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5. 帰ってきたよ



 ・


 

 飛騨川沿いを上流に向かって走っていった往路と違い、復路は本当に下り基調の道だった。もちろん全体の平均斜度でいえばマイナス1パーセントとかそこらだと思うし、ところどころ登りが無いわけではなかった。

 だが、基本下りということは加速にも巡行にも力を込めなくて済む、ということだ。

 ロードバイクはあらゆる種類の自転車の中で、より軽くより速くという部分において抜きんでている。当然下りにおける加速にも敏感に反応するし、同じ力でペダルを漕いでいても速度に明確な差が出る。

 結局休憩込みで5時間以上掛けた道を、私は同じく休憩込みで4時間足らずで走り抜けることとなった。

 当然時刻は夕刻から夜にかけてなので気温に体力を奪われなかったという部分もあるのだが、一時間以上の短縮というのは大きな結果である。

 下り坂ってすごい。

 しかし物理学的に言えば往路で稼いだ位置エネルギーを、復路で運動エネルギーに変えた分だけ楽できたってだけの事である。往きで苦労して貯めた分を帰りでパーッと使い切ったって話。つまりプラスマイナスゼロなわけ。

 しかもその一時間の猶予は、限界を迎えた空腹のため可児市内のココ壱番屋で消費されたのでまぁ結局5時間ちょっとの帰路となったのだが。


 スタートが自宅ってことはゴールも自宅ってことでして。

 フジイチの時みたいにスタートまで移動する準備やゴールから自宅まで帰る必要とか一切なし。

 終わった瞬間ちゃんと全部終わるっていうのはとても便利だ。片付けとかはあるけれど。


 


 ログアプリによると


 最終結果

 距離    167.71km

 獲得標高  1473m

 走行時間  8時間2分

 総時間   12時間8分


 となった。

 休憩や食事、温泉の時間も含めて12時間の日帰り旅行である。


 ……総時間12時間、距離153km、獲得標高1950mのフジイチと、数字だけ見ればあまり変わらないね?

 もっともフジイチの方が獲得標高と斜度の分だけ大変だったイメージだ。

 今回の下呂温泉ロングライドだと、往路が延々登り基調で復路は逆に下り基調。

 フジイチでは『ここから登り! ここまで登り!』と明確な坂道や峠を登って行ったので、今回の往路全体でうっすらと負荷がかかっていた方がラクだったように感じた。ただ、まぁ、途中脚も攣りかけたことを考えれば、ラクに感じただけでキツかったことには違いがないのだけど。



 帰ってきた私は温泉帰りにもかかわらず、再び風呂に入って就寝。

 泥のように眠りにつくのだった。



 眠りにつくまでの、微睡みの間に考える。

 どうしてこんな大変なのに、私はロードバイクで走り回るのだろう。


 走りの爽快感を楽しみたいのであれば、私にはバイクがある。

 富士山の時にも思ったようにアクセルを捻りさえすれば走り出し、坂道もひとっ飛びに駆け抜けるバイクの方が絶対に楽でいい。

 しかしそれを言い出せば、

 

「なんでバイクに乗ってるの? 自動車でいいじゃん」


 ってことになる。

 知ってる。

 私は自動車免許だって持ってる。だからバイクより自動車の方が便利で、暑さも寒さも防いでくれて、荷物をたくさん運べて楽だってことも知ってる。

 でも自動車では、ダメなのだ。バイクでなければならない快楽があるのだ。

 そしてバイクでは得られない快楽もまた、ある。

 ロードバイクでなければならない地獄と、官能と、その向こうに突き抜けた先の快楽があるのだ。

 

 私はその快楽が欲しい。

 私()その快楽に溺れたいのだ。


 健康のために毎日ジョギングしているっていう人がいるならば、訊いてみたい。

 本音は違うんだろ? 健康とかもうどうでもよくって、走ってることそのものが目的だろ?

 

 正直に言ってしまえば、富士山一周も温泉も、目的ではあるが手段のための言い訳という側面が強い。

 温泉に入りに行くのが目的で、ロードバイクで走るのはそのための手段、ではない。

 『ロードバイクで温泉に入りに行く』までが全て目的である。

 

「はは……っ、手遅れもいいところじゃん」


 全身に広がる疲労感。

 眠りに落ちるその瞬間まで、私は次はどこを走ろうか……走るための言い訳をしようか、ということを考えていた。

 

 次は――次は、どこに行こうか?

 どんな地獄を走ろうか?

 




と、いうわけで拙作『温泉 オッサン ロードバイク』完結でございます。


ここまでお読みいただきまして、どうもありがとうございます。


面白かったという方は是非、下のボタンで高評価を頂きましたならば幸い。

次回作の励みになりますので、ぜひよろしくお願いいたします。


それでは。

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