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マタギの孫をなめんなよ!【書籍化】  作者: ハーーナ殿下
【大森林 魔の森】の章

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105/204

77羽:二匹の獣

丘を越えて縦に隊列を組む集団がこちらに近づいて来る



その隊列中央にいる豪華絢爛な馬車を中心に陣形を組み、周囲を油断なく警戒しながら進んでいる



馬車に装飾されている紋章を見れば、それが隣国ベール王国の王家専用の物であることが分かるだろう



その紋章が付いた馬車には王家の血を引く者しか乗る事が許されず、この集団が正式な使節団である事が垣間見える



馬車を取り巻くように進む騎士達も、実戦用ではなく儀礼用の鎧を着こんでいるが、その眼差しは鋭く、王家の者を守る腕利きの騎士達ばかりであろう






「・・・・あーあぁ」




私の隣で馬に乗った銀髪の偉丈夫が、つまらなそうに欠伸をかく



「ガエル司令官。あと少しでベール王国からの使節団と対面します。もう少し緊張感を持ってください」



私は中央軍兵士訓練学校時代の同期の仲間であり、今の直属の上官であるその男に声をかける



「なあ、アベルよ。何でオレ達はこんな面倒臭い事をしなければいけないんだ」



この国境付近の砦を担当するガエル司令官は、私に助けを求めるように訪ねてくる



「ガエル、ベール王国からの使者や使節団は、我々東部方面軍が窓口になると決まっているのだ。この東国境から中央軍のいる帝都付近までの警護だ。司令官の職務だと思って諦めてくれ」



相変わらず政務系の職務に対してやる気を出さない上司のガエルを、オレはなだめるように説得する



(少しくらいやる気を出してくれればいいのだが・・・)



この男の能力を持ってすれば、この程度の対応などは簡単な雑用だ



しかし、戦や個人戦以外には全くといっていいほど興味を示さないのは、訓練学校時代から変わっていない



それでも、いやだと言いながらもしっかりと業務をこなす能力は、中央軍本部としてもこの男を認めているところだ



(そうでなくては困る。私の栄転や切り札を差し出してまでして、この男を東部方面軍の司令官に押し出した意味がなくなる)



以前の司令官がグラニス伯爵領内で戦死した後、その後任選出に関して中央軍にある私のコネを最大限に発揮し、ようやく同期のガエルを司令官の座に就任させる事が出来た



司令官の雑務を面倒臭さがっていたこの男だったが、



「司令官ともなれば、その権限である程度は敵対国に侵攻の指示が出来るぞ」



とおだててようやく実現した



(まあ、基本的に頭のいい奴だから、私のそんな思惑も見通しつつ、今の役職に就いたのだろうが・・・)




「それにしても、礼儀正しいお坊ちゃま騎士の相手でつまらない任務になりそうだな」



銀髪の男はようやくあくびを止めて、近づいて来るベール王国からの使節団を眺めながら率直な感想を述べる



どうやら、先日のベール王国グラニス伯爵領に侵攻した時に、この男はあの女剣士と剣を交えてから、真面目な騎士や剣士に対して『飽き』が出ていた



「・・・そうでもないぞ。偽装はしているが・・・・何人か面白そうなヤツ等がいる」



弓使いとして視力には自信がある私は、彼の好みの戦士たちを見つけ報告する



「何!それは本当か!?あの時の女剣士もいるのか!?」



私の報告を聞き、身を乗り出し急に興味を持ちだしたガエル



目を細め段々近づいてくる使節団を凝視している



「あの女剣士は・・・・今のところ目に見える所にはいなそうだ。しかし、歩兵や騎兵の中に明らかに正規兵とは違う雰囲気のヤツ等がいる。面白いぞ、その気配を隠すどころかむしろ剥き出しだ。」



