2
2人はクリスマスツリーを見ていた。冬子は天国から、このクリスマスツリーを見ているんだろうか? 一緒に見たかっただろうな。
「そしてまた、クリスマスがやって来るんだね」
「冬子、会いたいよ・・・」
どんなに願っても、かなわない事だ。地震さえなければ、今も一緒にいれたのに。
「そうだね・・・。でも、もう会えないんだよ」
「つらいよ・・・」
2人は大阪・関西万博を思い出した。今年のゴールデンウイークと盆休みに行ってきた。どこもかしこも大盛況で、予約制の所には全く行けなかった。だけど、いろんな国のパビリオンやブースを巡れて、本当に楽しかったな。だけど、冬子と一緒に行きたかったな。
「今年は万博に行ったよね。できれば、冬子と一緒に行きたかった。冬子も万博、楽しみにしてたよね」
大阪・関西万博は冬子も楽しみにしていた。一緒に行きたいと思っていた。だが、かなわなかった。
「うん。行きたい行きたいとよく言ってたよね」
「だけど、かなわなかったね」
「ああ」
気づけば、もう11時だ。そろそろ寝る時間だ。
「おやすみ」
「おやすみ」
一義は自分の部屋に戻り、ベッドに横になり、寝入った。
一義は騒がしさで目を覚ました。目を覚ますと、ここは大阪・関西万博の東ゲートだ。どうしてここにいるんだろうか? もう閉幕したのに。すでに解体作業が行われているのに。
「あれっ、ここは? 万博?」
「お兄ちゃん!」
その声を聞いて、一義は振り向いた。そこには冬子がいる。冬子は素敵な服を着ている。万博に行くからこの服を着ているのだろう。
「冬子!」
一義は驚いた。まさか、また夢の中で出会えるとは。きっと、自分へのクリスマスプレゼントに違いない。
「一緒に行こうよ!」
「うん!」
2人は東ゲートから万博会場に行った。万博会場にはいろんな国の、いろんな人々がいて、目をキラキラを輝かせている。これが万博なんだ。愛・地球博が開かれた時はまだ生まれていなかった。一緒に万博に行けて、本当に嬉しいな。生前に行く事ができなかったけれど、夢の中で一緒に行けるなんて。
2人は様々な国のパビリオンやブースを巡った。どれもこれも素晴らしい。そして、多くの国の様々なグルメに舌鼓をした。とても素晴らしいな。こんな日々がいつまでも続いてほしいと思ったけれど、それは半年間だけで、もう終わってしまった。閉幕した時にはとても悲しかったな。行けていないパビリオンが多数あったのに、一番行きたかったパビリオンがあったのに、行けずじまいだった。本当につらかったな。だけど、こうして2人で一緒に行く事ができて、本当に嬉しいな。
「楽しいね!」
「うん!」
冬子は楽しんでいるが、どこか残念そうな表情だ。生きているうちに行きたかったと思っていた。だけど、それはかなわなかった。どうして地震で死ななければならなかったんだろうか? どうして神様はこんなむごい事をしたんだろうか? あまりにもひどいよ。もっと生きたかったよ。夢ではなくて、現実で万博に行きたかったよ。
「生きているうちに一緒に行きたかったな」
一義も思っていた。どうしてこんなひどい事が起きなければならないんだろうか? 東日本大震災も、僕たちが生まれる前に起きた、阪神・淡路大震災もそうだ。どうして天災が起きて、多くの人の命が奪われなければならないんだろうか? どうしてそんな悲しい出来事が起きなければならないんだろうか? 教えてと言っても、答えが返ってこない。それが自然だからだ。
「どうしてこんな事にならなければならなかったんだろう」
「そうだね」
夜になり、2人はパビリオンを見終わり、大屋根リングにやって来た。大屋根リングから、大阪の、そして万博会場の夜景を見る。夜景はまるで蛍のようにキラキラ輝いている。とても美しいな。この時間帯、大屋根リングには多くの人がいる。みんな、とても幸せそうだ。キラキラ輝いている夜景は、まるで人々の命のように見える。これが万博なんだろうか?
「これが大屋根リングか」
「すごいな」
2人はそこから見る夜景に見とれていた。本当に美しいな。きっとこの感動は一生ものだな。ずっと心の中に残るだろうな。そして、2人で過ごした日々も、心の中に残るだろうな。
「行けてよかった?」
「よかった!」
冬子は嬉しそうだ。夢の中で一緒に万博に行く事ができた。本当に嬉しかったな。これで心置きなく天国に戻れる。これからは、天国から一義の幸せを願っていよう。
「楽しかったね!」
「もちろんだよ!」
冬子の背中から羽が生え、頭の上に天使の輪ができた。天国に帰るようだ。一義は冬子をじっと見ている。そして感じた。そろそろ天国に帰るんだろうな。
「それじゃあ、さようなら」
冬子は空へ昇っていく。一義は空を見上げている。もう生前に冬子を見る事はないからだ。もう天国でしか見る事ができない。遠い空から冬子は見る事はできないけれど、きっと家族を見守っているはずだ。
「元気でね、お兄ちゃん」
一義は目を覚ました。やはり夢だったようだ。とてもいい夢だったな。
「夢か・・・」
一義は起きて、万博の写真を見た。ミャクミャクと撮ったツーショットの写真だ。本当は冬子も入れたスリーショットで撮りたかったのに。それはかなわなかった。本当に残念だけど、そうなる運命だったのかな?
「もう万博も終わってしまった。だんだん万博は思い出になってくんだな」
そして万博は思い出になっていく。冬子と過ごした日々も思い出になっていく。だが、心の中ではいつまでもそれらの日々が続いていくだろう。




