第三十四話 脱獄騒ぎに乗じて
「いやぁやるじゃねぇか。これで俺ぁ自由の身だ」
男に言われた通り、休憩室の隣の部屋から鍵を取ってきて牢を開けてやると、男は開放されたと言わんばかりに伸びをし、牢から出た。
「それで、キューの居場所はどこだ」
エギーは男に問う。
「まあまあ、慌てなさんな。魔物のバンパイアだぁ、そう簡単に助けられねぇよ」
「居場所を教えてくれるだけでいい。後は俺達が何とかする」
「魔物はこことは別の、こっから見えるだろぅ?あの塔の中にいる。見張りは一人なんかじゃねぇ。魔法で誰にも中に侵入できないようになってる。まぁ無理だろうなぁ助けるなんてのは」
男が指差す先に見える塔。
有刺鉄線でぐるぐるまきにされたような外観の塔だ。
キューは知能の高い魔物だ、扱いも相当慎重らしい。
「チャンスがあるとしたらまぁ、処刑の時だろうなぁ。明日だったか、首をちょんぱする為に罪人を外に移動させるからなぁ。狙いはその時よぉ」
「成る程、処刑執行直前を狙えばいいか。それまで俺達はどうやってこの場所に潜伏してればいい?」
「いいや一度出ていった方がいいね。なぜなら俺が脱獄して騒ぎになるからなぁ、役人共の目も険しくなっちまう」
確かに、この場に留まるのは無理そうだ。
あの塔の中に突撃できれば言うことないんだが、俺達のレベルじゃ難しそうだ。
「処刑時は外に出るんだろ?空中から狙えばいいんじゃないか」
「おぅ?どうする気だ緑の兄ちゃん」
「外からバサバサを使ってキューを拾い上げればいい」
成る程、それは名案だ。
それならば一度処刑場を下見しておく必要があるな。
「バサバサ?」
「巨鳥の名前だ」
「へぇ、いい仲間がいるじゃねぇか。……おっと、待て」
男が静止をかける。こつこつと足音が聞こえてくる。役人だ!足音はどんどん近づいてきて、人影が男の牢の前に姿を表した。
「話し声がしたが、誰と話していた」
牢の中に入った男は笑う。
「いやっはっは、独り言だ」
「随分と大きな独り言だったな」
「処刑される身よぉ、おかしくもなっちまうわ」
「フン。自業自得だ。七十八番牢、異常無し」
役人は辺りを念入りに見渡すと、また靴音をたてて去っていった。
靴音が消えた頃、男の牢の中にある毛布がもそもそと動き、ぷはあ!とエギーと俺は顔を出した。
「危機一髪だったな」
「こんな場所で喋ってるからだ。長居無用だな」
「そうともさ、俺もとっととこんな場所からとんずらさせてもらおうかねぇ」
男はニヤリと笑う。
「ありがとう、おっさん」
「礼を言うのはこっちだぜ」
俺達はおっさんと別れる。
さて、俺は役人服の襟を正す。
処刑場の様子見は俺がこの格好で行った方がいいだろう。
ひとつ目に留めておかないとな。
「俺は先に脱出しとくぜ。ルテンと一緒に処刑場を見に行くのは流石に怪しいからな」
エギーとも別れる俺。
処刑場はどこだろう。
暫く辺りをうろうろする。
もう一人ぐらい味方が欲しいものだ。役人に聞く訳にもいかないし……。
「脱獄だー!」
男のいた牢から、そんな叫び声がした。
なにっ、もう見つかったのか。
意外と早いな。
俺は長い廊下を足早に歩く。
早く処刑場を見つけて脱出しないと、バレるかもしれない。
向かいから来る人影にぎょっとする。
「罪人は見つかったか!」
役人の問い。
そうか、これは好都合だ。
脱獄した男を探すふりをすれば、あっちこっちうろうろしても怪しまれないぞ。
「鍵もないんだ!誰がと話し声がしたと言っていたから、手引きした人間がいるのかもしれない!」
「処刑場の近くで不審な足音がした気がするぞ」
「よし、処刑場だ!」
よしよし、上手く誘導したぞ。
俺は密かに微笑む。
罪人を探すこの役人達に、処刑場まで案内してもらおう。




