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マタギの孫をなめんなよ!【書籍化】  作者: ハーーナ殿下
【下界 ヴェルネア帝国 帝都】の章

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84羽:魔獣を越えた戦士たち

突然の『魔素』の出現に屋敷内は混乱していた



近くにいるだけで恐怖感や嫌悪感を感じる魔素



帝都全体が混乱していたと言っても過言ではない



「急げ!用意してあった武具の準備を至急行い、陣形を組め!王女と殿下達から目を離すな!」



オレは森から連れて来た部下に、指示を出しながら周りを警戒する



「マジウス、『アレ』は一体何だ!?」



初めて見る魔素に驚きつつもオレと同じく帝国兵の部下に指示を出しているネロ殿下が聞いてくる



「アレは『魔素』と言います。本来はオレたちの住む大森林にしか出現しないモノなんですけど・・・」



魔素の事を口で説明する事は難しい



ネロ殿下も直感的にあの魔素が危険なモノだという事を察し警戒している



(まさか、いきなり『魔素』が出てくるとは!森から自分たちの武具も一応持って来ていたけど、この展開は予想もしていなかった・・・・そして、魔素が出るという事はアレも出るのか・・・・)




「魔獣だ!!」




オレがそう考えていた瞬間、屋敷の周囲を警戒していた部下から警戒の叫び声があがる



(くそっ、やっぱり魔獣が出てくるよな!まさかこんな大都市のど真ん中に魔獣が出て来るとはな。これも第二皇子アグルが引き起こした事なのか!?)



オレは部下の警戒を聞きながら屋敷内の状況を確認する



「戦士達よ、対魔獣の陣形を組め!相手は何処から湧いて来るか分からないぞ。油断はするな!」



オレはもう一度部下に指示を出し、屋敷にいた者達に守りやすい大ホールに集める





帝都各地で『魔獣』が暴れている



突然湧き出した魔獣は通りに出て魔素を見物していた市民の体を、その鋭い爪牙で切り裂き噛み殺す



魔獣は基本的に森に住む動物が一回り以上大型化した凶暴な獣だ



しかし、その爪牙は奇形のように鋭く大きく肥大し、体の体毛や皮の変色している



その異形さは初めて見るものにさえ生理的な恐怖感と絶望感を与える死の使者だ



武器を持たぬ住民たちは、ただ逃げ惑い屋内に隠れる



しかし、人間の匂いを嗅ぎ分けた魔獣はその粗末な扉を簡単に打ち破り、建物内に侵入し襲い掛かる



また、自前の武具で反撃しようとする住民たちもいたが、魔獣のその皮膚は硬く分厚い



素人の槍など物ともせずに魔獣達は帝都を蹂躙している



帝都を守る警備兵も善戦はしているが、初めて対峙する魔獣に苦戦をしている



まさに阿鼻叫喚の様子が街全体に広がっていた





オレは愛用の弓矢を構え、屋根の上を乗り越えて来た猫科の魔獣を射る



複合長弓から放たれた特製の矢は、その魔獣の脚部に当たり地面に叩き落とす



森の部族と帝国兵が連携し、落ちて来た魔獣を包囲し狩る



帝都各地に湧き出し惨殺を繰り返している魔獣たちだが、その行動は一貫性があるように感じる



どうやら魔獣はオレ達を目指して移動して来ているようだ



時間が経つにつれ襲い掛かってくる魔獣の数が段々と増えて来る



(クソッ、オレ達だけなら何と逃げ切れそうだが、皇太子と姫様たちを守りながらだとキツイな・・・護衛の帝国兵士やベール王国の騎士も、魔獣相手には戦い慣れていないから長期戦になったら厳しいな・・・)



