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『少女死神執行宦』第0話「0=-1+1」第1章

神々たちが暮らす「死界」には死神を生業とする三社(ELM・CADUCEUS・H.A.D.E.S.)が存在する。

霊魂を回収するため「剪魂器」を駆使して死神業務を行う執行宦

それは死神に雇われた「モラトリアム」と呼ばれる少女たち――


A²機関によるセルフメディアミックス作品『少女死神執行宦』の原作小説です。前日譚となる第0話となり、随時エピソードを更新予定です。

陽が暮れ切る狭間の昼と夜を兼ね備えた曖昧な空色。

それを意識することもなく、乱れそびえる建造物と行き交う多くの人々。

現世東京・渋谷のスクランブル交差点と呼ばれる繁華街の入り口の日常だ。


道は交差すれど人々が交差することは稀なその場所で、釘が打ち付けられたバットを抱えスカジャンにチャイナドレスを合わせて着こなす少女の姿に人の目が合わさることもない。たとえ少女に角と尻尾が生えていたとしても――。


交差点の真ん中でふと立ち止まった少女は、スカジャンのポケットからスマホを取り出す。18時56分と記された画面の通知欄には、着信やメッセージが鬼のように溜まっている。少女は意に介することもなく再びゆっくりと歩き出す。


信号は赤色になり、交差点を前に人々は立ち止まりおのおのがスマホの画面に目を落として色が変わるのを待つ。悠々と交差点を歩く少女のことを気に留めるものはいなかった。車が交差点へ進入する。そこに存在するすべてのものが何気なく守っていることで成立する秩序に、まったく構うことなく歩みを止めない少女。


車が少女に迫る。そして、そのまま何事もなかったかのように少女をすり抜けて通り過ぎていく――。少女は誰も見上げない空を見て言う。


「まだまだ時間あるし、ちょっとお散歩してもいいよね!」

「いいよー!」と自ら呟き回答とした少女は、センター街の方向へと小走りで駆けていった。


■■■


「いい加減電話に出なさいよ! あのヤンキー娘!」


一向に着信にも出ずメッセージに既読もつけない相手への苛立ちを堪えきれず、事務机に左手を叩きつけるオフィスレディな出で立ちの大人びた風貌の少女。思わず感情を発露させてしまったものの、すぐに自らの幼稚な振る舞いに気づき乱れた髪をかき上げる。


「まあまあ、いちおう勤務時間外ですから……」


苛立ちを見せた少女にフォローをかける一声が、机上にいる猫から発せられる。なだめるように前足を少女に向けて、くいくいと動かしている。


「すみません、社長がいらっしゃるのに取り乱しまして……」


少しバツが悪そうに目を逸らしつつ弁解をするも、ギロリと猫に視線を落とす。

「ですが、社長がそんな態度だから規律が守られていないのではないですか! いくらバイトで職務時間外といえど上司から連絡が来たら返信くらいはするものでしょう!」


ヒステリックな少女の発言に、猫も困惑気味に返答する。

「ロンさんはまだ試験採用中ですから……。勤務先の現世東京・渋谷地区を事前に視察したいということですので、むしろ殊勝な心がけとも言えるのではないでしょうか」


「試験採用中なら、なおさら上司に当たる私からの連絡には出ないとダメでしょう! 出向元にちゃんと報告書も出さないといけないのに……」

怒りよりも呆れと疲れの方が強くなった少女ががっくりと肩を落とすと、猫は慰めるようにその肩に前足を乗せる。


「エレンキスさん、真面目にやるのも大事ですけれど如何に気を抜けるかが仕事では大事ですよ」

猫に諭されるようなことを言われたエレンキスは、視線だけ猫に向けつつ溜め息を付く。


「御許さん……すみません。ちょっと言いすぎてしまいました。お気遣いありがとうございます。でも、やっぱり直接行って探してきます」

そう言うと事務机から立ち上がり、ファイル類が収納されている年季の入った棚横にあるラックから上着を手に取る。


その横にあるホワイトボードには、御許:事ム所常駐という剥がれかけた勤務場所を示すマグネットシートが貼られていた。ボードの下側に貼られたロンの横には「せんこんぎょーむ」と丸文字で書かれている。


その上下に挟まれる位置にあるエレンキスと書かれた真新しいマグネットシートの横に、剪魂業務-渋谷と丁寧な文字で書き込み事務所をあとにする。


その様子を見守っていた社長の御許は、背中を見送り誰に言うでもなく呟いた。

「気負いすぎちゃダメですよ……」

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