だけで十分じゃ」
そんな村長のお墨付きも貰い戦士《流れる風》は屋敷を後にした。
・・・・・・
(さて、どんなガキが来るのやら・・・)
翌朝、《流れる風》は連日狩りで驚異的な結果を出す村の子供を呼び出し、同じ狩組に入れる事にした。
今回の任務は隣村の近くに凶暴な“赤熊”が現れ暴れており、救援に向かいそれを退治するという内容だ。隣村は昔から男手が少なく今回もその隙を狙われたのかもしれない。
「どうも皆さんよろしくお願いします」
違う狩組に編入されると呼び出された子供が挨拶をしながら近づいて来た。突然の事で何事かと状況が掴めずキョトンとしている。
(こいつが本当に“森徒”の可能性があるガキなのか・・・)
実際にその子供を目の前にして、《流れる風》の疑惑は更に強まる。
パッと見は目立たない普通の七歳位くらいのガキだ。
同じ狩組の《岩の盾》のガキも同じ位の歳だが、それに比べても細く小さい。たまにこの村に里帰りはする《流れる風》だが、村の住人に“こんなヤツいたか?”というのが正直な感想だった。
身体は大きく無く、目つきもオドオドしていて覇気がない。
(これは“ハズれ”だな・・・)
これまで他の村での“森徒かもしれない”と言われて見に行った子供たちは、どれも体格が他より大き更には目つきは鋭く覇気があった。それでも実際には“人の域”を超えてはおらずハズレだったのだ。
(弱いフリをしているのか、もしくは本当か・・・まぁいい・・・オレの前では誤魔化しは出来ない。とにかく今回の狩りでハッキリする・・・・)
《流れる風》はそう心の中で思いながら、もたもたするその子供に声をかけ、赤熊退治に出かける。




