74羽:友と盾
白猫姫のいる本陣が猪魔獣に襲われたその後に、異変を感じたオレは小隊の仲間を引き連れ本陣に向かう
命令ではここに待機し敵襲を返り討ちに指令だった
猪魔獣程度なら白姫ちゃんをはじめ、腕利き揃いの近衛戦士たちは遅れは取らないだろう
・・・しかし、胸騒ぎがする
(本陣の方に黒い影が見える・・・)
オレは仲間を置いて行く程の速度をいつの間にか出し、魔の森の中を突き進む
☆
ようやく本陣近くまで辿り着いた
やはり様子がおかしい
本来なら白姫ちゃんを中心に本陣を固める陣形が、異様に乱れ混乱している
持ち場を離れ同じく本陣に中心に向かう者、他の部隊に急ぎ向かっている者・・・
そして、その先の中心地の森が開けた場所では、目を覆うような一方的な殺戮が行われていた
『ソレ』は襲い掛かる近衛戦士団の斬撃を受け流し、その槍で相手の急所を易々と貫き殺す
また、背後を含む四方から射られた矢を、不思議な槍技で全て叩き落としている
怪我をしているのか、その場から動けない白姫ちゃんに近づいて行く
(一体何がどうなっているんだ!?)
ただ1人によって近衛戦士団が蹂躙されている
そしてついに、白姫ちゃんを最後に守る大盾を持った戦士達の体もその槍で貫く
その異様な光景に、他の近衛戦士たちの足も止まっている
(このままでは白姫ちゃんが・・・何とかしないと。でも、矢も剣も通じない相手にどうやって・・・・)
腕利き戦士や弓士たちの攻撃が一切通じないのである
この様子だと、恐らく白姫ちゃんもコイツにやられたのだろう
それなのに、いち弓士のオレ一人が出て行って、今更どうにかなるのだろう・・・・
オレは足を止め考える
(・・・いや、それでも約束したんだ。白姫ちゃんを守るって!)
オレはその場で誰も動けなくなっていた森の広場に、一歩づつ足を踏み出して行く
オレのその姿を見て、その場にいた戦士たちから声が上がる
「魔獣喰いだ・・・・」
「魔獣喰いが来てくれたんだ・・・・」
☆
白猫姫に近付き止めをさそうとしていた『ソレ』はオレに気付いたのか、後ろを振り向きこちらを見てきた
(こいつが皆の言っていた『敵』なんだろう)
大きさは長身の白姫ちゃんより少し大きい位だ
全身青黒い色をしていて、服のような鎧のような不思議なモノを身に着けている
その右手には槍を持ち、その鋭い瞳でオレの方をじっと見つめてくる・・・・
(・・・・何だ、『敵』って人間だったのか!?)
オレはその初めて見る『敵』の姿に驚愕する
二本足で立ち、手で武器を構え、その顔は薄暗く分かりづらいが表情さえ読み取れる
魔獣の敵しかいない『魔素』近くで、オレ達はまさか人間と戦っているとは思わなかった
(そう見えても人間の形をした魔獣かもしれない・・・・さっきの動きもそうだけど普通に考えても人間の常識を超えている)
動きもそうだがコイツの周囲の気配は、人間というよりは魔獣に近いものがある
オレは相手を刺激しないように、しかし、いつでも抜けるように気持ちを落ち着かせて観察する
《何だお主は・・・・おかしな奴だ。ヒトなのか? まあいい、そこで黙って見ておれ》
ソイツは人間の言葉でそう言い、オレに背を向け白姫ちゃんに止めを刺そうとする
(人語を話すんだな・・・・させるか!)
オレは弓を構える
(でも、普通の射り方じゃダメだ。さっきみたいに不思議な技で落とされてしまう・・・・ そう言えばこいつの不思議な感じは、何かに似ている・・・ 前にもどこかで感じたような・・・)
オレは初めて会う敵だが、その、人とも魔獣とも違う感覚を思い出そうとしていた
あれは確か・・・
(・・・・そうだ!幻獣だ!)
オレは1本目の矢を射り、続けて少し狙いをずらし連射で矢を射る
何もない空間だが迷わず射る
ビュン。ビュンビュン
その『敵』は先ほどと同じく、振り向きもせずに1本目の矢を不思議な技で落とす
そして、続けて射られた矢も難無く落としていたが・・・
ザクッ
何本目かの矢が刺さった
《むうう!?》
そこは『敵』が見えていた場所とは少しズレた空間に、矢が刺さっていた
(そこか!)
オレはすかさずその空間に続けて矢を射る
《ちっ!》
すると術が解けたのか、ソイツは槍で矢を弾き、オレから間合いを取る
《何と、ワシのこの術を破るとは・・・ただの小僧ではないのか。・・・・こうなったら、お前から消させてもらう》
その表情を険しい顔に曇らせ、ソイツは槍を構え凄まじい勢いでオレに向かって来る
(矢を!いやダメだ、間に合わない!)
オレと敵とのやり取りを見守り動けないでいた戦士達も、その敵の動きを見てオレを助けに来ようと動き出す
しかし、このままでは間に合わない
オレは腰の愛用手斧をとっさ抜き、その槍を払おうとする
(くそっ、こんな小さな手斧で払えるか!?でも、やるしかない!)
