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マタギの孫をなめんなよ!【書籍化】  作者: ハーーナ殿下
【下界 ヴェルネア帝国 帝都】の章

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110/204

82羽:血の皇子

「ちょっと、誰が助けてくれと言ったの!別にあんたが助けなくても魔獣・・マジウス達はあんな雑魚に負けていなかったわ」



激しい斬り合い直後の興奮冷めやらぬのか、そのお嬢様風な少女はオレに向って噛みついてきた



「まあまあ、マデ・・お嬢様落ち着いてください。この度は助けて貰ったのにすみません。いや、本当に助かりました。ありがとうございます」



オレとそのお嬢様と呼ばれた女の子の間に、影の薄い青年が間に立ち仲裁する



彼らは明らかに偽名だと分かる呼び名だったが、オレも詮索されるとホコリが出る身だ



気にしないで対応する



先ほど酒場で夕飯を食べた後に、裏路地でゴロツキ共に絡まれていたこの四人組をオレは助けた



いや、この少女の言葉通り、オレが加勢しなくてもこの四人だけで撃退はしていただろう



正確にはこの影の薄い青年と、その後ろでさっきからの腕を組み無言を貫く筋肉隆々の大男の二人で倒していただろう



相手はゴロツキだと言っても全員が長剣や短剣で武装し、剣の腕そこそこ立ち普通の警備の兵士でも危険な相手だった



オレ自身も相手を挟撃し奇襲した事と、愛用の短槍を持ち歩いていた幸運もあって無傷で済んだが、ゴロツキたちの腕も決して悪いものではなかった



実戦を経験し、人を殺し慣れた連中ほど怖い者はない



(あんな危険な連中がこんな一般人を大人数で襲うとは何か裏があるのか・・・それともこの人たちが恨みを誰かに買っているのか・・・)



オレは目の前でお嬢様の怒りなだめて落ち空かせている青年を見つめた



お嬢様も自分の信頼する護衛の腕が見れるところを、オレに邪魔され怒っているだけだろう



次第に興奮から落ち着き冷静さを取り戻していた



するとオレたちの隠れている小屋の外から、オレにしか聞こえない小さな合図の音がする



(そうか・・・もう外も大丈夫か)



「皆さん、そろそろ外に出て帰っても大丈夫そうです。今度は人通りの多い大通りを選んで帰ってください。


 何かあったら大通りには警備の兵士が巡回してるので、そちらに逃げ込み助けを求めてください」



オレは一緒に狭い小屋に隠れていた四人組に、帰り道の説明をして別れを告げる



「・・・さっきはあんなこと言ってごめんなさい。謝るわ。ありがとう」



お嬢様風の女の子は影の薄い青年に諭され、オレに向かい素直に謝ってきた



(おや?)



さっきまではドタバタして気付かなかったが、よく見るとこの少女は大きな瞳を持ち澄んだ綺麗な顔立ちをしている



今は町娘風な少し汚れた恰好をしているが、どこか気品も感じられその動きには華もある



この帝国では見た事のないような、温かみのある美しい色の瞳だ



(もしかしたら、どこかの貴族や大富豪のお嬢様がワガママで下町に遊びに来ていたのかもしれない)



その護衛の兵士や女中といったところか



「いえ、こちらこそいらぬ尽力でしたね。帰りは気をつけて、今度あの酒場で、またいい酒の飲みっぷりを見せてください」



オレが笑顔でそう言うと、彼女は耳まで顔を真っ赤にして照れる



「酒場で見ていたのね・・・」



小声でそう恥ずかしそうに呟いているのが聞こえる



「では、本当にありがとうございました」



影の薄い青年に腕を引っ張られる、その少女を始めとする四人組は大通りの方に歩いて帰っていった



(不思議でほうっておけない人たちだ)




「・・・・マリー、聞こえるよね。あの四人組の事を調べておいてちょうだい」



オレはその四人組が路地を曲がり見えなくなってから、自分の後ろにある闇に向かって話しかける



「若・・・・了解しました」



その闇から若い女性の返事だけがする



その返事と共にかすかな気配がスッと消えていく



(さて、オレそろそろ帰らないとな。ドルトンの奴に何て言って言い訳しようかな)



