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マタギの孫をなめんなよ!【書籍化】  作者: ハーーナ殿下
【下界 ヴェルネア帝国 帝都】の章

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115/204

86羽:帝国からの帰国路



地平線から昇った太陽の光が街並を照らす



はるか昔から繰り返され、これからも未来永劫変わらない朝の光景だ



しかし、その朝日に照らされた街並みの様子は昨日までとはうって変わっていた



街中の各地に散乱した建物の瓦礫や、火事で焼け落ちた家の焼け跡が無残にも転がっていた



被害にあった者は日が昇る前から片付けや生存者の確認に明け暮れ、家や家族を失った者たちは焦燥感に打ちひしがれ悲しみに暮れる



帝都を守る近衛師団の兵士達も復旧作業に協力はしているが、彼らも昨夜の騒ぎで皆傷つき疲労していた



街の各地で役人が被害状況を調査しているが、市民から保障や事情説明を受けても、彼らのその対応も事務的で冷めている



『何故こんなことに・・・・』



『一体誰のせいであの子は死んだのだ・・・』



悲しみに打ちひしがれていた市民は時間が経つにつれ、それを憎しみに変えてしまう



復旧作業をしながら、犯人を捜すようにその原因を作った者の情報が広がる



これが人間相手で、敵国の兵士によって家族が殺されたのなら話は分かりやすい



『家族の血には敵国の血を持って』



帝国の民は帝国軍の侵略に大きな声で推進するだろう



しかし、今回は未知の生物『魔獣』が自分たちの家族や仲間を喰い殺している



しかも、その姿や死体は昨夜こつ然と姿を消していた



『王宮で貴族たちが何かしていたのではないか!?』



その憎悪の矛先は王宮にまで向いていた





朝日を浴びる頃、オレ達は帝都を後にしていた



帝都に来た時と同じように、マデレーン王女の乗った王家の馬車を中心に隊列を組み母国のある東へ街道を進む



昨日の夜におきた魔素と魔獣の突然の出現



その騒動も何とか終わり、夜が明けないまま闇夜に紛れて帝都を後にした



来た時よりは少し人数は減っている



数人のベール王国の文官と騎士は、帝国と今後の正式な休戦条約の締結の為に残してきた



昨夜の魔獣や内乱兵との戦いで王国兵にも怪我人や死者も出ており、本当ならばもう少し帝都にゆっくり滞在したかったが、そうも言ってはいられなくなった



これはオレ達森の民が下界に居られる時間が残り少ない事と、帝都の住民の怒りの矛先がオレ達に向かないようにする為だ



本来ならば、今回の騒動はオレ達が原因ではないのだが、先日まで敵対していた隣国の使節団が滞在する屋敷の上に、昨夜の元凶であろう『魔素』が現れたのを見た住民も多い



オレ達森の民の正体はバレてはいない



しかし、魔獣の住処である大森林の部族のオレ達が変装し同行していた事実も正直まずかった



『敵対国のベール王国の奴らが魔の森の呪い師を連れ込み、魔獣を召喚して帝都を混乱に陥らせた』



と帝都に残ったままだと言及されても、反論が難しい



まあ、実際に精霊神官様たちは森の呪い師みたいなものなのだが・・・



そこでヴェルネア帝国第一皇太子とネロ殿下の知恵で、オレ達使節団は闇夜に紛れて帰国の帰路についていた



帝都は昨夜の大騒動で今後はどうなるのだろう・・・



その辺も、皇太子殿下たちはシナリオを決めていたらしく、今回の首謀者の第二皇子アグルに全ての罪を被ってもらい、帝都国民の怒りの矛先を全て彼に受け持ってもらうという



今回はアグルの乱心した姿の目撃者が多かった事も証拠となった



また彼の帝都の屋敷から、怪しい呪いの道具や生贄に為にさらわれた来たであろう娘たちの遺体が、昨夜の調査で見つかっていた



恐らく下界に魔素や魔獣を呼び出す為には、色々な条件や儀式が必要であったようだ



その多くの証拠で帝国に対する反乱罪と、次期皇帝である皇太子殿下暗殺首謀者の罪で、いかに彼が王族であっても死刑は免れないという



『恐らくは帝都の大広場で公開処刑になるだろう・・・』



こういう意味で帝国では、たとえ貴族や王族でも国に逆らう者への処分は容赦なく行うという



これにより帝都国民の怒りの矛先は第二皇子アグルに向かい、その後の復興作業もなんとか進んでいくだろうという話だ



それにしてもドタバタでの帝都からの出発だ



全員に魔獣や城門前での戦いの傷や疲れもあったが、それも癒せないままの旅となる



取り敢えず、帝都の近くにある『弓公子』アベルの実家の公爵領の別荘に行く事になった



ここで世話になり傷と疲れを癒す事となった



『弓公子』アベルはどうやら大貴族の生まれらしい



その領地にある別荘の屋敷は規格外に豪華で大きい



聞いた話では王家とも親戚関係にあり小国並の領地や財産・常備軍を保持しているという



そういえば、彼の身のこなしには気品もあり、眉目秀麗な顔立ちはどことなく王家の皇子たちにも似ている



そんな彼と彼の家臣に暑い待遇を受け、湖に畔にあるその別荘で疲れと傷を癒す



同行した精霊神官の持つ秘薬と精霊術で皆傷の治りも格段に早い



