78羽:女子会三名様
豪華絢爛な馬車の中は、数人が座っても余裕がまだある程広々としている
内側の装飾も細部までこだわった王家御用達の職人技が随所に見られる
この馬車の主に合わせた速度で進んでおり、車体に取り付けられた最先端のバネが、石畳街道の凹凸を吸収し思ったほど内部は揺れていなかった
馬車の両側の小窓を開けると見知らぬ異国の田園風景が広がり、これが気軽な旅であればなお最高の環境であった
そんな馬車の中で、今は三人の女性によって会話が盛り上がっている
「そうか、森の中での生活はそのような面白いことがあるのね。私もう少し大村に滞在したかったわ」
この馬車の主であるマデレーン王女は、他の二人の話を手元にある菓子を頬張りながり聞いている
「そうなのだ。森の民の戦士達は融通がきかない上で頑固で困るのだ。それでも研究対象としては面白い奴等ばかりなので私は好きなのだ」
下界から訳あって大森林の『大砦』に移住して数年になる、研究軍師セリーナ・ベルガーが親友でもあるマデレーン王女にそう教える
「それでも我が民にもいろんな方がいます。特に下界と交流を始めたここ数年で、部族の皆さんの考え方も大きく変わってきました。今回もそうですが一緒に旅をするといろんな方の個性が見えて楽しいですね」
元々、大森林生まれで精霊神官として森に仕える『清い水』こと下界偽名レティーナが賛同する
セリーナと『清い水』ことレティーナの二人は、普段の森での恰好からマデレーン王女に仕える女官の衣装に着替え、今は帝都に行くこの馬車に同乗していた
周りの女官たちは年上で口うるさい中、この森に住む二人の女性と話す時間はマデレーンにとっても楽しいひと時であった
「そういえば、数か月前に初めて大森林の大村に行った時に気付いたのだけども、森の民の男性は結構カッイイ方が多かったね・・・・二人には、その・・・意中の男性とかはいないの?」
年頃の女子が二人以上集まれば自然とこういう話にもなるだろう
興味津々にマデレーンは二人に問いかける
「なになに、意中の男性とな?私としては『獅子王』様や『白狼の尾』大隊長あたりが面白いのだ。
しかし、最近はなんといってもそこにいる『魔獣喰い』なのだ!あの男は伝承通り凄いヤツなのか、それともただの凡人なのかよく分からないのだ」
男性もあくまでも研究対象としてなのだろう。この中で一番幼い女の子のセリーナが目を輝かせ、馬車の小窓開けて言う
その小窓の向こうには、ベール王国近衛騎士の自分の恰好をして、朝から晩まで嬉しそうにしている森の民『魔獣喰い』が並走していた
「ま、『魔獣喰い』だと。あんな頼りなくてスケベな男のどこがいいのかしら・・・・それは、今はあんなのだけど、森の中では結構頼れたしし、今回も私の文で真っ先に駆け付けて来ていいところもあるけど・・・」
マデレーンは小窓の向こうで、自分の鎧姿に一人ニヤニヤしている男を横目で見て少し赤面しながら反論する
「『魔獣喰い』様は本当に素晴しい勇者です。下界や大森林で仲間の皆さんと共に数々の偉業を成し遂げています。
先の『真の魔素』をめぐる作戦の時も、白猫姫様でも敵わなかった強敵をあの方は退けています。
いつも女性の胸元などを見てニヤニヤしている事もありますが、あの位の年頃の男性は皆さんそうだと本にも書いていましたし、しょうがありませんね・・・ 」
男として見ているのだろうか。それとも森の民を導く勇者として見ているのだろうか。精霊神官『清い水』は少しだけ『魔獣喰い』を擁護する
それ以外の二人の女性陣は『清い水』レティーナの大きく膨らんだ胸元を見て、自分の胸を見比べて黙る・・・
(このはち切れそうな胸を目にしたら、大概の男の視線は釘付けになるはずだ)
いまいち自分の胸の魅力に気付いていない精霊神官を見て、勿体ないとその他二人の女性は思う
「た、確かアイツは王女である私の胸元も、たまに覗きこんではブツブツ言っていたわね・・・ 見たければ正直にそう言えば少しくらいだったらいいのに・・・
あっ、そういえば、昨日の話だとレティーナは『魔獣喰い』と契約したって言っていたけどアレはどういう意味なの?」
今回の旅でやたら『魔獣喰い』を意識するマデレーン王女は、昨日聞いた『契約』について精霊神官に詳しく聞く
「『契約ですね。それは『精霊契約』と言いまして、ある特定の方と我々精霊神官が結ぶ秘術の契約でございます。
これを結んだ両者は精霊の力を大きく受ける事ができ、お互いの力を増幅させ更に精霊の加護の力を強くする事ができます。
これは、精霊神官がその者を自分の勇者と認め、生涯を共にするという誓いでもあります。』
精霊神官『清い水』はサラリと説明をする
「しょ、生涯を共にって、それって結婚するって事なの!?」
精霊神官の説明を聞き明らかに動揺しているマデレーン
「結婚とは少し違いますね。
その方が森の中で遠くに出かける時や、下界に出る時は今回のように毎回同行しますが。 あくまでも同伴者という立場になります。
でも、精霊神官の中にはそのままその認めた勇者の方と結ばれ結婚した方もいたとは聞いています。
私の場合は『魔獣喰い』様の本来の力を封じる力があまりにも強い為に、それを解放する過程として精霊契約をしたまでに過ぎませんが・・・・」
詳しくマデレーンに説明をする精霊神官
つまり封印を徐々に解く為に、精霊神官『清い水』は『魔獣喰い』と精霊契約を結んだ事になる
「そ、そうだったのね。それならひと安心かしら。考えようによっては『魔獣喰い』を下界に呼んだらレティーナもついて来るのだからお得かもね」
よく分からない理論でマデレーン王女は一人納得している
「『清い水』のそれは何か面白そうなのだな。そういえば、私も前の大森林の旅中にアイツと一緒に水浴びをしたり、同じ床で寝ていたのだ」
「えっ・・・・」
突然のセリーナの告白に絶句するマデレーン
(きっと、セリーナはまだ幼いから自分の幼い妹のように思っているんだわ、きっと!)
この辺は内面が成長したとはいえ年頃の女の子だ
強引なこじつけで自分の心を落ち着かせる
「と、とにかく、この話はここまで。もっと違うお話をしましょう」
マデレーンはそう言いながらも、その視線は馬車の小窓から見える影の薄い男を見ていた
(何よ、私にだけ優しいのかと思ったら、色んな女の子に手当たり次第なの!?でも年頃の男はその辺はしょうがないのかしら・・・)
王女であるマデレーンに対し気を使わずに接している内に、彼女の中で完全に美化されている『魔獣喰い』改めてマジウス
王女にとっては初めて出来た思春期の同年代の気になる異性なのだろう
しかし、そんな女子話が馬車内でされているとはつゆ知らず、当の本人は呑気に金属鎧姿に浮かれている
ヴェルネア帝国の帝都に向かう馬車の中での一コマであった・・・




