私の一部達。
歌が聞こえる。
懐かしい……。お父さんから聞いたって言ってたっけ。
でも、なんで。
塔の破壊・解体作戦に参加しているミツキ。
横になっていた上半身を起き上がらせた。
頭上の木は青々としている。
そして、目を覚ました場所を一周見渡すと立派な日本庭園が広がっていた。
「こっここは……」
日本だろうということはすぐに理解できた。
だが、詳しい場所までは理解することは出来なかった。
「ワン!」
近くに犬の鳴き声がした。
「ワン!ワン!」
声がさらに大きく、耳を澄まさなくても聞こえる距離にまで使づいてきた。
そして、声を出していた犬が出てきた。
草むらから出てきた子犬はミツキの体に飛びついた。
「うわっ!」
ミツキは上半身を起こしていた体を再び重さと威力によって横になってしまった。
犬は柴犬や秋田県にいる赤毛。
しかし、両手で抱きかかえられるほどの小さい体をしている。
耳は垂れており、おなかや毛皮は肉厚のモコモコの体をしている。
ポメラニアンでもなく、日本犬という顔つきと毛質。
ミツキの目覚めた日本庭園と日本犬の血を引く犬。
まさしく、彼女がいるのは日本に違いなかった。
「なっなんだよ~。こら~くすぐったいって、へへへ」
顔を止まることなく舐められる。
頬や口元など顔を至るところを唾液まみれにしていく。
とても人懐っこい性格に、昔飼っていた柴犬のことを思い出した。
ミツキの家だけではく親戚も含めてだが、日本犬を飼っている。
特に赤毛の犬が色合いから好まれている。
それは、何百年も前から変わらないとミツキの父が言っていたことをその時思い出した。
「ワンワン!」
「何者だ!」
付近にいる男性の声がした。
その声にミツキは身の危険を感じた。
「ヤバッ」
小声で思わず自身の本音が零れた。
「そこにいるのは誰だ」
先ほどよりも男性の声が近づいてきている感覚がある。
「ワンワン!」
「こら~~。シーー!」
子犬の鳴き声に出さないように注意をする。
しかし、犬はおとなしく静かにするような動物ではなかった。
「ワン!」
「おとなしく、姿を現せ!さもなくば、切る!!」
ミツキは集中して脅されている。
やばい~~!!
ミツキは人生で最高の危機を感じている。
付近にいる男性は金属のちょっとした音がした。
ミツキは想像した。こんなところで金属音といえば、刀しかない。
もう……、私……。死ぬのかな……。
その時だった。
距離が遠く、これこそ耳を澄ませないと聞くことのできない声だった。
「やめろ。そこにいるのは、飛丞だ。構うな」
「は!」
男性はミツキのいる場所から離れていった。
「は~。死ぬかと思った~」
危機を避けることができたミツキは子犬を抱いたまま木によりかかかった。
「ワンワン!」
ミツキは周りがどのような建物なのか気になる。
茂みで隠れている彼女と子犬は目で確認できるところまで顔を上げた。
目の前には立派な白木の建物。
ミツキがいる場所からもその新鮮な香りに癒される。窓は無い。
教科書で見たことがある平安時代の伝統的な建築、寝殿造に似ているとミツキは思った。
建物の目の前には草花が広がる。
囲うように湖が広がっている。
建物から宮中楽器の一つが音として流れてきた。
「これは……、笛?」
ますます、自身がどこにいるのか分からなかった。
その音色は優雅でミツキだけでなく、庭園内で出会った子犬までもが癒されていた。
「いい音だね~~」
「フワァ~~ン」
時間を考えず聞いていた音が徐々に終わりを迎えた。
そして、一つの音楽は終わりを迎えた。
「ふん。飛丞!」
建物から子犬を呼ぶ女性がいた。
女性の声に子犬は鳴いて反応する。
「あなたもどうぞ」
「えっ!?」
ミツキは自身の存在が既にばれていたことに驚いた。
その反動でミツキは思わずしゃがんでいた足を立ち上がってしまった。
「あ~~」
しばらく、次の手を出すまでの余裕は無かった。
「大丈夫よ。誰もいないから」
しかし、女性もミツキに気を使い、隠れているうちに人に退いてもらっていた。
彼女は柔らかい表情を遠くにいながらも、ミツキは確認した。
この人なら、大丈夫かも……。
