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火焔土器に眠る嘘  作者: 九重孝
全章
1/2

第一章 血の雨、土の祈り

縄文時代で起こった殺人ー。これは、事故か、事件か。

――これは、まだ「罪」という言葉がなかった時代の物語。 だが、言葉がなかったからといって、罪がなかったわけではない。


風が鳴いていた。 山の端を越えて吹き下ろす風は、まるで何かを警告するかのように、集落の火を揺らしていた。


その日、空は赤かった。 太陽が沈むにはまだ早いはずなのに、空はまるで血を流したような色をしていた。 そして、彼の死体は、火焔土器のそばに転がっていた。


「……これは、神の怒りだ」


誰かがそう呟いた。 それは恐怖からか、あるいは都合のいい逃避か。 集落の者たちは、誰もが目を逸らした。 石斧で砕かれた頭蓋。 血に濡れた鹿皮の衣。 そして、彼の手に握られていたのは――砕けた土偶の欠片だった。


「事故だ。狩りの途中で、足を滑らせたのだろう」 「いや、獣に襲われたのだ。あの男は、神の掟を破ったのだ」


口々に語られる“真実”。 だが、誰もその目で“現実”を見ようとはしなかった。


その中で、ただ一人、少女は立ち尽くしていた。 名を――


「……我が名は、ミナカタ・カグヤ。 火の巫女にして、言葉を紡ぐ者。 この死は、神のものにあらず。 これは、“人の手”によるものだ」


その声は、風よりも冷たく、火よりも鋭かった。



ミナカタ・カグヤ―― 十五の少女にして、火の巫女の継承者。 彼女は、火焔土器に宿る“記憶”を読み解く力を持っていた。 それは、言葉を持たぬ時代において、唯一“過去”を語る術だった。


「……この土器には、血が染みている。 それも、古いものではない。 この男の死と、何かが繋がっている」


彼女の言葉に、集落の者たちはざわめいた。 だが、誰もが口を閉ざす。 なぜなら――この集落には、ひとつの“掟”があった。


「人は、人を殺さぬ」 それが、神の掟。 それが、縄文の理。


だが、もしそれが破られたとしたら? もし、人が人を殺したとしたら? その瞬間、この集落は“神に見放された地”となる。


だから、誰もが目を逸らす。 だから、誰もが「事故」と言い張る。


だが、カグヤは知っていた。 この死は、偶然ではない。 これは、“誰かの意志”によって引き起こされたものだと。


そして、彼女は決意する。 この死の真相を暴くこと。 たとえ、それが神への冒涜であろうとも。


――それが、彼女の“宿命”だった。



第二話へ続くー

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