恰好こそは正規兵と同じ装備を身に着けているが、明らかに雰囲気が違う数人の男達を私は見つけガエルに教える



それこそ前回の戦いで、私たちの補給基地を夜襲したあの歩兵集団と雰囲気が似ている



「そうか・・・こりゃ、道中楽しめそうだ!おい、お前ら丁重にヤツ等をもてなしするんだぞ!」



まるで新しいオモチャを見つけた子供の様に、純粋無垢な笑顔を浮かべて銀髪の男ガエルは部下に指示を出し始めている



(それにしても、私の掴んだ情報によると、この使節団も帝都に着いたら色々と大変な目に合いそうだな。こちらとしても、これを機会に中央に力を進出しておきたい所だが・・・)



こちらのすぐ近くまで差し迫って来たベール王国からの使節団を眺めながら、私はそう思惑を巡らせる





国境を越えた所でオレたちを出迎えてくれたヴェルネア帝国の兵士達に対し、騎士代表である近衛騎士ヘルマンが口上を述べ、礼を伝える



そして、豪華に装飾された王家の馬車から王女であるマデレーン王女が降り、帝国の司令官挨拶をする



桃色のドレスに包まれながらも、派手な装飾品などをあまり身に着けてはいないが、その美貌と気品がかもし出す異国の王女の姿を見て、帝国の兵士から驚きと感嘆の声が上がる



数か月前まではワガママでおてんば姫だったマデレーンちゃんだが、オレ達の住む大森林への往復を経て急に器が大きくなっていた



(マデレーンちゃんも伝統と歴史ある王国の王女としての自覚が生まれたのかな。前は可愛い妹のような感じだったけど、今は同じ年か、むしろ年上の綺麗なお姉さんにも見えてしまった・・・)



王都の城で大事に育てられたお姫様が、城外や森でいろんな経験をして人間として大きく成長したのだろう



オレとしては嬉しくもあり、追い越されたような感じあり寂しくもあった



そんな事を考えている内に、お互いの代表の挨拶も終わりオレたち使節団と、帝都の途中まで護衛をする帝国軍の兵士達が進み始める



(いよいよ出発だ・・・)



近衛騎士マジウスとしてオレも馬を進める




『隊長・・・』



いつの間にかレの側に小隊の部下が近づいていた



『敵の・・・帝国軍の司令官は、前回補給基地での戦いで『黒豹の爪』の姉御と一騎打ちをした大剣の戦士です』



目端しが効く部下はそう報告し、またオレから離れて行く



その報告を聞き、少し離れた所にいた大男を確認する



(あっ、本当だ・・・髪の毛の色が違うから気付かなかったけど、確かにあの大剣使いだ。名前は確か『赤髪』の・・・何だっけ。


 あの時は夜襲でよく見えなかったけど、普段から野性の獣のような怖い顔つきをしてるんだな・・・


 あっ、こっちを見た)



その銀髪の野性味あふれる帝国の司令官に睨まれ、オレは目を逸らす



(もっと目立たない恰好して隠れていようかな・・・)



おっといかん



今のオレは『魔獣喰い』改め、栄光あるベール王国近衛騎士マジウスだった



その事を思い出し、胸を張り馬を進める



(それにしても、出迎え軍の指揮官なのにあんなに殺気を出しまくりで困るよな・・・帝都までの道中、何事もなければいいのだけれども・・・)



オレは歩み出した隊列と共に道中を心配する



オレの悪い勘はよく当たる



しかし、今は金属鎧を着ている為かその勘も外れ、帝都までの行程は順調に進んでいたのであった





「おい、お前」



ヴェルネア帝国の帝都とやらまであと少し、



最後の宿泊地である村の外側で、野営の準備をしているオレに男が声をかけてくる



その男の姿を見てオレの口元が笑みを浮かべる



赤黒い帝国軍の制服と鎧を身に着けた銀髪の偉丈夫だ



その手にはその長身と同じ位に長く分厚い大剣が持たれている



(同行している小隊ヤツの話では・・・ヴェルネア帝国東部方面軍司令官『赤髪』ガエル・ド・リオンヌと聞いていたが)



しかし、オレにとってはそんな肩書や名前はどうでもよかった



一番最初に国境付近でこの男を見た時からオレはピンと来ていた



(コイツはオレと同類だ)



