第四話 壊滅
「壊滅じゃ」
いかにも長老と言った見た目の老人が、洞窟に避難してきた人々にこう告げた。
待ってくれ、俺はまだ全然状況を理解できてないんだが……。
洞窟の中は存外広く、村人全員が入ってもまだ余裕があった。襲撃された村から来た人の中には怪我をしている人もおり、ヒール魔術を施されている。
ドラゴンといいヒール魔術といい、本当にここは異世界なんだな。
老人の隣には、以前に俺が勇者になることを予言した魔術師が立っていて、またこう告げる。
「我らの村“タルンタルン”は魔物の襲撃に遭い、陥落しました」
なんだって!?洞窟の中がどよめく。
普通、転生したら街で平穏に生まれ、勇者になるべく修行を重ねる毎日をおくるだろ!何陥落してんだ!
俺は面食らった。
なにか防衛策はなかったのか。
そうだ、予知魔法があったじゃないか!予知魔法でこの未来を見ることはできなかったのか!
「昨日昼のおやつの時間に水晶に“タルンタルン”が滅ぶ景色が映っていたのですがまさか本当に起こるとは……!」
魔術師が震えながら言った。テレビみたいな感覚で予知を見やがって……。
もっと自分の占いを信じろよ!
「村人が全員無事なのが救いです。皆、洞窟の中で魔物に見つからないようひっそり生きましょう」
嫌だー!洞窟の炎が揺れる。
俺の快適異世界ライフが全くの予想外の方向に舵を切った。
まさか自分のいる村が壊滅するとは思わないだろう。ま、まだ転生ライフ失敗というには早い。
そうだ。
「まじゅつしさん」
俺は毛布をかぶり震えている魔術師に話しかける。
折角の美しい銀色のアイシャドウも今は色褪せて見える。
「おれが、あかごのときにつげられはみらいはどうなるのですか?ゆうしゃになるって……」
そう、予知が当たるのなら俺は勇者になるはずなのだ。
魔術師はハッとしてこちらを見ると、俺の肩を掴む。
「あなたは五年前の……あの時の赤子ですか」
「はい」
「私の占いは絶対です。あなたは勇者になり、魔王を倒し、我が村“タルンタルン”を奪還する希望の光となるやもしれません」
こんな重い感じに勇者になるのか!快適異世界ライフなんだからもっとゆる〜い感じに勇者になりたかったぜ。
「どうかしたかの」
いかにも長老が俺と魔術師のやり取りを見て、声をかけてきた。
「この者は私の予知魔法で、未来、勇者になる者です」
話を聞いていた村人達がざわめく。
いつの間にか俺の背後にいた母親が期待の眼差しで俺を見る。
待て待て待て!プレッシャーをかけないでくれ!まだ俺は資金集めを始めたばっかだし、勇者になる修行もまだだし、冒険に行く仲間のあてもまだ見つかってないんだ!と思った心の中を読んだかのように魔術師はこう続ける。
「予知で勇者になると出たのは貴方だけじゃありません」
そうなのか?思いの他の言葉にぽかんとする。
てっきり俺にだけ言われた予知だと思っていたのだが、俺の他にも勇者になると予知された者がいたようだ。
すると村人の中から、二人の少年少女が出てきた。
一人は緑色の髪をした男の子、俺よりも少し歳上だろうか。もう一人の少女は……。
「あい……」
魔術師の店で会ったっきりの、愛そっくりの少女が、あの時よりも少し成長してそこにいた。
俺が赤子の頃既にあちこちを駆け回れるぐらい成長していたから、今はもう小学生くらいの歳だろうか。
よく考えたら俺より歳上なんだなこの愛は。
転生前は同じ歳だったので、変な感覚だ。
「彼らは私の予知魔法で勇者となり、タルンタルンを奪還せんと魔王に立ち向かう運命にある子供たちです!」
おおーと村人達のどよめきが広がる。なんだか後には引けなくなったぞ。
それよりも。
「あいも、ゆうしゃになるのか?」
俺は愛そっくりの少女に話しかける。
「私の名前知ってるの?」
「あ、えーと、まじゅつしからきいた」
「そうなんだ。私とエギーは、大きくなったら勇者になって魔王を倒す旅に出るんだって。魔術師さんがそう私達に予言をくれたんだ」
エギー?
「えぎーってだれだ」
「こっちの男の子だよ。私の幼馴染みなんだ」
なんだって!?俺は驚愕に開いた口が塞がらない。
この愛には俺とは違う幼馴染みがいたのだ!
「三人共、どうか魔王を倒してこの村を取り返してくれないかね」
「任せてください」
はっきりとそう答えるエギーという少年にが答えると、村人達から歓声があがる。
待て待て、愛の幼馴染みは俺のポジションだ。
それがこんな眼の前で自分のポジションを奪われるとは……これじゃ転生前の方が良かったじゃないか!
「私が彼らに修行をつけます。どうか我々の希望の光とならんことを願っています」
魔術師が祈りのポーズを俺達に向ける。
呪われたり街が壊滅したり、幼馴染みに先に幼馴染みがいたり、俺の快適異世界ライフも見事に壊滅したのだった。