返り血は浴びるようなヘマはしていないが、流石に数人を切った後だと血生臭い



せっかく酒場で気分よく飲んでいたのに、こんな殺生沙汰になるとはついていない



しかし、さっきの四人組は何とも言えない、温かくも楽しい感じをくれるヤツ等だった



(そういえば、明後日に珍しく王宮に来いと呼び出しがあったな・・・王宮に行くのは面倒臭いけど何かいい予感がする・・・・久しぶりに行ってみるか)



『オレのいい予感はよく当たる』



自分でも気付かない内に笑みを浮かべていた





ベール王国からの使節団に付き添いとして、オレ達が隣国のヴェルネア帝国の帝都に来て数日・・・・



ついにヴェルネア帝国皇帝に会う



オレたち使節団が通されたのは王宮の謁見の間



きらびやかで豪華絢爛なベール王都と違い、帝国の謁見の間は豪華でありながらどこか無機質で趣味が悪い



常時隣国と戦争中の国という事もあってか、質実剛健な生活が好まれるのだろう。無駄が少ない装飾になっている



それでもこの大陸でも有数の大国だけあって、広間には侵略で勝ち取った各地領土の品がこれ見よがしに飾ってある



何でも聞いた話では、ヴェルネア帝国は帝都に中央軍、東西南北に各方面軍を置き四方向に侵攻しているのだという



帝都中心は天候悪く大地も豊かではないので、国民の生活や強大な軍団を維持するために常に新しい土地を求めているのだろう



(自国に資源や自給自足が出来る農地がないとまるで自転車操業のようだ。上手く回っている内はいいかもしれないけど、歯車がどこか一つでも狂うと一気に崩壊するかもしれない・・・)



その飾ってある品も、南の南海王国の調度品や、北の雪原共和国の美術品など初めて見る物ばかりで、オレを始めとする使節団の一員はその数々の品に目を奪われる



しかし、謁見の間にヴェルネア帝国皇帝が入って来ると、空気は一変し重苦しい雰囲気になる



皇帝が玉座に座り帝国の宰相が仕切り役になり謁見が始まる



こちら側の代表であるマデレーン王女や近衛騎士ヘルマンが挨拶をして献上品を差し出す



今回はあくまでもベール王国の特産品でオレたち森の部族の品はない



これまでの両国間の歴史の話をしたり、過去の戦争、和平について語る



難しい話は分からないが、ベール王国側として今後は手を結び大陸の平和の為、両国間で共に発展していこうという事だ



事前にマデレーン王女や近衛騎士ヘルマン、軍師セリーナたちが帝国の宰相たち文官と打ち合わせをしており話は上手くいく予定だった



しかし、皇帝の反応がいまいちよくない



皇帝としてはあまり休戦協定を結びたくないようだ



先に侵攻して来たのは明らかに帝国側なのだが、帝国兵の多数でた戦死者に対する賠償金がどうのでゴネている



皇帝は宰相を始めと文官側と、将軍を筆頭とする武官に挟まれて悩んでいるようだ



この辺は国同士の大人の駆け引きなんだろうか



ベール王国側も妥協案を提示している



『喧嘩して、ごめんなさいを言って、仲直り』



と子供の喧嘩みたいに簡単にいかないのだろう




一応、近衛騎士の恰好をしてこの場にいたオレは広間の中を観察する



謁見の間の一番上座の王座には皇帝が座っている



年齢は結構いっているが、今でも各地の前線に赴き軍を激励している生粋の武人だという



ただ高齢の為、今は四方侵攻論に慎重になっており、そこが帝国軍部の武闘派に反感をかっているという



確かにオレが見た感じでは皇帝には王者のオーラが感じられる



しかし、気のせいかそこに灰色の少しよどんだ色も感じる



(病気なのか・・・それとも精神的に疲れているのか?)