オレは覚悟を決め、手斧を振りかざしソイツに向かって行く
ドスン
と、その時
急にオレの前の巨大な盾が飛んで来た
ガキン
その盾はオレとその敵の間の地面に刺さり槍を弾く
敵は突然の邪魔者の襲撃を警戒して距離をとる
・・・その大盾は見た事もないような大きな盾だった
甲殻類の魔獣の甲羅を重ね分厚く補強した盾だ
(・・・いや、どこかで見た事がある盾だ・・・そうだ、小さい頃に見た事がある)
オレは思い出した
(オレの故郷の村の腕利き戦士、絶対的な防御力を誇る重量戦士『岩の盾』オジサンの甲羅盾だ)
いくらオレでも暫くの間、一緒に狩り組を組んでいた大人の武具を見間違える訳はない
「随分と小さくまとまっているじゃねえか。これだったら昔のお前の方が強かったんじゃねえか?」
その盾を投げつけた戦士はオレに近づき言いはなつ
・・・全身を硬革鎧に身にまとった大柄の戦士だ
年齢はオレより少し年上だろうか
顔はその盾の持ち主である『岩の盾』のオジサンにも似ている
(あれ、この声、この顔、どこかで見た事がある・・・)
オレは『敵』を警戒しながら、その大男を観察していた
「その面じゃ、オレの事もどうせ忘れているんだろう。まあ、いい。今はこの『敵』を仕留めるのが先だぜ」
そう言い、その大男は大盾を地面から引き抜き、右手に持つ大矛を敵に構える
「声届きし者は聞け!我が名はケドの村の戦士『岩の盾』が息子、『坂の砦』が戦士『岩の矛』だ!」
その大男はその大きな重い矛を構え敵に名を名乗る
「やれやれ、まさか他の砦の奴に助けられるとはの。おい、皆の衆、大砦の戦士の力はこんなものではないのだろう。さぁ、いくぞ!」
ダメージから回復した白姫ちゃんは立ち上がり、大斧を構え仲間の戦士達に激を飛ばす
これまでの異様な光景に足を止めていた近衛戦士たちも武器を構え、『敵』を包囲する
《やれやれ・・・・あっちの『魔素』の方も何かあったようだ。退き時か・・・・
我の名は『蒼竜王』。今日はどうやらここまでのようじゃ。しかし、次はその命ないと思え》
とオレの方に槍を向け、そう言い放ち姿を消す
(『蒼竜王』・・・どうやら、幻術と槍を使う敵だったようだ)
オレは周りの警戒し意識を飛ばし気配を察する
(どうやらアイツはもう近くにはいない)
断定は出来ないが『もういない』というのが感じられた
「ふう・・・」
オレは緊張を解き一息入れる
周りを見ると、混乱から立ち直った戦士達が周囲を警戒しながら陣形を整えていた
白姫ちゃんは応急措置の治療受けながらその指示を出している
軽傷に見えていたが、結構傷は深かったのかもしれない
それでも自分の意志の力立ち上がり、部下に弱みを見せないようにしていた
(これで何とかなりそうかな。それにしても酷い状況だ・・・)
白姫ちゃんを中心に本陣があった場所は、さっきの『蒼竜王』一人によって多くの戦士達が斬殺されていた
殆どの者があの槍の一撃で急所を貫かれ絶命している
対魔獣用の硬革鎧を着ていたはずなのに、それを軽々と貫通している
凄まじい力と技の持ち主だ
しかも、どういう原理か分からないけど、あの幻術みたいものによって見た目と本体のある場所が微妙にズレていた
場所というか空間そのものがズレていて、更にあの槍技でこちら戦士たちの攻撃が全て無効化されていた
数年前に獅子姫ちゃんと危険な幻獣に出会い、がむしゃらに矢を射り当てた経験があった
さっきはその事に偶然気付いた
しかし、それに気付いていなかったら本当に危険な相手だった
(オレの方を見て、また来るみたいな事を言っていたけど、もう勘弁して欲しいな・・・)
オレは命からがらの戦いを思い出し、正直にそう思う
「よお」
そんなオレに後ろから話しかけて来る戦士がいた
さっき大盾を投げてオレを守ってくれた・・・・そう『岩の矛』だ
(『岩の盾』のオジサンの息子という事は・・・まさか、オレの故郷の『ガキ大将』!?)
小さい頃に故郷の村で、何かと絡まれていた同年代で一番体が大きかった『ガキ大将』・・・
オレが村を出る時、最後の木剣の訓練で真剣勝負をし、それから仲直りをした実に7年ぶりだろう
同年代に友達がいなかったオレの唯一の・・・・
見ると体はオレより頭二つ分は大きく成長しており、その太い腕や胸板も逞しく成長していた
その顔つきは当時の悪ガキの頃の面影を残しつつ、大人の落ち着いた雰囲気も醸し出している
「その顔だと、どうやらオレの事も思い出したようだな」
『ガキ大将』いや、『岩の矛』はオレの目を見つめて語り掛けてくる
「ああ、勿論だよ。本当に久しぶりだ。それにしても、さっきは助かった、本当にありがとう」
オレは懐かしさよりも、感謝の気持ちが強く湧き礼を言う
「なに、さっきのは昔の借りを返しただけだ。これからも、あんな薄気味悪い奴なんかに殺られるんじゃねぞ!・・・・お前はオレが倒すんだからな」
そう言い、オレの胸を小突き笑顔を浮かべる
「ああ、そうだったな」
オレもお返しに胸を小突き笑顔で返事をする
昔から口が悪い奴だが、本当に悪い奴ではない
・・・・・友達がいなかったオレにとって、数少ない『友達』だ




