第三十五話 処刑当日
処刑当日。
処刑場にて、バンパイアのキューは手足を後ろで縛られ、地面の上に膝立ちさせられていた。
周りには、見物する人間も沢山いる。
「これより吸血鬼キューの処刑を始める」
役人がキューの罪状を読んでいく。
主に宿場に泊まっていた男ら十人を殺した罪でだ。
(こんなことになるならダンジョンから出ないでいたら良かったです)
キューは後悔する。
ダンジョンに来た人間だけを狙えば、ダンジョンに来た勇者に倒されることはあってもこうして処刑される事はなかったのである。
(せめて最後に血を飲みたいのです。ああ……)
キューの脳裏に浮かんだのはエギーの顔だ。
(エギー様は優しかったのです。魔物であるキューに血を与えてくれて、優しい人間だったのです)
エギーは無理矢理血を吸った人間は沢山いるものの、自ら血を差し出してくれる人間と会ったのは初めてであった。
(最後にエギー様と会いたいのです。エギー様の血を……)
「罪人!最後に言う言葉はないか?」
役人は罪状を読み終わり、キューにそう問いかける。
「エギー様……」
キューは脳裏に浮かんだその顔の名を呟く。
「それたけか?」
「…………お腹が空いたのです」
すると、キューの耳に鳥の羽ばたく音が聞こえる。
その音は大きくなり、首をあげたキューは頭上を見上げると、一匹の鳥が空を滑空しているのが見えた。
鳥は、どんどん降下してくる。
キューはその鳥に見覚えがあった。
「エギー様……?」
「処刑を始め……うわっ!」
役人も鳥の存在に気づいたらしく、キューの頭上に降り立った鳥にたじろぐ。
刃物を持った処刑執行人がその鳥によりなぎ倒された。
「エギー様!」
鳥の足に掴まれていたのは、紛れもなくキューの望んだエギーである。
エギーは両手を差し伸べると、キューの後ろで縛られた両手を掴み、鳥と共に上昇する。
「逃げる気か!」
「撃ち落とせー!」
ざわめく見物客。
役人は槍を投げる。
槍に当たらないようジグザグに飛ぶバサバサは、役人の投げる槍の届かない位置まで上昇する。
間抜けに空を見上げる役人達が徐々に小さくなるのを、キューはじっと見つめていた。
「エギー様、助けに来てくれたのですね」
「当たり前だろ?キューはもう、俺達の仲間だ」
「命の恩人なのです。キューは、一生エギー様の下につくのです」
「大げさだな!俺達は友達だ!だろ?」
優しいエギーの声に、キューは涙をぽろぽろ流す。
「怖かったのです、エギー様!」
「もう大丈夫だ!」
「う……うわああああん!」
キューは大きな声で泣く。
涙は、遥か下地上にぼたぼたと落ちていった。
「ぐ……ぐああああああ!」
俺は泣きたいぐらいの痛みに、地面を転がっていた。
元凶は、背中の傷だ。
キューを助けようとバサバサに乗った瞬間、背中が焼けるように痛み出したのだ。
恐らく、ダンジョンでバンパイア相手に愛が本気を出して戦っているのだろう。
よって、キューを巨鳥を使って救出する役割はエギーに任せる事になった。
畜生、タイミングがとことん悪い!
痛みに悶絶していると、羽音が近づいてきた。
エギーが帰ってきたらしい。
「帰ったぞルテン!ルテンが下見してくれたお陰で大成功だ!」
「うぐぐ……、巨鳥でキューをキャッチするのに邪魔なものが無くて幸運で良かったな」
エギーがキューを地面におろし、エギーもまた地面に足をつける。
キューは涙で目を腫らして、エギーにギュッと掴まる。
「投げ槍を使われたのが危なかったな。弓を使う奴が居なかったのも幸運だ。だが早くこの街を去らないと、また捕まるかもしれないぞ」
「そうだな、ダンジョンに愛を迎えに行った後すぐにでもこの街を去ろう」
その時、ぐうぅ〜と間の抜けた音が鳴った。キューの腹からだ。
「昨日から何も食べていないのです」
キューがお腹をさする。
エギーはニヤニヤしながら、腕まくりをした。
「さては、またこいつがいるな?」
「ほしいのです!」
キューがエギーの腕に縋り付く。
やれやれ、仲間にするんだったら、餌付けが大変だぞエギー。
「俺は大丈夫だルテン!キューの腹を満たせるのは俺だけだからな!」
全く、カッコつけやがって。
俺はため息をついて、痛む背中をさすった。
痛みが少し弱くなってきた。
愛の戦闘が、終わったらしい。
愛は大丈夫だろうか?




