ウィルトス
「あ!ちょっとラルクってば…!!」
さっさと歩いて行ってしまったラルクをソフィアはまだ話し足りないと言わんばかりに止めようとするが、そんなことはお構いなしに彼はすぐに遠くへ行ってしまった。
いつの間にか、小鳥も俺の肩に戻って来ていてちゅんちゅんと囀りを鳴らしていた。
「……もう。」
そんなラルクにソフィアは溜息をつくと、また先ほどのように廊下を進み始めた。
こんなに真夏なのにウィルトスの中は季節も感じないくらいに涼しくて、ずっと無機質な廊下が続いている。
アニメで何度も見てきた近未来的な構造に少し胸が躍り、俺は視線を散らしながら廊下を歩いた。
そんな俺をソフィアは微笑ましそうに見つめる。
「話を戻すね。君………えっと、」
「あ、佐藤海里です。…みんなからはカイって呼ばれてました。」
「ありがとう。カイくんね。……で、カイくんについてなんだけど。大抵はギアに覚醒するとトップの記憶が戻るの。それと同時に姿もトップの姿になるんだけど…。」
「俺は、そのままですね。」
「そう。稀に"アムネジア"って言って、ギアは覚醒したのに記憶を取り戻していない人たちもいるの。うちにもいるよ。もうすぐ食堂に着くからいると思うんだけど…。」
そう言って、ソフィアは大きな扉の前に立つと自動センサーが反応したのだろうか。スーッと白い扉が開いて、目の前には大きな広間が広がっていた。オープンキャンパスで見た、大学の食堂みたいだ。
「あ!いたいた!ジン!ヒナ!」
扉が開くと、ソフィアは向こう側に腰掛けていた金髪の少年と、黒くて長い髪を揺らす少女に手を振った。
ここにくるまでにすれ違った数人は青い髪だったり、ゲームやアニメでしか見たことがない格好をしていたりだったので、反対に自分が浮いていないのか心配していたが、平凡な格好をした二人にとても安心した。
スプーンを手に持って、カレーを口に運んだ金髪の少年はソフィアが声をかけると、モグモグと口を動かしながら声を発した。
「んあ?ソフィア?…って、その後ろにいるの新人?」
「こら、ジン。口に物を入れたまま話すなんてお行儀が悪いですよ。……失礼しました。新人の方ですわね。私はヒナギク。こちらはジン。私の幼馴染ですわ。」
白いTシャツにラフな格好をした少年と、学生服を纏った少女。少年はカレーを頬張ったまま視線をこちらにやり、少女は椅子から立ち上がってぺこりとお辞儀をした。
その佇まいだけでヒナギクと名乗ったその少女がお嬢様なんだろうな、と思った。反対に、ジンは俺の同級生を思い出すような馴染みのある佇まいだ。
「カイです。よろしくお願いします。」
「あー!いいっていいって!俺はジン!16歳だけど、ここじゃみんなトップの記憶持ちばっかだし、敬語とか気にするやついねーぜ?気楽にやろうぜ!よろしく!」
そう言って、ジンは無邪気に笑う。そんなジンを呆れてヒナギクは見つめていたが、「私もジンと同じ意見ですわ。」と、言っていた。
話を聞くと、どうやら2人は俺と同い年であるようだ。
非日常の中で、同い年というだけでこんなにも安心感があるのは正直ありがたい。
「よかった、俺も16歳。ジン、ヒナギク、よろしく。」
「なんだよー!タメかよ!嬉しいぜ、実はあんまり同い年っていなくてさ。姿見る限りお前もアムネジアなんだろ?俺もヒナもそうでさ。」
「…そうなんだ。でもギアは覚醒してるんだよね?」
「そうですわ。ですが、記憶だけどうしても戻らなくて。ギアも使いこなすまで他の方より少々時間がかかってしまいました。」
そう言って、少し視線を落とすヒナギク。どうやらこの2人も苦労をしたみたいだが、今の様子を見る限りはアムネジアであることは大きな問題ではなさそうだ。
「…そんなわけだから、カイくんも心配しないでね。トップの世界線が同じだったり、似ているギアを持っている人がトレーニングもしてくれるから!」
ソフィアはそう言うと、食堂の案内をしてくれた。食堂もまた料理が得意なギアを持つ人たちで管理されているそうで、味には絶対的な保証があるとソフィアは嬉しそうに話した。
うん、楽しみがひとつ増えたな。