そんな感じなんだろう



皇帝の近くの上座に目を向ける



他の貴族より豪華な服を着た青年たちがそこに並んでいる



この場では発言は控えているようで、その身なりからも王族関係者に見える



(この帝国の王子様かな・・・みんな端整な顔立ちをしているけど、皇帝に比べるとあまりパッとしない雰囲気だな・・・お坊ちゃまというか意識過剰すぎるというか)



見た目で判断する訳ではないが、男として魅力を感じないのは確かだ



その王子たちの下座に、帝国の上層部の武官や文官の貴族が整列しており、時たまベール王国の使者を牽制するように発言してくる



(どちらかというと、みんな武人というよりはどこかの国の政治家に近いな・・・同じ帝国軍人でもいろいろな派閥とかもありそうだ)



並んでいる貴族たちを上から下座に観察してそう推測する



下座の方にいる銀髪の偉丈夫と目が合う



オレの視線に気付いたのか、その男はニヤリと笑みを浮かべる



帝国東部方面軍司令官の『赤髪』ガエルだ



この男は予定では帝都手前で護衛の受け継ぎをし、帰る予定だったらしいが何故か帝都まで着いて来た



ここ数日間もオレたちの滞在していた屋敷を何度か訪れて来て、何かと世話もしてくれていた



(ついこの間まで殺し合いをしていた相手なのに・・・『赤髪』も不思議なやつだな)



『赤髪』を過ぎ、視線を最後の一番下座に目を向ける



(ん?)



気のせいか見た事ある青年が立っていた



キチンと背筋を伸ばし直立不動の姿勢、優しい顔立ちながらも意志の強い瞳で隙のない男だ



(ん?・・・・あれは確か・・・・一昨日の!?)






ヴェルネア帝国皇帝との謁見も何とか無事に終わり、オレ達は帝国主催の歓迎晩餐会に参加していた



結局難しい話はよく分からなかったが、こちら側のベール王国とヴェルネア帝国でしばらくの間は休戦協定が結ばれることになった



侵攻を繰り返し新しい領土が欲しい帝国側としては不本意な条約だ



しかし、聞いたところによると、帝国軍も最近は東西南北の各地前線で苦戦しており、オレ達の住む東部前線は一時休戦という事だ



おそらくはその休戦の間に、他の方面に軍を回して侵略するのだと思うと、少し心苦しい感じもするが、今回オレたちはベール王国の護衛として、付き添いで来ているので口出しはできない事だった



ベール王国の方でもヴェルネア帝国以外にも敵対国がある為に、ここは休戦する必要があったのだろう



そんな訳でこの晩餐会では、先ほどと雰囲気は変わり和平に場も少し和んでいた



・・・今回の晩餐会の主役はベール王国から来たマデレーン王女だ



王女は隣国までその美しさが噂されていたようで、姫に挨拶しようと帝国貴族たちの挨拶の長蛇の列が出来ていた



大変そうだが、側に近衛騎士ヘルマンもいるので大丈夫だろう



(黙っていればマデレーンちゃんは確かにキレイで可愛いからな。ストレスが爆発しなきゃいいけど・・・)



オレはその場をこっそり離れ、目当ての料理コーナーに向かう



そこには長テーブルに色とりどり多種多様な料理が並んでいた



その場で料理人が調理していた料理もあり香ばしい香りが漂い食欲をそそる



オレはその料理を端から順に制覇して行く



(・・・・おお、一昨日の酒場の料理も美味かったが、この宮廷料料理も流石に美味いな!東西南北を領地に治めているだけあって、色んな味付けや食材があって食べがいがある。この大海老の香辛料炒めなんかかなりスパイシーで美味いぞ!)



そんな事を思いながら料理コーナーの料理を一心不乱に食べまくる



「やあ!」



そんな無防備なオレに近付き声をかけてくる者がいた



(この声は確か・・・・)



振り向くと先ほど謁見の間で一番下座にいた青年が立っていた



「まさか帝国軍のお偉いさんだったとは思いもしませんでしたよ」



オレは一昨日、下町の裏路地で助けてもらった短槍使いの青年に笑顔で答える



「こちらこそ、まさか皆さんがベール王国からの使者だとは驚いたよ。あの時のお嬢様がまさかベール王国マデレーン王女とは思いもよらなかったしね」



その槍使いの青年はそう言いながら、料理コーナーに置いてあった鶏モモ肉の香草焼きを手づかみで口に入れる



それにしても美味そうに料理を食べる男だ



「若、またそのように手づかみで食事をされて・・・」



その光景を見て飛んで近づいて来た、樽のような体型をした男が青年に注意する



(若って・・・どこかの貴族のお坊ちゃまなのかな?)