「何か用か?」



野営の準備中のオレは手元に武器は持っていないが、腰の剣の重みを確認しながら油断なく返事をする



「お前がこの使節団の中で一番強いのだろう。・・・あのヘルマンという近衛騎士は好みじゃないから、それを抜かしてだが」



その銀髪の男はオレの全身を嬉しそうに眺めながら訪ねてくる



(やはりコイツは好みまでオレと同じ同類なんだろう)



この下界の兵士に変装して身分を隠している事情さえなければ、オレは今すぐにでもこの銀髪の大剣使いに斬りかかって行きたい所だ



こんな腰に吊るした軟弱な剣でその大剣には太刀打ち出来ないが



オレの愛用の大矛も他のヤツ等の武具と一緒に荷馬車の下に隠している



それさえ手にすればこの異様な大剣にも競り負けないだろう



(いや、この男とならお互いの拳で殴り合うのも面白いかもしれない・・・)



そんな楽しい事を考えていたオレだが、ここは正直に答える事にする



「確かにこの中じゃオレが一番強いかもしれないな。でも、それ以上にあそこにいる男の方が今はまだ強いかな?」



オレは獲物を譲る訳ではないが、こいつらにアイツの事も忘れて欲しくはない。スッとその男を指さす



その先にいたのは影が薄く目立たない男だった



背は大きくはなく筋肉の量も、ここにいる大男の二人に比べたら無きに等し体付きだ



今は自分の着ている鎧姿に惚れ惚れしながら、その拙い剣さばきで素振りをしている




「・・・・おいおい、冗談はよしてくれ。いくら何でもアレはないだろう。あの体付きであの初心者のような剣さばきは流石にないだろう・・・」



銀髪の大剣使いは、からかわれたと思ったのか呆れた顔でオレの顔見てくる



「そういえば、前回の夜襲の時に、あの男がお前のところの弓使いに一矢浴びせたと聞いているぞ」



オレはこの道中に『魔獣喰い』のヤツから聞いた帝国軍との話を教えてやる



「何、アイツがか!?アイツがアベルにあの時に矢を射った気配の男か・・・」



そう言いながらも、その銀髪の大剣使いは呆れ顔から嬉しそうな顔に表情を変える



「本当にお前たちは面白いヤツ等ばかりだな。まあいい。今度、日と場所を改めてお前もあの大剣使いの女戦士『黒豹の爪』も含めて全員相手をしてやる」



森で美味そうな獲物を見つけた猛禽獣のような笑みを浮かべ、その男はその場を去ろうとする



「そういえば・・・オレの名は『赤髪』ガエルだ。お前は?」



銀髪の男は振り向き名乗りながらオレに尋ねてくる



「オレの名前は『岩の矛』・・イワノフだ」



折角なので下界での偽名も名乗っておく



「『岩の矛』イワノフ・・・今度会う時はその矛とやらも用意しておけ」



そう言いながらその男は去って行く



(『赤髪』ガエルか。・・・これだから『魔獣喰い』の側にいるのはたまらなく面白い!)



オレは心の中でそう叫びながら、熱く煮だっている想いを更に燃え上がらせる



(オレの方こそ、あんな最高の上玉を『魔獣喰い』や『黒豹の爪』になんか渡せるか!)







オレは今、騎士の鎧を身にまといながら、騎士の魂である剣を振るっている



「いち、に、さん!」



いつも持ち歩いている森の部族の剣とは違い、騎士の剣はやはり恰好いい



これを素振りしているだけで自分が格段に強くなった気がする



帝都まであと一日で着くという事だが、今のところ何もなく無事に道中進んで来た



突然の大盗賊団の奇襲や、獣の群れの襲来、帝国軍の裏切りなんて事も警戒していたけど、帝国領内も思っていたよりも治安はよかった



(帝国人といってもオレ達と同じ人間なんだもんな)