「あっ、あの……あなたは?」
恐る恐る名前を聞いた。
「私? 私は一条 壽泰だ。一応、女だけど、大臣をしている」
彼女の名字だけではなく、名前までも聞いた覚えがある人物を目の前にしている。
思わず、ミツキは口を開いて言った。
「えっ、じゃあ。衛子さん」
「よく知っているな。私の本名を」
壽泰は本当の名前を知る人物がいると驚いた。
「あっ(しまった~~)」
ミツキは思わず口を塞いだ。
「そんなに驚くこともない、人伝いで伝わってしまったのだろう。気にするな」
壽泰は笑顔で答えた。
反対にミツキは口から心臓が飛び出そうな気持ちになっていた。
(は~、初代が優しい人で良かった~)
初代誕生からミツキがいる時代まで二千年以上が経過している。
現在の風習がこの時代に通じるかも分からない。
元いた塔へ戻る方法も分からない。
この世界に戻るヒントが散らばっているのかと思った。
ミツキは壽泰達から見れば、未来人が来たということで命が狙われる危険がある。
ここは遠い御先祖を信じるしかなかった。
「とりあえず、横に座りなよ」
壽泰は隣に座るように、段差のある一部を手で軽く叩いた。
「あっ……。では、失礼します……」
ミツキは恥ずかしがりながら座った。
「ところで、あなたの名前は何?」
「えっ!?名前ですか?」
「あぁ」
突然自身の名前を聞かれた。
日本名と両方とも存在する。
しかし、同じ名字、同じ一族だとばれると余計な混乱を生む。
ミツキはそのまま日常で使っている姓を使うことにした。
「ミツキ・ペーターです」
「みつき・ぺっぺ~た~?」
ラストネームを言いにくそうにしていた壽泰。
初代をフォローする。
「ここ以外の名前なので、ミツキでいいです」
「そうか。なら、みつきと言う」
名前と呼び名は問題は一先ず着地した。
「みつきはこことは違う世界から来たのか?」
初代の壁を感じない自分からの言いにくい質問は気を使っているミツキを苦しめた。
しかし、その一部にどこかミツキの家族、一族内でよくある特徴があった。
「はっはい。というより、私のこの服装で変なところから来たということは気づきませんでしたか?」
「そいえば、そうだな~ははは」
(そういうところ、うちの家族ってみんなこんな人じゃないかな)
所々、ミツキの家族と父親伝いで聞かれる現代の一条家の性格というものがここから始まったのではないかと確証に変わりつつあった。
「みつき。何か、緊張しないないか?」
「緊張……。そうですね(そりゃ、本家を生み出した初代の前では誰でも緊張するでしょ)」
自身の中で突っ込みを続けていた。
「私の子供達も、いつもは楽しそうなのに一族で集まるときはいつも固いんだよな」
(今も変わらない……)
しかし、韻を踏んで壽泰は言った。
「けど、大事なところでは皆、自分の気持ちをしっかりと言うんだ」
ミツキはその部分が現代の一条家に欠けていると感じた。
皆、本当のことを言わない。当主も側近や権力に強い人達に全て任せている。
任せすぎている。
それがより、皇帝側近として五大貴族がやるべきなのに。
彼女は心中で思うところがあった。
「あっ、来たか」
壽泰が上空を見て気づいた。
そこには、太陽、火そのものを纏った神々しい人物が降り立った。
「やあ、アメノホヒ」
壽泰は神らしき名前を言ったことにミツキは少々驚いた。
「お役目、ご苦労。壽泰」
「いいや。これは初代としての仕事であり、君たちのつなぎ役の役目だ」
ミツキにはすぐ理解できなかったが、見た限りはこの二人は面識があるみたいだ。
「壽泰。お前が見た上で、私の力を使いこなせると思うか?」
(急になんだよ~)
「それは勿論さ。外面的にも、内面的にも相応しいよ」
「分かった」
(いや、私抜きで納得しないで!!)
「ミツキ。其方に私の力を与えよう」
「あっ、はい」
「それじゃあな~~」
「さて、ミツキ。君のいる世界でのわが家は大変だろうが、それでも、この家の人で良かったと思ってもあれると嬉しい」
「私は」
「分かってる。それも含めて、今後は君の手にかかっている。これからも君のことを見てるよ。一条 光希」
「まっ、待って~~」




