プロローグ〜交通事故にて死亡〜
『お昼だよー!るてん君!』
PM12:00。
幼馴染みの愛からいつものメッセージが来る。
今日も親が用意したドアの外に置いてあるご飯をカーテンを閉めた暗い自室に持ち込むと、モグモグと食べ毛布を頭からかぶりPCと向き合いながらゲームに勤しむ。
これが日常だった。
俺の名前は詩島るてん。
仕事も行かず、恋人も作らず、部屋の中に引き籠り親からご飯を貰う二十二歳だ。
部屋の中は時間が止まっているかのようにいつもと変わらない景色が広がる。
スマホの中には、お節介な幼馴染みからのメッセージが届いている。
愛は、親とも話さず友人も持たない俺の唯一の話し相手だった。スマホを手に取り、メッセージを確認する。
『今日は神社に行ってきたんだー。お願いごと叶うかな。あっ、おみくじは大吉!』
『お願いごと?』
『秘密だよーっ』
そうか、正月だからな。
時間も曜日も季節の感覚も失うカーテンを閉めた自室の中では年中行事が分かりづらい。
そういやゲームの中の少女達が皆着物を着始めていた。数日前に部屋の前に置いてあったご飯がそばだったのは、年越しそばだったらしい。
それより、愛の「お願いごと」が気になる。秘密と言われればますます気になる。
『るてん君もおみくじぐらい引きに行ったら?』
『そうだな……』
『神社で待ってるよ!もし来たら「願い事」の内容教えてあげる!』
部屋からはあまり出たくないが、まあ正月だ。
寒いだろうがほんの少しだけ外に出てみよう。
ジャージの上にくたびれたダウンジャケットを羽織ると、親の目を盗んで家の外に出る。
ドアノブは冷えていて冷たい。
「うっ、寒」
北風に既にギブアップしそうになりながら、閑散とした住宅街を小走りで歩く。
口から白い息が出る。愛に直接会うのはいつぶりだろうか。
以前コンビニでたまたま会った時の事を思い出す。
小さな背丈にロングヘアの黒い髪。
正月という特別イベントがなければまず自発的に会いに行くことはなかっただろう。
愛も着物姿なんだろうか。
少し期待をして横断歩道を渡った時だった。急ブレーキの音が耳をつんざく。
「えっ」
瞬く間に俺は車に轢かれていた。
信号無視した車が歩道を突っ切ったのだ。
体が砕けるような痛みに襲われ視界が廻る。
まだログインしてないゲームがある。
まだ引いてないおみくじがある。
部屋の外に出るんじゃなかった。
沢山の後悔が渦巻き、意識が遠のく。
そうだ、愛の“願い事”結局何だったろうか……
小説初投稿です。宜しくお願いします。