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1話 『呪い』

 信号が赤から青へ変わる。待っていた人たちはそれを合図に横断を開始する。信号機が青に変わった途端、音が鳴り、視覚障害の人も色覚障害の人でも分かるようにバリアフリー化がされている。この横断歩道を渡った先には県内でも一、二を争うほどの大きな総合病院がある。そしてそこへ学校帰りに毎日のように通い続けている少女がいる。少女の名前は加名望。市内の中学校に通っている中学一年生である。彼女は身体や精神に何か疾患を患っているわけでも皮膚に外傷があるわけでもない。ここに訪れる理由はただ一つ。望の母がここに入院しているためだ。裏側の入り口から事務員に身分証明書と母のお見舞いで来たことを伝えるとすぐに通してくれた。この病院の四階の奥側に母の病室がある。引き戸を開ける前に三回扉をノックし、中に入る。


 他の入院患者もいるためできるだけ静かに引き戸を開閉し、失礼しますと呟いた。病室にはベッドが6っつあり、母は窓際の左側にいる。カーテンを開けなかへ。そこには一年前から眠り続けている母の姿があった。


 望の母は一年前突然昏睡状態となった。その理由は今も町にはびこる呪い。人々に呪いを振りまいて苦しめるドルミールが原因である。

 一年前突如として現れた怪物。どこから来たのか不明であり、宇宙から飛来してきたものとか人々の怨念が具現化したものなど様々な憶測が飛び交っているがどれも確かなものはなかった。

 望にはそのドルミールたちと戦う力がある。これは誰もが持っている力ではない。選ばれた人間にしか使えないのだ。

 母が目覚めないのはドルミールの力が原因と医師から告げられた望は母を目覚めさせるために日々戦っている。

 総合病院の受付で手続きをし、エレベーターを経由して4階の母が入院している病室へやってきた。ベッドが4つある多床室。その右端に母は眠っていた。母の顔を見て病室の花瓶の水を替える。その道中、隣の部屋のカーテンが開けられ声をかけられた。


「おお望ちゃん。こんにちは、今日もお母さんのお見舞いかい?」

「あ、田上(たがみ)さんこんにちは。ごめんなさい、起こしてしまって」


 望に笑顔で声をかけたのは入り口から右隣りのベッドに入院している田上さんだ。慢性疾患を患っており、長期入院している。


「別に構わんよ。ここでずっと寝ていると暇で暇でね。息子や孫もなかなか来ないし趣味もないから基本食べるか、寝るか、可愛い望ちゃんが来るのを楽しみにしとるんじゃよ。息子に比べ望ちゃんは毎日お見舞いに来て偉いね」

「いえ、私が来たくて来てるんです。お母さんが大好きだから」

「おお~なんていい子じゃ。わしの息子に爪の垢煎じて飲ませてやりたいわ」


 陽気に笑う老人に愛想笑いをして見舞いを終える。また明日も来ることを告げ退出する望。

 病院を出て道を歩く。この時間は仕事終わりということもあって交通量が多い。行き交う車を追わず前方の一点だけを見つめている。

 信号が青になった。信号から一定のリズムが鳴り歩行者たちに合図する。左右の車が停止し、望は横断歩道を渡った。住宅街の道に入り、徒歩10分。自宅に着いた。


「ただいま」

「おかえりなさい」


 声と共に廊下の奥から少女が一人姿を見せた。少女の名は一流(いちる)。望みの妹にあたり、小学二年生で年は6つ離れている。


「遅くなってごめんね。今夕飯の支度するから」

「私も手伝う」

「ありがとう」


 一人より二人でやればその分時間も短縮する。望は手慣れた動きで料理を作った。今日のメニューはオムレツだ。オムレツは父の大好物である。夜遅くまで頑張って働いている父への労いも兼ねてだ。

 オムレツのほかにご飯とみそ汁の準備もする。

 望は料理絵をするのは好きなので少し手間がかかるご飯を作るのが好きだったりする。出来た料理をきれいにお皿へ盛り付け食卓へ並べる。一流も箸やコップなどできる範囲で手伝って行く。

 そして仕事で遅くなる父のお皿にはラップをかけ、添え書きの紙を残す。内容はシンプルなもので『温めて食べて』という一言。

 ご飯を食べた後は姉妹二人でお風呂に入ったり、歯磨きしたり、明日の準備をして就寝した。

 朝になった。新しい一日が始まる。朝食の準備をしたり、二人を起こしたり、身支度を整えたりしていつものように学校へ向かう。


「望おはよー」

「おはよー零」


 登校しているときに親友の零と出会う。二人は何気ない談話をしながら歩く。望は零と過ごすこの時間が好きだ。こうやって平和に笑い合える時間が全てを忘れさせてくれる。自分を一人の人間にさせてくれるような気がするからだ。

