ウィルトス
「…………で、ラルクってばそのままこの子連れて来ちゃったわけ?」
「そうだ。」
あのあと、ラルクと呼ばれるその男に抱き抱えられた俺はなす術なくこの場所に連行された。これが"ウィルトス"なんだろうか。
白い壁と白い天井。時々聞こえるチリチリという機械音に透き通った白い光で照らされたそこは、昔見たロボットアニメの基地のようだ。
「…あの、下ろしていただいてもいいでしょうか?」
ラルクという男に俺は抱えられたままで、先ほど彼を呆れ叱りつけた女の子にこの情けない姿を晒すこととなってしまった。
カッターシャツを纏い、黒いスーツパンツを身につけているその少女は俺よりも少し歳が上に見えた。
長くて綺麗な茶髪がまっすぐに下ろされていて、はっきりとした顔立ちだけで、この子がしっかりした子だとよくわかった。
ラルクは「…あぁ、すまない。」と言うとあっさり俺を下ろしてくれた。特に悪いことをした記憶もないけれど、いきなり連行されて何が起きるのかわからない状況だったけど、拘束されたり拷問されることはなさそうだ。
俺がホッと胸を撫で下ろすと、撫でた胸から先ほどの小鳥がピヨと顔を出した。
「うわっ、お前いつの間に!!」
その黄金の鳥は、くるくると俺の周りを飛び回るとラルクの手のひらの上に止まった。
「………希望の象徴。」
小鳥を見たラルクは小さく呟くと、小鳥の頭を小さく人差し指で撫でた。撫でられた小鳥もまたその指を受け入れて、心なしか嬉しそうにしていた。
この人懐っこい小鳥、本当になんなんだろう。母さんがゴブリンに殺されてから現れたみたいだけど…。
俺が呆然とその光景を眺めていると、茶髪の少女はパン!と手を叩いた。
「さて!いきなりでびっくりしたよね。ごめん!私の名前はソフィア!オリジナルでの名前は一応、四條 秋菜っていうんだけど…。大体はみんなトップの名前で呼び合うことが多いかな。」
「ま、待って。オリジナル?トップ?」
ソフィアが自己紹介をしてくれるが、全くわからない言葉が飛び交ったことで俺は戸惑ってしまった。
名前が二つあるということ?なぜ?
「ああごめんね、わからないよね。"オリジナル"は君が元々いる世界のこと。それからトップは…。うーん、覚醒してたら説明がすごく楽なんけど…。姿がオリジナルの世界のままっぽいしその様子だと覚醒してないよね。少し長くなるから食堂に移動しながら話すね。」
ソフィアはそう言うと、世界がこんなにも混沌と化してしまった理由を説明してくれた。
どうやら、俺たちが元々いた世界をウィルトスはオリジナルと呼んでいて、そのオリジナルを軸に存在していた並行世界が収束してしまったらしい。
ウィルトスの推測によると、世界の収束は人口が多い場所から起きており、そのために日本の大都市が徐々に消滅していってしまったとか。
「それじゃあ、トップっていうのは…?」
「…並行世界が収束したことで、私たちには特殊能力が付与された。私たちはそれをギアって呼んでる。で、その付与されたギアは、どうやら何千何万と存在する世界の中で、最も世界に影響を与えた能力が付与されているみたいなの。ま、一番自分が活躍していた世界の能力が付与されたって考えたら良いわ。その一番自分が活躍していた世界を"トップ"と呼んでいるの。」
「…なるほど、わかりました。つまり、ギアを付与された人たちが集まる組織がこのウィルトス…ということなんでしょうか?」
「そうね。私たちは収束してしまったせいで世界の混沌に襲われる人たちを守ること、そして世界を元に戻すことを目標にしているわ。」
「え、それじゃあなんで俺はここに連れて来られたの?…ギアが覚醒していないとウィルトスに所属できないんじゃ…?」
「……それはラルクの見立てってところかな。ね、ラルク。この子に何か強力なギアがあるって思ったんでしょ?」
そう言ってソフィアは振り返ると、一番後ろを歩いていたラルクに声をかけた。ラルクは表情をピクリとも変えずに目を伏せる。
「…ただの勘だ。」
「ラルクの勘はよく当たるからなぁ。やっぱり勇者って第六感とか冴え渡ってるのかな。」
「え?勇者!?」
ソフィアの発言に思わず声が出る。この人が、勇者?…つまりは並行世界で勇者をしていたってことなんだろうけど。たしかに、それは紛うことなき"トップ"中の"トップ"だ……。でもこんなに強面の人が勇者だなんて…。
「………シャワーを浴びてくる。」
俺がじっとラルクの顔を見つめていると、少しだけ眉間に皺を寄せた彼は、そう言って踵を返してしまった。やっぱり、怖い人だ。とそう思った。




