第五話 修行
タルンタルン陥落から数日後、村人達は洞窟暮らしを始めた。
水は地下水を使用し、洞窟の中で食物を栽培して食料を作る。
一部の力に自身のある男達は洞窟の外に出て、魔物に見つからないように森林まで赴き、野生動物を狩ってくる。
また、村から生活に必要な物資も調達してくる。
村にいた時よりも貧相ではあるが何とか生活できるようになった。
そして、五歳にして俺の冒険者になる為の修行が始まった。
いくつか部屋のある洞窟の中で小さな空き部屋が俺の為にあてがわれた。
エギーと愛も魔術師から指導を受けるという。
俺、愛、エギーの順でこの部屋で修行をすることになった。
魔術師が俺を指導する。
「いいですかルテンさん。あなたは背中の傷の呪いを持つ体なので、闇属性の魔法“カース”を使うことができます。魔法を使うとき、憂鬱な事を思い浮かべて、対象に怒りの気持ちをぶつけるようなイメージで魔法を放ちます。この長い棒を持って、構えてください」
いかにも闇属性らしい魔法の使い方だ。
俺は渡された長い棒を手に持ち、意識を集中させる。
『木の棒Nを装備しました』
ナレーションが流れる。
魔術師は俺の眼の前に花を差し出した。
魔術師が手から銀色の明かりを差し出し、俺の腕にあてがった。
「呪文を詠唱して、どんな形でも良いのでこの花に変化をもたらしてください。いいですか。“カース”」
カースって、そんな単純な呪文でいいのか?まあいい、やってみよう。
憂鬱な事、怒り、怒り……。
愛の幼馴染みポジションに俺がいなかった衝撃をあの花にぶつけよう。
ぶつけるイメージを頭の中に思い描く。
「“カース”」
……何も起こらない。
もう一度、爆発させるような勢いでと魔術師は言う。
頭の中にもう一度イメージを描く。
「“カース!”」
花が風も吹いていないのに揺れる。
もう一息だ。
「“カース!”」
息を吹いたように花が揺れ、花の色が黄色から赤に変わった。
「これでこの花は呪われているはずですが……」
呪われているというか、辛くなったって言ってたぞ。
しかし呪文を詠唱して何か変化が起きたのは凄い事だ。
規模はしょぼいがやるじゃないか五歳の俺。
やったのか?俺。
魔術師は花をまじまじと観察した後、花びらを千切って口に入れ、辛っと声をあげる。
「やりました!成功ですよ、花が辛くなりました!」
魔術師は喜んでいるようだったが俺は腑に落ちなかった。
ま、まだ五歳だからな。
こんなもんだ。
転生前の記憶があるものだから単純すぎる修行が落ち着かないだけだよな。
「今日の修行はこれまでです。明日も頑張りましょうね」
まだまだ全然元気だから、もう少し修行してもいいんだけどな……。
俺は洞窟内に用意された自分のスペースに戻った。
母親が俺を抱きしめてくれる。
洞窟の一番広い部屋では前世でいう避難所のような空間で、村人は仕切りもなく各々のスペースで生活をしている。
俺のスペースには、愛とエギーが遊びに来ていた。
「じゃあ行ってくるね」
快活に愛は俺達に手を振ると俺が修行した部屋に入っていった。
エギーという少年が話しかけてくる。
「修行どうだったんだ?」
花を辛くしただけ、とは言えねぇ!俺は「まあまあかな」とぼかして言った。
それから幾日も幾日も、俺は全く同じ修行を繰り返した。木の棒を持ち、呪文を唱える。
「“カース”」
「やりました!ソイソースが辛くなりました!」
相変わらず辛くするだけの魔法だ。
最初は発動しない事も多かったがそれもなくなった。
それにしても実用性のなさげな魔法だ。
いやいや、まだ俺は子供だ。
子供に大がかりな魔法は難しいのかもしれない。