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1羽:蛮族に転生しちゃった


(腹へった……)


 腹時計によってオレは強制的に目が覚める。


(あっ、早く朝の準備に行かないと)


 この村の朝は早い。

 

 誰もが陽が昇る前に起床し、村の共同の炊事場で朝食の準備をする。性別や年齢は関係なく、誰もが率先して作業を行うのだ。

 

 もちろんオレも積極的に手伝う。なぜならばその分だけ早く飯にありつけるからだ。


「お前らの年ごろは、今日はこの量だ」


 共同広間に村人たち全員が集まり、女衆が食事の盛り付けをおこなう。

 いよいよ待ちに待った食事の時間だ。


(また、コレか……しかも少なめ)


 だが木皿に盛り付けられた朝食を目にし、オレは思わず心の中で毒づく。三日連続で同じ献立なことに、そして盛り付けの少なさに。

 ちなみに今朝の献立は“木の実のパン”と“根菜汁”であり、昨日と同じで硬くて味気ない。


「ありがたいな……」


「ああ、精霊の恵みに感謝だ……」


 だがオレ以外の村人たちは、誰も不満を表情にすら出していない。

 崇める精霊に感謝の祈りを捧げてから黙々と食す。


(よし、仕方がないから、よく噛んで食べるか……)


 心の中でまだ愚痴ぐちりながら自分も祈りを捧げ頂く。そして、あっという間に食べ終わる。

 空いた木の器をもう一度だけめまわし味の余韻に浸る。

 皿に残る岩塩の深い味がせめてもの救いだ。


"もっと腹いっぱい沢山食べたい”

 この場にいる誰もがそう思っているのだろう。

 だが辛抱強いこの民は誰一人として愚痴を漏らさない。

 

 今は雨季で食料が限られるこの時期。こうして食べられるだけでも有難いのだ。



「では、今日の仕事の割り当てじゃが…」


 大広間で食事をしながら、本日の各自の仕事の割り当てが言い渡される。

 集落の長老が大まかな指示を出し、若頭たちが具体的に仕事を決める。


「では、今日も皆に森の精霊の加護があらんことを…」


「加護を……」


 全員が食べ終えたなら、精霊に感謝の祈りを捧げ本日の仕事が始まる。

 女と子ども衆は後片付け、男衆は狩りへ出かける準備だ。


 今朝の木々の隙間から見える空は、久しぶりの晴天。

 男たちは手慣れた手際で革鎧を身に着け弓矢を持ち、森の中へ狩りに出る。


「あんた、気をつけて帰ってくるのだよ。精霊さまの加護がありますように」


「ああ、村のことは頼んだぞ」


 村に残る者は、狩りの安全と豊猟を祈願しつつ見送る。


(みんな頑張ってきてね……沢山の獣を獲って、お肉を食べるために)


 オレも精いっぱいの笑顔で狩人たちを見送る。脳内で肉の味を妄想しながら。



「よし、お前ら子ども衆はまずは水くみだ。その後は木の実の採取。急げ、休んでいる暇はないぞ」


 見送りの後、男勝りな女頭から自分たちにも指示が飛んでくる。オレは他の子供たちに負けないように急いで仕事に取りかかる。

 

 なんせもたもたしていたら女頭から強烈なゲンコツが頭上に落ちてくるからだ。

 よしっ、まずは近くの小川まで水くみの往復作業だ。


(オレも早く大人たちと同じように狩りに出て、腹いっぱい食べたいな……)


 まだ幼い自分は最低限の村の仕事しかできない。その分だけ今朝のように子ども達の食事の配給は少ない。

 ここでは狩りで結果を出してから、ようやく一人前と認められるのだ。


(それにしても“この身体”もだいぶ力がついてきたな…)


 水の入った木製のおけを二個両手に持ち、村と近くの小川の坂道を何度も往復しながら実感する。

 最初のころは一個ですら満足に持ち上げることも出来なかった。

 

 だが最近では"この”自分の身体は急激に成長していたから楽になっていた。


 ふう―――チラッ


 水くみをしていたオレは、小川に映る自分の姿をふと確認する。

 そこ映るのは他の村の子供たちと同じ年ごろの“幼い子供”だった。


(どこからどう見ても子供だ……なんでこうなっちゃたんだろうな。オレは“中学生”だったのに……)


 今のオレは五歳の男の子。


 『蛮族』と呼ばれる森の部族に転生してしまったのだ。





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