第1話 新たな転生
ブックマーク・ご評価頂けると励みになります
俺の名前はミオ、16歳の男子だ。中性的な容姿が特徴で、丸みを帯びた顔立ちに少し長めの髪、華奢な体つきが昔から「女の子みたいだね」と言われる原因だった。
学校ではよくからかわれたし、正直それがコンプレックスだった時期もある。
でも、今じゃもう慣れっこだ。だけど、まさかその特徴がこんな形で役立つなんて、夢にも思わなかった。
最初に異世界に転生した時、俺は魔王を倒す勇者だった。
汗と血にまみれながら、仲間と共に剣を握り、魔法を駆使して戦った。魔王の城の玉座でその首を討ち取った瞬間、世界が光に包まれ、歓声が響き渡った。
あの達成感は今でも忘れられない。でも、勝利の余韻に浸る間もなく、突然意識が暗転した。そして次に目覚めた時――俺はまた別の異世界にいた。
「レティシア・フォン・クレストール! お前が魔女である証拠が揃った! ここで婚約を破棄する!」
目の前で金髪のイケメンが高らかに叫んでいる。燭台の明かりに照らされた大広間は、豪華なシャンデリアと色鮮やかなタペストリーで飾られ、貴族たちがずらりと並んでいる。
その中心に立つ彼は、エルヴィン・ヴァルドリック公国王子だ。鋭い青い瞳、整った顔立ちに金の刺繍が施された深紅のマントを羽織り、まさに絵に描いたような王子様って感じ。俺、いや、今の俺――レティシア・フォン・クレストールは、彼の婚約者だったらしい。
エルヴィンの声が大理石の床に反響し、周囲の貴族たちがざわつき始める。女たちは扇子で顔を隠してひそひそ話し、男たちは眉を寄せて俺を睨む。まるで舞台の上で悪役を演じさせられてる気分だ。
「え、待って、何!?」
思わず声に出してしまった瞬間、驚きが全身を貫いた。自分の声が高くて可愛らしい、まるで鈴が鳴るような音色だ。慌てて視線を落とすと、そこにはふわっとしたラベンダー色のドレスに包まれた華奢な体があった。長い銀髪が肩から流れ落ち、裾には繊細なレースが揺れている。指には細い金の指輪、手首には小さな宝石が輝くブレスレット。鏡がなくても分かる――俺、今、完全に女の子の姿だ。
どうやら俺、また転生したみたいだ。今度は乙女ゲームの世界に登場する悪役令嬢、レティシア・フォン・クレストールに。頭の中で彼女の記憶がちらりと蘇る。高慢で意地悪、貴族社会で恐れられる存在。でも、その記憶に俺の意識が上書きされていく感覚がある。俺はミオだ。中性的な16歳の男子だ。この状況、どうにかしなきゃ。
「魔女だなんて…そんな証拠、あるわけない」
必死に反論しようとしたけど、エルヴィンは冷たい笑みを浮かべて言い放つ。
「お前の魔法の力がその証拠だ。普通の令嬢があんな力を持っているはずがない。火を操り、風を呼び起こす――それは魔女の証だ。魔女として裁きを受けてもらう!」
魔法が使えるってだけで魔女扱いかよ。確かに、レティシアの記憶を覗いてみれば、彼女は小さな火球を掌に浮かべたり、風を巻き起こしてドレスの裾をなびかせたりするのが得意だったみたいだ。貴族の茶会で退屈しのぎにやってたらしい。前回の転生で魔王を倒した時だって、魔法をバンバン使ってた。炎の槍で敵を貫き、嵐を呼んで軍勢を蹴散らした。それが英雄扱いだったのに、今度は魔女扱いか。理不尽すぎる。
「婚約破棄だ、レティシア。お前はもうクレストール家の恥だ」
エルヴィンがそう宣言した瞬間、貴族たちが一斉に拍手を始めた。まるで俺が処刑台に上がるのを楽しみにでもしてるみたいだ。その音が耳障りで、胸の奥で何かがキレた。
「ふざけんなよ! 魔法が使えるだけで魔女扱い? お前らが怖がってるだけじゃん!」
会場が一瞬静まり返る。貴族たちの目が驚愕に見開かれ、エルヴィンの眉がピクリと動いた。レティシアの記憶によると、彼女はいつも高慢な態度で周りを威圧してきたらしい。ドレスの裾を優雅に持ち上げ、毒舌を吐いて笑うのが彼女のスタイルだった。でも、そんなの俺の知ったことじゃない。俺はミオだ。16歳の、ちょっと中性的な男子だ。悪役令嬢のテンプレなんて演じるつもりはない。
「エルヴィン、お前がそんな狭い考えしかできないなら、こっちから願い下げだよ。婚約破棄? どうぞどうぞ! こんな窮屈な関係、こっちだって我慢してたんだから!」
貴族たちの目が点になり、誰かが扇子を落としてカランと音を立てた。俺は勢いよくドレスの裾を翻し、踵を鳴らして大広間を後にした。背後からエルヴィンの怒鳴り声が響いた。「待て、レティシア! お前、無礼にも程があるぞ!」って。でも、そんなの無視だ。長い廊下を抜け、冷たい夜風が吹き込むバルコニーに出た。星空の下、俺は深呼吸して気持ちを落ち着けた。
魔王を倒した経験があるんだ。このくらいの逆境、なんとかしてみせるさ。魔法が使えるなら、それを武器にこの世界で俺らしく生きてやる。