オレはそう思いその青年の顔を見直す



確かに優しさの中に気品と強い意志が感じる



(あれ、誰かに似ているような・・・・)



「そこのベールの騎士殿。あまり若の顔をマジマジと見るではない。この方、今はこの様なお姿をしているが、栄光あるこのヴェルネア帝国皇帝ご子息ネロ殿下であるぞ!」



オレの視線に気付いたのか、その樽体型のオジサンが青年の脇に立ち説明をしてくれる



「ご子息で殿下って・・・・ん?君ってこの国の王子様だったの!?」



オレは一昨日の下町で助けてもらった、気さくな槍使いがこの帝国の王子だと聞き驚く



(しかも一昨日の口調では、あの汚くて美味い酒場にもいてオレ達のことを見たと言っていたけど・・・)



「これ、ドルトン。大事な隣国のお客さんにそのような事を言うではない。すまんな、えーとマジ・・・」



オレのその驚きの視線に気付いたのか王子助けてくれる



「近衛騎士のマジウスです」



オレはちゃんと名乗っていなかったのに気付き、今の名を告げる



「そうマジウス殿。殿下と言っても身分の低い側室から生まれの訳ありだから、王位継承権もあってないようなんだ。

 さっきの謁見の時も気付いていたかと思うけど、他の異母兄弟の皇子達と違いオレは軍人の立場でしかあそには立てないんだ」



そう自分の立場を、気軽に説明してくれるネロ王子



(結構ヘビーな内容なのに、サラッと話すんだな・・・)



オレは話を聞きながらそんな事を考える



年齢的には先ほど上座にいた皇子達とあまり変わらない歳だろう



見た感じの雰囲気では能力的にはこのネロが一番優れているように思う



一昨日に彼の凄まじい槍さばき見た事もあるが、この青年には王者になるべき者独特のオーラがある



これは大森林でも下界でもあるモノである種のカリスマ性みたいなものだ



「しかし、皇子の中ではネロ様が一番の武功を上げているのに・・・うう・・・」


とその話を聞いて悔し涙を流している樽体型のオジサンがいる



(王子様だけど訳ありなんだな・・・・どうりで気軽というかフランクというか。何か憎めない人だな)



オレはそう思いながらもネロ皇子を見つめる



「そう言えば君や一昨日の一緒にいたあの腕利き大男とかって、アレだよね?今噂の森の民だよね?」



その視線に返すように、小声で王子は訪ねてくる



「・・・ハッハッハ、何の事でしょうか。私はベール王国近衛騎士マジウスです」



『顔にすぐ出る男』マジウスことオレは、冷や汗をかきながらそ知らぬ顔して乗り切ろうとする



「まっ、そういう事でもいいかな。

 マジウス殿、一昨日のゴロツキもそうだけど、今の帝都は何かときな臭い。いやこの王宮の一部の連中かな。

 特にオレの異母兄様にあたる第二皇子のアグル殿下が、見た事もない奇妙な連中を自分の屋敷に招いて何やら行っているらしい。大丈夫かと思うけど十分気をつけて。


あっ、マデレーン王女の列が空いたからオレも挨拶でもして来るね」



と警告し、ネロ王子はその場を去りマデレーン王女の方に向かって行く



(きな臭いって・・・一昨日のゴロツキもただの強盗でなかったのか?それなら狙うとしたら王女であるマデレーンちゃんか・・・・)



晩餐会がもうすぐ無事にお開きになる



後はこのままベール王国に帰り、オレ達は自分たちの森へ帰る・・・・



(という計画通りに果たしてならないのかな。やっぱり・・・)



そう思いながらも、屋敷で留守番をしている神官ちゃんたちに料理のお土産を包むオレであった








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