第八話 無茶なクエスト
「はー、喉乾いちゃった」
愛が満足そうに言う。
ワッフルを食いモンスターと戦闘したからか満足そうに伸びをする。
手持ちの水はあるが……。
俺は地図を確認し、愛達に見せる。
「ここから少し歩いた所に商人の店がある。そこで一服できるだろう」
「だから食べ過ぎるなって言っただろ」
「ワッフルのせいじゃないもん、戦ったからだもん!」
「店に行けばクエストを受けられるかもしれない。行こう」
エギーがそう言い、歩を進める。
勇者パーティーがある世界ならクエストもとい依頼を用意している場所も存在するだろう。
クエストを受ければ報酬が貰える。
報酬が貰えれば装備を強化できる冒険者には美味しいイベントだ。
俺は草原を見渡した。
遠くにぽつんと立つ建物が見える。きっとあれがそうだ。
こじんまりとした商人の店には、新しい武器やアイテムが小規模だが揃えてあった。
椅子と机もまばらに用意されており、冒険者達が一息つけるようになっている。
壁に立てかけられた弓を一つ一つ手に取るエギーは、ひときわ大きな弓を選んで商人の男に手渡す。
「これをひとつくれ」
「はい、1000バルスです」
エギーが新しい弓を購入する。
いや、エギーの場合は弓じゃなくてちゃんとした矢を購入した方が良いんじゃないか……。
「こっちだよエギー、ルテン君!」
400バルスで紅茶をオーダーした愛が席を確保し、俺達を呼ぶ。
俺達が席につくとポニーテールの若い女性の商人が席に訪れた。
「ここではクエストを受けることができますが、受けますか?」
答えは勿論イエスだ。
「クエストは二つあります。一つはこの草原に増えすぎたハムスターを減らしてほしいので、ハムスターを五体討伐してほしい事。報酬は2000バルスと回復薬S五つです」
やはりハムスターと戦わなきゃいけないか……。
しかしポンコツスキルと攻撃の俺とエギーには丁度良いクエスト。
レベルアップしてもっとまともな攻撃手段を得なければならない。
しかし、ハムスターを討伐か……。
「もう一つは、この“カラカラ草原”内で脅威となっている、稀に出現するモンスター“アリワリア”を討伐する事。報酬は20000バルス回復薬L三つ、アイテム“体力の書”です」
報酬が豪華だが、二つ目のクエストは上級者向けのクエストだな。
選ぶのなら、やむ終えないがハムスター討伐だ。
と、エギーが結論を出す。
「じゃあモンスター“アリワリア”討伐で」
「クエストを受け付けました!」
待て待て待て!!どうしてそっちになった!受注ミスか?ハムスター討伐は心が痛むがだからって選んじゃいけないものはあるだろ!
「アリワリアはこの草原で一番の脅威です。助かります」
「“アリワリア討伐”?大丈夫なの?」
「脅威的なモンスターに困ってるだろ、俺達が倒してみせようじゃないか。報酬も豪華だし、皆で倒せばきっと倒せるさ」
皆でって言ったってこのパーティー三人だし、ネギだし、ポンコツ呪いだしで勝算が無いぞ!何考えてるんだ!
「アリワリアの出現地はどこだ?」
「ここから南側“カラカラ草原”端の辺りになります。ご武運をお祈りします」
「任せてください!」
どっから出てるんだその自信は!エギーが紅茶をぐいっと飲み干し胸を張る。
おいおい、取り消せよ今の受注を。
引き返すなら今しかないぞ。
虚勢を張るのは為にならないぞ!
「この“カラカラの草原”には、道行く勇者パーティーを狙った盗賊もいますので気をつけてくださいね」
「盗賊もいるんだって。エギー、大丈夫?」
愛が心配そうに言う。
愛!こいつを止めてくれ!
「大丈夫大丈夫!盗賊もアリワリアも!もしピンチになったら他の通りすがりの熟練の勇者に力を借りたりしたらいいじゃないか」
俺は思い出す。
この草原を歩き続けること一時間程になるが、ひとっこひとり居なかったぞ別の勇者なんか。
「エギーがそう言うなら、いっか」
良くなーい!!愛まで物凄く楽観的だ!
「俺は反対だ」
「ルテンは反対なのか。でももう受けちゃったし、二対一でこのクエスト受注決定な」
絶対無理だ!お前自分の実力分かってんのか!?
俺が止めるも虚しく、エギーは荷物を纏めて早速アリワリアを倒しに行く準備を終えると、一足先に愛を誘って店を出る。
「待てエギー!待て待て!」
ここで勇者パーティーを抜けたら助かるんじゃないか?とも考えたが、愛まで連れて行ったともなると一人だけ逃げる訳にもいかない。
俺はエギーを追いかけた。