第十九話 幾多の予知
うっそうと茂る蔦の生えた壁、屋根。
曲がりくねる樹々に囲まれた俺達のいる小さな庭には、丸い机が置いており、淹れられた珈琲が香ばしい香りを放っている。
茂る樹々を掻き分け、暫くスライムの道案内についていっていた俺達は、漸く小さな家の小さな庭に転がりこんだ。
「魔術師ノ家ダヨ」
下向きの矢印に形を変えたスライムがそういう。
「ここがそうか」
机の周りを取り囲む三つの椅子に座った黒、茶色、白のマントが俺達を見て揺れた。
三人は手に持っていたマグカップを机に置く。
顔の半分しか見えないので表情は分からない。
「あ、どうも……お茶会中にすみません」
俺は思わず謝った。どうやら魔術師の家の庭に突撃してしまったようだ。
「貴方達が来ることは」
「一日前から知っていました」
「珈琲を飲んで待っていたのです」
三人は交互にそう話すと、椅子から降り三人横に並びぺこりとお辞儀をする。
「ようこそ魔術師の家へ」
「私達に出来ることは」
「ほんの少し未来を占うこと」
俺達とバサバサは互いに顔を見合わせる。
「未来を占う?」
そういや俺達を修行づけてくれたタルンタルンの魔術師も未来を占えたな。
この世界の魔術師は未来を占う力を持っているのか。
「実は魔王を倒す旅の途中なんですけど、良ければ一泊させてくれたらな〜なんて」
「構わないよ」
「珈琲を淹れるから」
「ゆっくりしていって」
「やった!」
愛がちゃっかり泊まりの確約を取りつける。
三人は俺とエギーと愛に、マグカップに珈琲を淹れて渡してくれた。
エギーが砂糖をどばどはと入れる。
入れ過ぎなんじゃないか、おい。
糖尿になるぞ。
愛は、温かいミルクを適量、砂糖も適量入れて飲んでいる。
俺は勿論ブラックだ。
エギーは、ここまでの経緯を三人に説明する。
タルンタルンが陥落したこと、同じく魔術師の占いによって選ばれた三人であること、等……。
「未来を占えるんだってな。そいつで俺達がどの場所へ行けば上手く魔物を倒して魔王城までの安全なルートを辿れるか占えないか」
「「「できるよ」」」
三人は手もとから大、中、小の水晶を取り出す。
「私、モカは一分先の未来が見られる」
「私、チーノは一時間先の未来が見られる」
「私、ラテは一日先の未来が見られる」
「「「冒険者達よ、いざ占おう」」」
どうやら、タルンタルンの魔術師よりは少し先の未来しか占えないらしい。
しかし、この森を迷わずぬけるにはこの魔術師達に頼った方が良いだろう。
宿泊もさることながら行く道筋まで占ってもらうとは、魔術師という人種には大変お世話になるもんだ。
そうだ、俺は是非ともレベル1でも安全に魔物を倒して経験値を稼げるルートを占ってもらわねば。
魔術師達は水晶をぽうと光らせ、手をかざす。
「この家から北北西、深き洞窟」
「一時間後、ゴーレムの攻撃にてエギー死亡」
「救いなし」
「なんだと?俺はそこへ行ったら死ぬのか?」
エギーが珍しく不安な表情を浮かべる。
「行かなきゃいいんだよ!洞窟はナシね!」
洞窟にはゴーレムなんているのか。
エギーが殺られるなら当然俺も駄目だろうな。
愛がいても駄目なんだろうか。
「未来は絶対で不安定」
「行動で不可変も変化する」
「然しその行動までは予知できない」
とにかく行かなきゃいい、ってことだろう。
他のルートを占って貰って、安全なルートへ行けば良いだろう。
「この家から南南東、回復の泉」
「一時間後、スライムに不意打ちを喰らいルテン死亡」
「救いなし」
スライムに不意打ち!?カッコ悪い死に方だな。
勘弁してくれ、俺は弱い魔物をこつこつ倒していかないとレベル1のままなんだ!スライムに倒されてる場合じゃない!
「この家から南南西、深き森の奥」
「一日後、方位磁石を失い全員遭難」
「死亡確率は高い」
「この家から西北西、スライムの巣窟」
「一分後、大量のスライムに囲まれルテン死亡」
「救いなし」
スライムに負けすぎだろ俺!一分後って酷く早いな!というか、安全なルートなんて全然なさそうだぞこの様子じゃ。
八方塞がりじゃないか。
魔術師の家から出ない方がいいんじゃないかこれ。
「この家から東北東、立ち入り禁止区域」
「一日後、全員生還。魔王城への道へと進む」
「この道しかない」
立ち入り禁止区だって?不穏な場所だが、そこしか安全な道がないならそこしかないが……。
「立ち入り禁止区域は何故か人々が入れなくなっている。森付近の民家を襲う魔物“ジャイアントホワイトタイガー”を使役する何者かがいると聞く」
「何だか通っちゃいけない場所っぽいけど、そこしかないんだね」
「よし、決まりだな。明日は東北東に向かうぞ。何が起こるか分からないが、皆で乗り切るぞ」
エギーがぐいっと珈琲を飲み干す。
「未来は絶対で不安定」
「気をつけて」
魔術師達は交互にそう言った。




