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『少女死神執行宦』第0話「0=-1+1」第5章

神々たちが暮らす「死界」には死神を生業とする三社(ELM・CADUCEUS・H.A.D.E.S.)が存在する。

霊魂を回収するため「剪魂器」を駆使して死神業務を行う執行宦

それは死神に雇われた「モラトリアム」と呼ばれる少女たち――


A²機関によるセルフメディアミックス作品『少女死神執行宦』の原作小説です。前日譚となる第0話となり、随時エピソードを更新予定です。

「ねーねー! 仕事もじゅんちょーだし、ちょっと寄り道していきません?」

「駄目です」


燈⼈が残り1体となったところで集中力を切らしたロンを注意しつつ、エレンキスは準備した資料を手に取って発生予定場所を改めて確認する。


「最後の1体はあのビルね」

エレンキスが見上げた先をロンも見上げる。

「うわー、でっかー。てかあそこって展望台あるとこじゃん!」

「燈⼈の発生予定場所がこのビルだとすると……」

「あー、そういうこと。もはやスカイダイビングじゃん」

「茶化すんじゃありません!」

「いーじゃんいーじゃん! そうと決まればレッツてんぼー!」

「あ、ちょっと!」


急にやる気を出したロンを追いかけるように、エレンキスも闇夜を燦然と照らす巨大な商業ビルへと入っていく。


深夜となり都会の夜独特の空気感が、天空に伸びようとするビル屋上の展望台にも漂っていた。人気のない静寂なその場所で、佇むようにゆっくりと先端部へと歩みを進める人影とそれを高台から見下ろす2つの影。その2つの影の瞳には、燈色の輝きが宿されていた。


「こっから飛び降りたらしばらく営業できなくなっちゃうんじゃないすかね?」

「そうでしょうね」

「てかそんなに背高くない女の子だし、柵よじ登れるんですかね」

「さあ。決心さえついていればできるんじゃないの」

「そういうもんすかねー。てかてか、飛び降りるまでどこに隠れてたんすかね」

「もう、無駄口叩いてないで。落下予測地点の目星を付けないと」


展望台に佇む少女を見下ろしつつ、会話をするロンとエレンキスであったが、おそらく飛び降りるだろう少女の歩みが突如止まる。


「?」

ロンだけがその様子を見ていた。手元にある印刷した地図に視線を落とすエレンキスはその異変に気づかない。歩みを止めた少女は、その場で胸を抑えるようにして苦しみ出し、その場にうずくまってしまう。


「ねえ、ちょっとあれなんかヘンじゃないすか?」

「えっ?」

ロンに促され、少女へ再び視線を戻すエレンキス。緋色に選別されていたその少女は、倒れるとその色を無くした。


「心臓発作……? と、とにかく燈⼈の反応が無くなったのなら、霊魂を……」

「エレンキス! 危ない!」

刹那、それまで燈⼈であった少女のもとから一筋の閃光が疾る。


ロンの咄嗟の叫びに反応したエレンキスは、かろうじてその直撃を避けるものの右肩が貫かれる。一瞬にして脳に差し込まれる痛み、目前の未知なるものへの恐怖、そして――。


咄嗟に手にした銀の鍵から釘バットの形状をした剪魂器を顕現させ、エレンキスを射ったものとの距離を詰めるべく飛びかかるロン。直前まで人の形をしていたそれは、おどろおどろしい形状を安定させようとのたうちまわっている。


(エレンキスは無事……じゃないか。治療する前にまずは!)

異形と化した霊魂に近づきつつ、口から炎を具現化するロンは、塊となった炎を左手につかむと急停止。炎の塊を放り投げて釘バットを振りかぶる。


「くらえ! 必殺センター返し!」

カキンという音が聞こえてきそうな勢いで、火の塊は霊魂へと直撃した。


「やった?」

炎に包まれてより一層苦しげにうごめく霊魂であったが、その炎の間から顔のような物体が伸び出してロンを認識する。


「やべ」

炎を纏いつつも、人を模したような形態となった霊魂が腕とおぼしき一片をロンへ向ける。先刻エレンキスを射抜いた閃光がロンへと疾るが、左手に付けた魂手こてで弾く。

「あぶねー! でも直線だし見て弾けばそうでもないか」


閃光を弾いた左手を振りつつ、右手でバットを力強く握りしめて再び霊魂に対峙する。

「喧嘩100戦無敗のロンちゃんに喧嘩売ったからには、ただじゃ済まさないからねぇ」

にやりと口角を上げつつそう呟くロンの瞳には、燈の光が増して輝きを放つ。


「一気に焼き尽くしてやろうじゃん!」

深く息を吸いこんだロンは、その息を炎として吐き出し周囲に展開。その橙は渋谷の夜景の中でもひときわ明るく輝くものだった。


「まだうまく扱えないけど、ホームラン級の一撃を叩き込んで……」

「ロン!」


その一声に目の前の霊魂から視線を外してしまうロン。その先には右肩を抑えつつも、その左手に小さなペーパーナイフを持って果敢にも戦列に加わろうとするエレンキスが居た。


「ちょっ! 危ないから下がって」

そう言いつつ自らを狙った2撃目をぎりぎりで回避して一気に霊魂との距離を詰めていくロンは、走りながら炎を纏わせたバットを振りかぶる。


「くたばれ!」

走りの勢いをつけつつ、左足で思い切り踏ん張りながら渾身の一振りを叩き込む。バットの感触は球をとらえたものよりも大きく、霊魂の胴体は力技で2つに引き裂かれた。言葉を発せられるのであれば、断末魔の叫びをあげるように霊魂から力が消え去っていく。その亡骸を燃やし尽くすようにしてロンの繰り出した炎が散り散りとした音を鳴らしていた。


「ふぅ。ま、剪魂完了っすかね!」

燃える霊魂を見下ろしつつ、ふっとバットに息を吹きかけると自身のまわりに纏われていた炎が消えていく。

釘バットを頭の後ろで抱えると、はたと気づく。


「あっ、大丈夫っすか?」

負傷しつつロンの元へ駆け寄ってきたエレンキスは、息を切らしながら気楽なロンに毒づく。

「大丈夫なわけないでしょう……。でも霊魂は無事剪魂できたみたいですね」

右肩を抑えつつも、ロンが叩き裂いた霊魂を確認するとエレンキスはようやく安堵の表情を浮かべる。


「てか油断し過ぎじゃないすかー。霊魂ってたまに暴走するって研修でも言ってましたよ」

「そうね……。でも、暴走するにしてもこんな強力な霊魂になるなんて。現世の極東ではこんなことはなかったはず」

「ふーん、でもまあ剪魂はできましたしー。てかロンちゃんがいてよかったですねぇ」


借りを作ってしたり顔で迫るロンと屈辱の表情でそれを受け入れるしかないエレンキスであった。

「とにかく、このことはELM本社にも報告しないと」

「報告したらラーメンくらい奢ってもバチは当たらないんじゃないですかねー?」

「しょうがないわね……1杯だけよ」


助けられたことは事実なので、甘んじてロンの提案を受け入れるしかないエレンキスであった。

「いえーい! じゃあラーメン1杯とギョーザとショーロンポーのセットでおなしゃーす!」

「1杯だけってそういう意味じゃ……」


ふざけるロンに返答しつつも燃え滓となった霊魂がわずかに動くのに気づくエレンキス。けたけたと笑いながらその様子に気づいていないロン。エレンキスが反応した瞬間、霊魂から必死の一閃が放たれたのだった――。

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