ただ、気候や土壌の関係だろうか



街道沿いに見えた畑にある農作物の成長速度は遅く、街や村での人々の生活はベール王国に比べて少し貧しい気がした



そのせいか、人々の目つきは鋭く険しい



同行している帝国軍の副司令官の話では、帝都近隣は気候が安定していない土地だという



そして、国民の暮らしを守る為に昔から近隣の豊かな諸国を支配し、その食料地を確保しなければ生きていけない事情があるのだという



オレ達の住んでいる大森林の村々も今はだいぶ改善したとはいえ、その食料事情は相変わらず厳しいものがある



天候や獣の分布状況によっては何日も狩りが出来ない日があり、また森の恵みは下界の穀物に比べて腹持ちも悪く栽培には不向きだ



そんな事もあり、オレも小さい頃はよく腹を空かせていたものだ



数年前からは獅子姫様の指示の元、森の特産品と引き換えに下界のベール王国から穀物を輸入していた



それも土地が豊かで気候が安定し、穀物の生産量が多いベール王国が商売相手ならではの改革であった




(だからといって他国を侵略して、その土地の富を根こそぎ奪うのはどうかと思うが・・・・)



弱肉強食の森の世界だが、子供や雌の獣を狩る事は許されず、また根こそぎその群れを狩ることや、森の恵みを全て収穫する事は禁止されている



(世界中の人が皆幸せになる方法があれば一番いいのだけれども・・・下界も上手く共存していくしかないのかな)



いつの間にか、そんな雑念交じりで騎士の剣を素振りしていた




「・・・パチパチパチ・・・素敵な剣筋ですね」



そんなオレの背後から小さな拍手共に人影が近づいて来る



(この声は・・・)



その男は赤黒い帝国軍の制服を着た士官だった



(名前は確か・・・・『弓公子』・・・)



「アベルですよ。マジウス殿」



オレの心を読んだのか、その男ヴェルネア帝国東部方面軍副司令官『弓公子』アベル・ジゴ・デルベは答える



「褒められるほど自分の剣の腕に自惚れはいませんが」



オレは素振りしていた騎士剣を鞘に納め言う



(先日部下から聞いた話では、この人があの夜襲の一騎打ちの時に『黒豹の爪』ちゃんに矢を射った人らしいな・・・)



それまで道中優しく接してくれた帝国の士官が、まさか自分が『黒豹の爪』を守る為に矢を射り返した相手だと思わずにいた



相手の『弓公子』アベルの方はどうだろう



(オレ達の・・・オレの正体にとっくに気付いているのだろうか?)



そんな素振りを微塵にも感じさせない怪しい優男である



しかし、あの時の矢を放った腕前といい、その後の退却を指揮した腕前といい、ただ者ではない事は確かだ



怖い雰囲気のある帝国軍にあって、どこか気品があり憎めないこの男をオレは嫌いではなかった



「確かに『上手』ではないと思います。けど、本当に素敵だと思います。


帝都にいる私の師匠もそうでしたが、先の読めない独特の剣筋です。


その言っては何ですが、剣の形にこだわっている事が、もしかしたら本当のあなたの力を出し切れていない原因では?」




厳し事をサラリと言う男だ



だからこそ嫌いにはなれないのだが



「そうですか・・・それでもオレは『剣』を極めようと思うんです。夢というか意地というか・・・」



森の奥で、小さい頃から剣の才能は無いと言われていた



それ以外の弓や隠密、手斧なんかは結構得意だった



でも、オレはこの世界でやっぱり剣を極め『騎士』や『勇者』に成りたいのだ



これは最早、自分の中での生き様とも言えるものだった




「そうですか、それは素敵な思いですね。もし良かったら、明日帝都に着いたら私の師匠を紹介します。もしかしたら、その枷を外すヒントがあるかもしれません」



弓公子アベルは敵であり、自分に矢を射ったはずのオレに対して親切に教えてくれた



「ありがとうございます。こちらこそ是非よろしくお願いします」



敵なのに憎めない男、その言葉を信じオレは笑顔を向ける




(それにしても、あなたは不思議な方ですね。


あんなに凄い弓技の腕を持っているかと思えば、剣技はつたない


更に普段はボーっとして隙だらけのようでいて隙がないというか・・・)



その男アベルは小声で何かを呟いていた



「では、また明日の朝」



とお互い挨拶をして野営地に戻る






そして次の日



ついに今回の目的地である、ヴェルネア帝国の帝都に到着した










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