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影武者ワンダフルデイズ  作者: 彩杉 A
王宮での生活
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執務の時間

 執務の間に続く控えの小部屋で俺はその時を待った。


 これから執務の時間が始まる。

 若き国王ロイス四世と俺はこの小部屋から執務の間に出て、御簾越しに重臣たちと対峙する。


 どれぐらいの時間になるのだろう。

 早く終わると良いな。

 難しい話をされても、チンプンカンプンだろうから。

 さすがに眠ってしまうことは、ないと思うが……自信はない。


 ざわざわとしたか雰囲気が廊下を近づいてきたかと思うと、外側から扉が開かれた。


 ジャスパーは膝をつき、頭を垂れ、ロイス四世の来室に備える。


 目の前に少しヒールの高い革のブーツが現れた。


「おはようございます。陛下。異腹の双子、ジャスパー・ベルモンドにございます」


 俺は昨晩から何度も練習した挨拶を口にした。


「おはよう、ジャスパー」


 辛うじて聞き取れるぐらいの小さな声。

 それでも間近で自分の名前を呼ぶ玉音を耳にして、俺は床を見つめながら嬉しさに胸を震わせた。

 この王国を治める、生まれながらにしての国王、国民誰もが敬愛するロイス四世陛下の影武者として生きる。

 その覚悟がこの瞬間にできた気がした。


 ふー。


 頭上から聞こえてきたのはロイス四世のため息だった。


 緊張?


 そうか。

 自分は気楽に考えていたが、国王は違う。

 これから毎回、重臣たちの説明に耳を傾け、この国を統べる者として、重大な決断を下していかなくてはならない。

 その責任の重さたるや、いかばかりか。


 何か、ロイス四世の役に立てることはないかと考えたが、急に思案を巡らせても見つかるはずもない。

 せめて、邪魔にならないように立ち振る舞うぐらいのことだ。


「先に出られますか?」


 俺を挟んでマッコリーの声がロイス四世に訊ねている。

 俺は邪魔にならないように、姿勢を低くしたまま静かに部屋の隅に移動した。


「うん。……そうしようかな。初めてだからね」

「承知しました」


 マッコリーが俺のところにやってきて、小さな声で注意を与える。「ジャスパー・ベルモンド。君は今から陛下のすぐ後ろについて歩き、陛下が選ばれなかった方の玉座に座れ。御簾の向こうの重臣たちにどちらが陛下か判別つかないように。先に座られる陛下の動きを参考にせよ」


「はい」


 俺はロイス四世の後ろに立った。

 ロイス四世の背中は細く、腕は触れれば折れてしまいそうなほど華奢だ。


「では、行きます」


 ロイス四世は自分の頬をパンパンと叩いた。


「御成りである」


 マッコリー侍従長の国王陛下御来臨を告げる発声を合図にロイス四世は執務の間に歩を進めた。


 俺も若き国王の後ろを、かかとを踏まないように気をつけながら、ついて行く。


 御簾の手前に煌びやかな玉座が二脚並んでいる。

 ロイス四世は右側の椅子に着座した。


 従って、俺は国王の動きを真似ながら空いている左側に腰を下ろす。


 玉座の前、五メートルほどのところに天井から御簾。

 そして、御簾の向こう、十五メートルぐらいのところに重臣たち。


 御簾越しではあるが、ある程度しっかり十人程の姿を確認することができる。

 逆に重臣たちからは御簾が少し離れているので、こちらはシルエットぐらいしか見えないらしい。

 この国の実力者たちがどちらが国王なのかと目を凝らしているような気がする。

 俺は顔が熱くなり、足元は逆にスーッと冷えてくる感覚を覚えた。

 ただ座っているだけの俺でこれなのだ。

 陛下の緊張はいかばかりか、と右手のロイス四世の様子を覗き見る。


 ロイス四世の顔を初めてしっかり見た。

 まだあどけない、と思ってしまったのは、家に飾ってあった先代の肖像画と比較してしまうからだろうか。

 あの肖像画は先代が六十歳の誕生日を迎えられたときのもの。

 一方、隣にいるロイス四世は十八歳。

 そして、対峙している重臣たちの年齢は俺たちの二倍、いや、三倍。

 改めて、若き国王陛下の責任の重圧に同情のようなものを感じてしまう。


 ロイス四世の左手首に着けた革のブレスレットに等間隔に並べられた魔法石が印象的だった。

 馬の瞳のように大きなその宝石は見る者の心を吸い込むような艶やかな赤い光を発している。

 ルビーだろう。

 ということは俺と同じ七月生まれか。

 ここにも共通点が見つけられて、俺は少しニンマリする。


 ロイス四世がカッと前を見て、胸を張った。


「聞こう」


 開会宣言のようにロイス四世の声が響いた。

 きっと、これが執務の時間の通例なのだろう。

 国王が重臣たちの意見を聞く。

 その場が始まったのだ。


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