第六話 そして十七歳に
十二年後。
修行の成果を見せるときが来たと魔術師は俺、愛、エギーを集め、村人達を呼んだ。
母親が心配そうに俺を見る。
洞窟の中で村人達に囲まれる。
俺は緊張で乱れる呼吸を整える。
木の棒を装備し、杖を銀色に光らせ魔法を使う!
「“カース!”」
赤くなった歯磨き粉に村人達がざわめく。
魔術師が歯磨き粉を取り、中身を出して味を確認する。
「やりました!歯磨き粉が辛くなりましたよ!」
おおーと上がる歓声とは裏腹に俺は心の中で叫んだ。
異世界に何で歯磨き粉があるんだという疑問はともかく、俺YOEEEEE !もう十七歳だぞ!冒険に出る歳にこのレベルの魔法はまずいんじゃないのか!?
「レベル1ならそんなものですよ。モンスターを倒し、レベルが上がるともっと色々使えるようになるはずです」
な、なるほど。
いや納得して良いのか?
「いつの間にかルテンさんはこんなにも立派に成長して……私は嬉しい限りです」
魔術師は感嘆の声をあげるが、いやいやいや、背が伸びただけで肝心の魔術は全く成長してないぞ。
魔術を使うより素手で殴った方が話が早いまである!
「運命の十七歳です。貴方は魔術を見事に獲得し、冒険に出て魔王城を目指すのです!」
いやいやこの実力で魔王城へ行ったらひとたまりもないぞ。
相手モンスターを辛くするだけの魔法でどうこうできる訳がない。これでいいのか!?村の存亡がかかってるんだぞ!
「こっちはもう冒険に出る準備万端だぞ、ルテン」
エギーだ。
二十歳程にに成長したエギーは、弓と、何故か手に数本のネギを持って来た。
「俺も今しがた修行を終えたところだ」
「この十二年、エギーはどんな修行をしてたんだ?」
「腕は確かだぞ、見てろ」
エギーはふところから的を取り出すと洞窟の端に置く。
次に背負ったネギを一本を取り出し、紐にネギを引っ掛け、飛ばす。
飛んでいくネギ。
的の所まで飛んでいったネギは的の中心にコツンと当たるとそのまま地面に落ちた。村人から歓声が上がる。
いやいやいや、ちょっと待て!
「刺さらないじゃないか!」
「でも的の中心に当たっただろ」
殺傷能力の弱いネギを果たして武器といえるのだろうか。
ネギ矢を扱うアーチャーにあちゃあとなった。
魔術師がハンカチで目元を拭う。
「皆すっかり成長して……是非魔王を倒してくださいね」
倒せねぇよ!ネギの矢に辛くするだけの魔法じゃレベル1のモンスターにでもやられちまうだろ!俺はせめてものの戦力に、部屋の中にあった飾りの剣を手に取る。
『聖剣Sを装備しました』
ナレーションが剣から聞こえる。
結構その辺に置いてあったものを勝手に拝借したのだが、なかなか良い代物なんじゃないか?少なくとも辛くなる魔法よりは使えるだろう。
これで物理的に相手を切るしかない。
誰のものか知らないが、お借りしまーす!
俺がそうやって剣を拝借したその時、一際大きな歓声が上がる。
村人達の中心で、愛が丸太にかかと落としを喰らわせ、見事真っ二つにしたのだ。
凄い。
村人達に歓迎される愛を見ながら思った。
勇者パーティーに俺とエギーがいなくても、愛一人いれば大丈夫なんじゃないだろうか……。
「がんばろうね、ルテン君」
村人に囲まれた愛が俺に微笑みかける。
エギーと同じく二十歳程に成長した愛は、俺の知ってる愛にすっかり成長していた。
服装から攻撃からして恐らく格闘家だろう。
「アイ、そうと決まれば早速準備を始めよう。地図を用意してくれ。食料もだ」
「金銭や食料は村の皆も用意してくれるんだって。私達、ついに旅に出るんだね」
「アイに何かあったら俺が守るからな」
「エギー……」
俺も守るからな!俺は心の中でそう叫んだ。
幼馴染みというだけあり、エギーは愛に馴れ馴れしい。転生前は俺と幼馴染みだったんだぞ!と言う訳にもいかず、複雑な思いで旅の準備を始める俺だった。