オレはまた現れた魔獣に矢を射りながら、兵士たちが戦っている様子を察する



「魔獣は普通の剣や槍は通じにくい!打撃武器や大盾を持った者を中心に、必ず数人一組で相手をするんだ!」



オレは苦戦をしている下界の兵士たちに声をかけ、士気を高める




・・・・裏道に詳しいネロ殿下の案内の元、オレたちは帝都城を目指して移動している



本当は帝都各地で住民を惨殺している魔獣達を、一刻も早く駆逐したい



しかし、次期皇帝とされる皇太子とベール王国の王女、この要人の二人をとにかく安全な城の城壁の中まで避難させることが最優先であった



敵の目的が情報通りなら、この二人が今回騒ぎのターゲットであるのは間違いないだろう



とにかく精鋭帝国中央軍のいる城の中に逃げ込んだなら、取り敢えずはひと安心という事だった




二人の要人を中心に陣形を組み、襲い掛かる魔獣を倒しながら裏路地を駆け抜ける



オレ達森の戦士、ベール王国の騎士と兵士、帝国軍騎と兵士



この三カ国の戦士達がこの場では必死に連携し、協力し合いながら目的地を目指していた



武器が通じにくい凶暴な魔獣を相手に、兵士達の疲労感も蓄積し苦戦している





そんな中、魔獣相手に獅子奮迅の活躍をしている者達もいた





・・・愛用の大矛と大盾使い、次々と魔獣を狩っている巨漢の戦士『岩の矛』


やはりその実力は今回の森の戦士の中では突き抜けている


オレが小さい頃に見た彼の父親と同じように、普通の人間なら数人がかりの力が必要とされる魔獣の攻撃を一人盾で受け止め、そのまま相手の姿勢を盾で崩す


そして大矛の一撃は魔獣の硬皮の弱い部分を切り裂き致命傷を与えている


その動きに一切の無駄は無く、彼のこれまで森での経験がどれ程かと強く思わせる






・・・冷静な表情の下に狂気の笑顔を浮かべ、魔獣の硬皮を切り裂いている『聖騎士』ヘルマン・フォン・ゼルツ


左手の盾を使い魔獣の攻撃を受け流し、右手の剣で魔獣の顔の急所や足の腱を狙い切り裂く


『聖騎士』呼ばれる普段の礼儀正しい騎士の剣捌きではなく、彼本来の荒々しい狂気の剣が凄まじい速度と威力を繰り出している


以前一緒に森の中を旅した時に、魔獣との戦い方を教えた事はあったが、そのアドバイスだけでここまで魔獣と戦える彼の戦いのセンスは、やはりずば抜けていた






・・・その手に持った長く分厚い大剣で、対峙する魔獣を叩き切り殺している銀髪の偉丈夫『赤髪』ガエル・ド・リオンヌ


以前、帝国の侵略を夜襲で追い返した時、こちら側の女戦士『黒豹爪』と激闘を繰り広げた赤髪だったが、その時に持って剣よりも更に長く分厚い大剣を今は振り回している


単純な力だけではこの大剣は使いこなせないだろう


本来は分厚い皮下脂肪と硬皮で覆われ斬りにくい魔獣を、まるで豆腐でも切るような見事な剣技で叩き斬っていた


噂に聞いていた強敵『魔獣』と対峙した嬉しさに顔には笑みが浮かび、その銀髪もいつの間にか魔獣の返り血で赤く染まっている





・・・その赤髪の近くで部下の帝国兵に指示を出しながら、魔獣の急所を的確に矢で射る『弓公子』アベル・ジゴ・デルベ


彼にはオレの持っていた対魔獣矢を渡していた


独特のクセのある矢だがそれを難無く使いこなし、素早い動きで縦横無尽に駆け巡る魔獣に的確に矢を射り続けている


これ程の弓技の腕前と目を持った狩人戦士は大森林でもそうはいない


敵に回すと恐ろしい男だが、味方なるとこれ程頼もしい男はいないだろう





・・・・槍術で魔獣の動きを封じ込め次々と刺殺している『血の皇子』ネロ・セウェルス


前に持っていた槍よりも少し長めの戦槍で魔獣の急所を突き続けている


森では見た事のないような不思議な槍術を使い、相手の攻撃をいなし反撃している


聞いた話では常に帝国軍の最前線に送り込まれ連戦連勝、その腕は実戦で磨かれているという


優しく穏やかな風貌だが、敵国からは『血の皇子』として忌み呼ばれる






・・・・この五人はオレの目から見ても別格だった



人間の限界を越えた力と技の持ち主だ




一方、大型魔獣が現れていないのも幸いし、この五人以外にもネロ殿下の側にいる樽体型のオジサンや赤髪直属の帝国軍兵、ベール王国の近衛騎士達も善戦している



そのお蔭もあり、目的地まであと少しだ



あの先にある角を曲げると、帝国中央軍のいる城まで辿り着く



皇太子たちを無事な場所に避難させ、その後は帝国軍を本格的に出動させれば、帝都で暴れる魔獣は殲滅出来るだろう



最初は見慣れない魔獣に混乱していた帝国軍だが、統率された兵士の数の勝負になったら下界人間の勝ちだ



(それにしても、おかしいな・・・魔素を出し魔獣を呼び出してまで行ったにしてはお粗末な奇襲だ・・・相手の目的は誰なんだ・・・!?)



オレは意識を集中し周囲を感じる



角を曲がり、前方では城の城門の前にいる帝国兵士たちがこちらに気付いてくれた



今は城門は解放したままにして、逃げて来る住民や貴族を城内で保護しているのだろう



完全武装の帝国軍の精鋭が城門の前に展開し、周囲から襲いかかる魔獣を撃退している



(これで助かった・・・・いや、まてよ!あの城門の帝国兵の中から何か負のオーラが感じる・・・これは確か・・・)



オレは本来なら天の助けである目の前の帝国兵から、よくないモノを感じた



城内に逃げこもうとしたオレ達だったが、槍先に阻まれその場に止まる



その城門前の兵士達はオレ達全員を取り囲み槍で包囲する



「一体これはどういう事だ!」



王族である皇太子殿下が、その包囲する帝国兵の指揮官を睨みつけ激怒する



皇太子殿下自身も槍を持ち、群がる魔獣と戦いながらここまで来ていた



おっとりした印象の殿下であったが、やはり軍国である帝国の一員なんだろう、中々の槍さばきと気魄だった



その皇太子殿下が戦いの興奮冷めやらぬまま叫んでいた



「・・・これはこれは、裏切り者の皇太子殿下ではありませんか。いや裏切った今はただの逆賊かな」



すると包囲している帝国軍の奥から一人の指揮官が歩み出て来る




「アグル!貴様、これは何事だ!?」




今回の騒ぎの主犯格とされた男



虚ろな目をした第二継承権を持つ皇子アグルが、オレに見えた負のオーラの原因だった









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