数日後には出発出来る程に皆回復していた



こうして、アベルの実家の保養所で補給も行い、オレ達はヴェルネア帝国とベール王国との国境線まで到着した





「イワノフ、次に会う時は戦場で刃を合わせる事を願っているぞ」



オレ達を帰りの国境まで警護してくれた、東部方面軍司令官『赤髪』ガエルは森の戦士『岩の矛』ことイワノフにそう言い放つ



「オレも魔獣ばかりを相手にして飽きてくる。今度はお前のその大剣とオレの大矛、どちらが上か勝負だな」



『岩の矛』の奴もそう言い放ち、別れを告げる



「そうだな、それは楽しみだな。あと、オレも暇になったらお前らのいる『大砦』とやらにも遊びに行くから、約束どおり美味い酒と料理を用意しておいてくれ」



いつの間にかそんな約束をしていたのだろう



『赤髪』ガエルは少し笑みを浮かべている



「森の戦士たちの歓迎が荒いぞ。期待しないで待って楽しみにしている」



『岩の矛』もそう言い、笑みを浮かべる



(最初会った時は険悪な感じの二人だったけど、意外と似た者同士なのかもしれないな・・・オレもああいう男臭いのは嫌いではないけど)



その二人のやり取りをオレはそんな事を考えながら見ていた



オレたちの後ろの国境線の役割をするこの小川を越えたら帝国の皆とはここでおさらばだ



その二人以外にも、ベール王国の近衛騎士や兵士、森の戦士とヴェルネア帝国『赤髪隊』の騎士兵士達も皆別れを惜しんでいた



共に協力し死地を乗り越えた経験もあってか、戦士達は一晩でお互いの事を認め合っていた



『次に会う時は戦場かもしれない』



しかし、今はこの戦士達の間に育まれた熱い関係に、偽りはないのだ




「マジウス」



そんな風に黄昏れていたオレに、後ろから話しかけて来る騎士がいた



帝国軍弓の達人『弓公子』アベルだ



馬をオレの近くまで寄せて来る



「あの帝都にいた女弓使いだが・・・実はヤツの持っていた長弓に見覚えがある。


オレの実家の書庫であった『大陸冒険記』に書いてあったはずだ


あれは伝説の弓の達人『聖弓アルケミス』の使っていた弓の模写に酷似していた・・・・


年齢的にも、もうこの世には生きていない人物で、その弓の所在も今は行方も不明とされていたが・・・


とにかく、私はこの後、帝都に戻り調査する。何かあったら私の手の者をお前たちのザクソンの村に連絡に送り報告する」



アベルはそう小声でオレに教えてくれた



そう言えば、あの時にあの女弓士の持っていた長弓を見てアベルはかなり驚いていた



話から推測すると、恐らくはこの世界の伝説の武具みたいな物なのだろう



確かに凄まじい『弓』で、人間の武器の範疇を越えていた



あれが武器の力なのか、ヤツ等の能力なのかは分からない



前回の不思議な技を使う槍使いといい、弓使いといい何を目的にしているのか・・・



オレも少し調べてみようかなと思う



こうして、オレ達は長かったヴェルネア帝国への旅を終え、自分たちの故郷へと帰る



自領地に入ってからでも、野盗などに対する警戒網を広げながら、森の部族の下界都市であるザクソンの宿場街を目指す



何日前に既に早馬を走らせていたので、オレ達の帰国は街にいる駐留軍にも知られているだろう



みんな長旅で疲れているので、帰ったらゆっくり例の温泉でも入り疲れを癒したいものだ





オレ達の前方にザクソンの宿場街がようやく見えてきた



周囲を木製の城壁に囲まれ等間隔で高い見張り台もあり、ちょっとした城塞都市の様に進化していた



予想外に交易で財が集まり街の大きくなってきている



街からは鍛冶場や生活の煙が空高く上がっている



ここは閉ざされた世界である大森林の特産品と、下界の品物を取引する出島のような街であり、年中大陸中から多くの商団が集まり活気がある



異国の料理も出す酒場の出来たという噂もあるので、今度食べに行ってみよう



(あれ? 街の何か様子が変だぞ・・・・騒がしいというか、混雑しているというか・・・)



上手く説明出来ないが、オレが見える街全体を包むオーラの様子がすこしおかしい



そんな中、見張り台からオレ達が近づいて来るのに見えたのか、街の防衛隊の騎兵が数騎こちら駆けて来る



その様子はオレ達を歓迎するというよりは、偵察に来た斥候騎兵のような感じもする



(やはり何かあったのか!?)



見た事のある指揮官に率いられて近くまで来た



向こうも近付くにつれて、オレ達がヴェルネア帝国に向かった使節団だと気付いたのか、それでもやや警戒しながらも近づいて来た



「止まれ、ここにおられるのはベール王国マデレーン王女様であるぞ。」



姫を警護する近衛騎士ヘルマンは、近づいて来る騎兵を手前で止まるよう指示する



「失礼しました。皆様お帰りなさいませ!


しかし、今は至急お伝えしたい事があり急ぎ参りました。


ベール王国王都と大森林の大村が何者かの襲撃を受けました!皆様、至急それぞれの国へお戻りください!」



その騎兵の口から出た言葉は、オレの温泉気分を吹き飛ばすとんでも内容だった






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