エンディングのあとに
突如として消えてしまった母のことで頭がいっぱいになり立ち尽くしていると、庭からまるで犬が唸るような低い声が聞こえた。
「は………。」
割れた窓ガラスに触れないように、そっと覗いて見るとそこには緑色の肌をした小柄な怪物がいた。耳は尖っていて、手足は痩せ細っており、爪は伸びって刺されでもすれば引っ掻き傷ができそうだ。鋭い目つきで徘徊するそいつもまた僕の見覚えのあるものだった。
……………ゴブリンだ。
一体世界はどうなってしまったというのか。母さんを探したかったけれど、これじゃ大声で母さんと叫ぶこともできない。庭を徘徊するゴブリンはまだこちらに気がつく様子はない。
ひとまず、家の中に戻ろう……
とその時。
うっかり割れてしまったガラスの破片を踏んでしまった。
靴下を履いていたとは言え三角に尖ったその部分を見事に踏んでしまい、小さいかけらが僕の足の裏を突き刺した。
「痛っ!!」
反射的に出してしまった声。本当に僕は馬鹿だ。こんな光景を見てもなお、まだ平和ボケしていた自分が抜け切っていないなんて。
「………ぅう"…。うガァァ!!!!!!」
僕の声に反応したゴブリン瞬時に僕の元へ突進してくる。あの鋭い爪をこちらに向けて。正面から見ると人間のものよりもずっと分厚そうでまるで刃物みたいだ。あんなもので刺されたら怪我では済まない。
「う、うわぁぁぁぁぁ!!!!!!」
しかし一般人である僕に対抗する術はない。怪我をした足裏のことなんて忘れて急いで窓際から部屋の中へと戻り、扉を開けて廊下に出る。
階段を1段飛ばしで駆け上がって自室へと戻る。火事場の馬鹿力というべきなのか、いつもよりもずっと早く自室へとたどり着いた。
急いで扉を閉めたが、強く閉めすぎたようでバタンと大きな音が鳴る。
その音を聞きつけた、1階の廊下にいるであろうゴブリンがこちらに気づいてしまい、トントンと階段を登る音が聞こえてきた。
「なにか………何か、戦えるもの…っ…。」
自室にあるものを必死に思い出す。
そうだ、木刀だ。
修学旅行で買ったものがクローゼットの中に…!
僕はクローゼットを開けて、壁際にずっと立てかけたまま置いている木刀を取り出した。買ってから一度も使ったことはない。まさか使うと思ってすらいなかった。剣道部でもないし、今日初めてこれを握る。
でも、やらないと。
生きるためには。
少し重たいその剣を、両手でしっかりと握り僕はゴブリンを待ち受ける。
トントントン…と、ゴブリンが階段登る音が収まった。
心臓がバクバクする。まるで飛び出しそうなほど大きな鼓動を感じる。それを収めるように、僕は長く息を吸って、そして吐き出した。少しだけ、ゴブリンが扉を開き方がわからないことを期待した。
けれど、現実はそんなにも甘くはない。ゴブリンは慣れた手つきで扉を開いた。
「はァっ!!!!!!!!!!」
それを合図に僕は飛び出した。