ウィルトス
翌朝。俺は予測もできない声に起こされる。
"カイくん、おはよう。"
「!!?!!?!!?!?」
思わずびっくりして飛び起きる。その後に驚いて、隣で眠っていた小鳥もまたバタバタと羽を暴れさせた。
ソフィアの声!?…だけど、近くにソフィアはいない。なのになんでこんな直接的に響いてくるんだ?まるで頭の中に声が通っているような…。
その答えは、すぐにソフィア自身が説明してくれた。
"ああ、ごめんね。びっくりしたよね。私のギア、テレパシーなのよ。これで普段も勤務中の通信連絡とかしてるから徐々に慣れて行ってね。"
…‥テレパシーって、超能力の?ラルクは勇者だって言うし、まるで異世界能力のバイキングだ。本当にいろんな世界が入り混じってるんだなあ。なんて感心していると、ソフィアから相変わらず脳内に直接語りかけられる。どうやら例のトレーニングをするようなので、トレーニングルームに来て欲しいとのことだった。
案内されたトレーニングルームへ向かい、扉を開けると俺のトレーナーとなる人がそこには立っていた。
「………来たか。」
「うそ、ラルク………さん?」
「"さん"は不要だ。敬語も外せ。」
立っていたのはラルクだった。昨日のソフィアの話によれば、ラルクは俺と似ている能力もしくは同じ世界線にいたってことになるけど…。
「昨日、お前は木刀を持っていたな。」
「え、あ…はい………じゃなくて、うん。」
「ゴブリンは一撃で倒したか?」
「……一撃で動かなくはなったけど、確実に倒したのはもう何発か………。」
血が飛び交ったあの光景を、できれば思い出したくないがラルクに早々に掘り起こされる。…そうだ、俺はゴブリンを倒した。母さんを殺されたと言う怒りに任せて、何度も必要以上に殴りつけて。
「…ゴブリンは、ただの木刀じゃ殺せない。」
「!?」
「つまり、お前には剣に纏わるギアがあるとうことだ。」
ラルクはそう言うと、背中に刺していた大きな剣を抜いた。待って、もう実践!?心の準備が……。なんて思っていたけれど、
「この剣を持ってみろ。」
「え、でもこんな大きな剣重くて俺には…。」
「早くしろ。」
「はっ、はい!」
ラルクの圧に負けてしまい、思わず大剣を手に取る。ラルクは軽々しく片手で持ってたけど、絶対に重すぎて俺には持てない!
剣の持ち手を譲り受けて、ラルクが手を離したその瞬間に先端が重力に負けて床につくのを覚悟したけれど……。
剣先が床につくことはなかった。
むしろ、プラスチックのおもちゃの剣を持っているかのように軽かった。
「…‥嘘。」
確かに剣の重厚感は感じるのに、こんなに軽いわけがない……。どうして。
俺が戸惑っていると、トレーニングルームの開くシュー…という扉の機械的な音が鳴った。他にもトレーニングする人が来たのだろうか?
扉に視線を向けると、そこにはプラチナブロンドの青年がいた。ラルクとはまるで正反対で、おっとりとした優しそうな雰囲気の人だった。
「や。」
と、彼は柔らかく笑いながら、手をヒラヒラとこちらに向けて振る。様子を見る限り、どうやらトレーニングをしに来たわけではなさそうだ。
「アレン、何のようだ。」
「ラルクが珍しくトレーニングするって言うもんだからさ。どんな子か見に来た。」
アレンと呼ばれたその男はニコニコと俺をじっと見つめる。表情こそは笑っているが、よく見るとアレンは奥底を捉えるような鋭い視線をしていた。
俺が思わず身構えると、アレンは再びニコリと笑う。
「……カイくん、ラルクと似た者同士なんだ。」
「なんでわかるんですか!?」
「……んー?だってその剣、普通は持てないでしょ。」
アレンは人差し指で俺の持っている剣を指差した。「特に君の細腕なんかじゃねー。」なんて笑いながら乾いた笑いをこぼす。
「ま、俺としては前衛増えるのありがたいしカイくんを歓迎するよ。」
そう言って、アレンは手のひらに拳サイズほどの炎を燃やした。
一見マジックのようにも見えるけど、今朝のソフィアのテレパシーや、ウィルトスの基地施設を鑑みればわかる。アレンは本当に魔法使いなんだろう。
彼の魔法に呆気に取られていると、フッとアレンは笑う。
「期待してるよ、カイくん。」
「そんな、俺なんて全然…。」
「そんなことないさ。その剣はね、本来は勇者しか握れないはずなんだ。他の人が持つと……ドーン!!って、床に落ちちゃう。………でも、君は軽々しく持っている。つまり、カイくん。君が勇者かもしれないってこと。」
「……え。俺が、勇者…?そんな、俺、だって昨日までただの高校生だったんですよ?そんなわけ…。」
「その"あり得ない"が、実際に存在するのが今のこの世界だ。別世界で、君は確かにその剣を握っていたのさ。」
「俺が………。」
ずっと笑みを絶やさなかったアレンの表情は真剣そのものに変わっていた。
……俺が、勇者?




