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第二話 呪いと“アイ”

「呪われています」


産まれてから三ヶ月程経っただろうか、怪しい壺や入れ物が沢山収納された部屋に、赤子の俺は連れてこられた。

産まれた赤子には“占い”を受けなければならないしきたりがあるとのことでこの部屋に連れ込まれたのだ。

視野に天井と赤子の俺を抱く母親らしき女性の顔、そこに妖しく美しい銀色のアイシャドウをした女性の顔が入り込んだ。

頭からかぶった黒いローブが揺れる。

静かに「呪われている」と告げたのはこの女性らしい。


「背中に傷跡があります。そこから多大な力を感じます……縦に一本横に十九本。何を意味しているかは分かりませんがこの子は普通の子とは違うのは間違いないでしょう。吉と出るか凶と出るかはこの子次第です」


呪われているって、俺の事か!?俺はまだ良く動かない赤子の手足をじたばたした。

抱き抱えられた体が母親の腕で揺らされる。

どうやら俺はいわくつきの赤子に転生してしまったようだ。

「呪われている」とは、随分古風な物言いだ。

やっと人間になれて転生成功したかと思ったのにどうにも雲行きが怪しい。

人間になったからには、残っている前世の記憶をフル活用して快適な人間ライフをおくりたいんだが……。


「一体誰がルテンを……!」


名前は見事、るてんと名付けてもらえた。これは何の運命か全くの偶然である。


「これ程強大な呪いの力をかけれる者は魔王しか思い当たりません。この子は勇者になり、この地“タルンタルン”を支配せんとする魔王と対峙する宿命にあると予知魔法は告げております」


魔王!勇者!魔法!ゲームでしか聞いたことのない単語が並ぶ。

赤子の俺を連れて大真面目にファンタジーごっこでもしてるのか?それにしても村の名前脱力感のある名前だな。

心の中でツッコミながら二人の話に耳を傾ける。


「勇者……!他の村には沢山いると聞きますがこの子にも素質があるんでしょうか」

「予知の結果、属性は闇、固有魔法の呪いを使役する冒険者となるでしょう。十七の時にはこの子は仲間と共に旅に出る未来が見えています」


ふむふむ、呪われているというから何かよからぬ事があるのかと思いきや、思ったより前向きなライフをおくれるっぽいな。

俺はこの世界で冒険者になって、魔王と対峙して、何故俺を呪ったのか問い詰めればいいんだな。

二人の会話から分かった事は、この世界は魔法や魔物の存在する異世界だという事だ。

前世の引き籠りとは違い俺は勇者になれると云う。

勇者になって魔王を倒す異世界ライフを満喫するなんて夢のような状況だ。

是非そうなりたい。

すると、突然部屋の扉が開いた。小さい子どもの声が二人、部屋に響く。


「まじゅつしさん、おやつちょうだい!」

「おやつー!」

「おやおや。今日も来たのですか。そんなに私の作るクッキーが美味しかったのでしょうか。はいはい、ちょっと待っててくださいね」


一方の声に聞き覚えがあるような気がして、俺は母親の腕のなかで暴れた。

こんな所まで転生してきて知り合いがいるわけもないが、それにしても聞いたことがあるような、そんな響きの声だったのである。

赤子の俺はさらにきつく抱かれて揺さぶられる。

そうじゃない、今の声の主を見たいんだ!赤子は意思疎通ができず不便だ!


「あかちゃん?」


聞き覚えのある響きの声の主が俺に気づいたようだった。

母親はしゃがみこみ、声の主に俺を見せる。

その幼女の顔を見たとき、俺は思わず声を出していた。


「あ〜、い〜」


愛。幼馴染みの愛が幼くなって、そこにいた。


「おや?もう喋ることができるのですか」

「普通の赤子なら有り得ない程すぐに喋り始めたんですよこの子は」

「わたしのなまえしってるの?すごい!わたしは“アイ”だよ!」


見た目も愛だが名前も愛とは、こんな偶然があるものだろうか。

俺は更に回らぬ舌で言葉を紡ごうとするが、やはり赤子、不明瞭な言葉しか発せない。


「て〜、え〜、せ〜、え〜」

「なにかしゃべってる。なんていってるの?」

「私にもわかりませんが、きっと貴女のことを気に入ってるようですね」

「そうなの?」


小さな愛そっくりの少女に見つめられて固まる俺。

俺はお前に会いに家から出て、交通事故に会って死んで、色んなものに転生して、前世の記憶を持っていて……話したい事は沢山あるのに、口が上手く動かない。

いや、話した所でこの少女は愛じゃないのだから何のことだか分からないだろうが。

口を閉じる。

俺は懐かしい顔を見て浮かれていたらしい。


「ほら、クッキーですよ」

「ありがとー!」

「ありがとー!」


愛そっくりの幼女はもう一人の子供と共に“まじゅつし”の女性からクッキーを貰い、あどけない足音をたてながら部屋から出て行ったようだった。

ちょっと待ってくれ。

俺はまたばたついた。

もう少し話したかったのだが……。


「よしよし、またあの子ときっと会えますよ」


俺の考えを見透かしたように俺を抱いた母親が言い聞かせてくれる。

もしもう一度会えたら。

またこの世界でも友達になってくれるだろうか。

突如知らない世界に何度も放り出されてふわふわした、地に足がついていないような感覚も、あの愛そっくりな少女と話す事で解消されるかもしれない。

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