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第七話 エンカウント!

洞窟の中で俺と、エギー、愛は村人達に別れを告げた。

村人達は全員集まり、俺達の冒険の始まりを見届ける。

俺のこちらでの母親が、別れを惜しむように俺を見送る。


「無事に帰ってこいよ!」

「達者でなー!」

「洞窟の外は魔物でいっぱいです。気をつけてくださいね」


銀色のアイシャドウの魔術師さんが、俺達に手を振る。

俺は手を振り返す。

変な修行だったとはいえ、長く世話になった。

エギーと愛も、魔術師に手を振り返す。

俺達勇者パーティーは洞窟から出ると、支配された村を通り抜ける。

あの強いニーズヘッグが辺り一帯にうようよおり、襲撃された時には見なかった人型の魔物もいる。

今の俺達ではひとたまりもないだろう。

見つからないように村を出る。

村を出て北へと暫く歩くと、草原に辿り着いた。

名を“カラカラ草原”というらしい。

広々とした見通しが良く、遠くにちらほらと魔物らしきモンスターが見える。

吹く風は心地よく、魔物に支配された領土とは思えない。

俺は地図を広げ、現在地を確認する。

元々はタルンタルン村の領土であり、タルンタルンの人口が少なくなると同時に魔物が住み着き始め、現在のカラカラの草原が出来たと以前魔術師に聞いた覚えがある。

魔王城から遠い位置に存在する為、比較的弱い魔物が群れを成している。

タルンタルンの村も魔王城から遠い位置にあり、襲撃を受けにくい場所だったにも関わらず襲撃された理由は分からない。

タルンタルンの村に何か脅威を見出した、という噂がある。


「もう食べてるのか、アイ」


俺の前を歩くエギーと愛は、仲睦まじげに会話をしている。


「エギーも食べなよ。ほら、村人から貰ったワッフル。サクサクフワフワでとてもおいしいよ。あっ、こっちは魔術師さんのクッキー」

「昼にはまだ早いぞ。ヒールのし過ぎはデブの元だぞ」

「沢山歩くから大丈夫だもん!それより食べておかないといざモンスターと出くわした時にお腹が減って力が出ない方が大変だよ!」

「満腹すぎて眠くなったらどうすんだ?」

「大丈夫だってば。ほら、エギーの分!」

「俺はまだいらないかな〜」

「おいしいよ。村のお菓子屋さんが作った特製のワッフルなんだから。ほら!ほら!いい匂い!」


愛がワッフルをエギーの前に突き出して振る。

エギーはそれを受け取り、拒んでた割にはむしゃむしゃとあっという間にたいらげた。


「旨いな」

「でしょ?ほら」

「そんなに何個も食べねぇよ。昼飯が入らなくなるだろ、アイも食べすぎるなよ」

「は〜い」


村を出てからずっとこんな調子でイチャイチャしやがる。

幼馴染みが俺なら今頃エギーのポジションには俺がいた筈なのだ。

いや、前世ではあまり意識はしていなかったが、エギーポジションは俺だったのだ。

どうにもまた転生に失敗したのか今はこんなポジションになってしまった。

ここで死んでもう一度転生しようかとも考えたが、また虫やら動物やらになるかもしれず人間になれないかもしれない。

転生できるかどうかも分からないので、行動に移せずにいる。

そんな俺達の前、草の根を分けて小さな体が俺達の行く手を阻んだ。

早速魔物とのエンカウントだ!イチャイチャしてる場合じゃないぞ、お二人さん。


『ハムスターと遭遇しました』

「ハムスター!?」


何でハムスターなんかとエンカウントするんだ!スライムとか魔物っぽいやつと戦わせてくれよ!

ちなみに、ハムスターには転生したことがある。

回し車を回すのが何が楽しいんだと思いつつ、飼い主から不審がられないようにカラカラ回していたら意外と楽しい事に気づき、暫く転生せずにずっと回し車で遊んでいた記憶がある。


「何をしているんだルテン!魔物だから倒さないと駄目だぞ!」


エギーが弓矢を構える。

この愛らしい見た目のものを剣で切ることなんかできるか!そう思った俺は逃げる手段を選択する。

ところが、ハムスターはこっちに向かって走ってくる。


「危ない!アイ!」


エギーがネギを放つ。

ネギはハムスターの居た場所に飛んでいくがかすりもしない。

守るとか言っておいてそれかよ!と言及したいが、素早いハムスターに俺も間に合わない。

愛は息を吸い込むと、向かってきたハムスターに右足をあげる。

蹴りが炸裂する!

黒色に光る粒子となって消えるハムスター。

な、なんだ血を流したりはしないのか。

それならまだ剣で戦う気力も出るが……。


『500バルス獲得。経験値獲得。レベルアップしました。スキル“ヒーリングS”を覚えました』

「やった!流石アイだ!」


愛の体がキラキラ光る。

回復魔法か、これがないと不便だよな。

それにしても、そんなに小さい生き物に対して容赦なく蹴れるとは、こっちの愛は随分腹が据わっている。

転生前の愛はどんなだっけか。

俺は記憶の中の愛を思い出す。

お節介でいつも元気で、ぐらいしか知らない。

俺は愛のメッセージを受動的に受け取るばかりで、愛の事をあまり知らなかった事に気づいた。


「愛はハムスターが嫌いなのか?」

「ううん、可愛いから好きだよ。でも魔物だから倒さないと。魔物を倒して、タルンタルンを取り戻すんだ」


愛はこんなに使命感に燃えるタイプだったのか。

転生して初めて愛の事を少しだけ知った気がする。

いや、あっちの愛とは別の愛だから知ったも何もないかもしれないが……。

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