 学校に着くと他の友達が挨拶をしてくれる。望も挨拶を返す。何気ない平和な日常。勉学に励み、友達と切磋琢磨し、武道に打ち込む。素敵なことだと望は思った。

 その時だった。背筋を襲う嫌な感触。奴らだ。望は授業中ではあるが先生に見えるよう手を挙げた。


「すみません先生」

「ん?どうした望・・・・・・あぁそうか、行ってきていいぞ」

「すみません授業中なのに」

「心配するな。帰ってきたら誰かにノートを見せてもらえよ」

「はい!」


 そう言って望は立ち上がる。先生は望の事情を察してくれる良き理解者だ。


「望行くのか?」

「うん、でもすぐ帰ってくるよ」


 零も心配して声をかけてくれる。その一言だけでも望は嬉しかった。

 学校を飛び出して街をかける。自分の感覚を信じ、嫌な気配がする場所へ。そこは住宅街であった。目の前には道を歩いているおばあさんがいる。そんな折、背後をゆらゆらとゆらめく黒い影が近づいているのが見えた。

 あれこそ望がずっと戦い続けている呪いというやつだ。あれに取り憑かれてしまったが最後、望の母のようにいつ目覚めるかわからない眠りの囚人となってしまう。目の前のおばあさんをそんなことにはさせないと望は思った。望の右手に大きな鎌を出現させる。そして背後から近づく呪いに向かって鎌を振り下ろす。呪いは一刀両断され悲鳴をあげながら空へと消えていった。勿論、その姿も断末魔も望にしか認知できない。ひとまず危機は去った。

 今回はそこまで脅威ではなかったため呪いの個体も大したことはなかった。毎度こうであればいいのにと願わずにはいられない。

 急いで学校に戻る望。望は授業に戻ったが教師も他の生徒もそれが当たり前であるかのように順応していた。

 すぐに授業は終わり、望は親友の零からノートを借り、書き写していた。もうこの生活に慣れつつある。


「ありがとう。零」

「終わった?」

「いつもごめんね」

「いいよこれくらい。いつでも親友を頼りなよ」

「うん。ありがとう」


 望は頼もしい零に感謝した。自分は恵まれていると感じていた。友達にも家族にも。だからこそ一日でも早く母を取り戻したいと切に願った。

 放課後になった。毎日行っている母のお見舞いを終え、病院を出ると親友の零が待ってくれていた。


「零?」

「ねぇ望。よかったら美味しいもの食べに行かない?」



☆★☆★☆★



 望と零は帰り道のカフェに寄ってケーキを食べている。望はチーズケーキ、零はショートケーキを頼んだ。


「ここのケーキは何回食べに来ても美味しいね」

「うん。大好き」


 零と一緒においしいケーキを食べて幸せな気分になった。時間を忘れてしまいそうになるほどに。零なりの気遣いなのだろう。不安に押しつぶされないようにと。

 望が異変に気づいたのは店から出た後だった。


「!!」


 呪いだ。今日の昼間出たときの気配よりも一段と強い。


「ごめん零。私行かなくちゃ」

「私も行くよ」

「えっ!?危ないよ。巻き込まれたら」

「遠くから見てるだけならいいでしょ。私嫌なんだ何もできないでただ望が帰ってくるのを待っているだけなんて」


 望は悩んだ末に遠くから見てるだけならと同行することを許可した。二人が走ること数十分。気配があった場所へと近づいた。その場所は工場だった。工場と言っても人の気配はしない。すでに使われなくなった廃工場のようだ。


「汚くて暗いところね」

「零、気をつけてね」

「わかってる」


 望を先頭に先へと進んでいく二人。今のところは何もない。だが望はこの廃工場に来て一つ不可解なことがあった。それはここに来るまでに強く感じていた呪いの気配が今ではほとんど感じなくなっていた。逃げたわけではないだろう。逃げれば呪いの気配が動くはずだ。

 望のも今回のケースは初めてであったため困惑しているのだ。何事もなく終わってくれるならばそれが一番ではあるのだ。

 そして工場の奥へと進むと開けた場所へ出た。そしてそこには呪いが断末魔をあげながら宙へと消えていた。

 驚く望と零。そしてその二人を物陰で見つめていた人影がいた。

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