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影武者ワンダフルデイズ  作者: 彩杉 A
王宮での生活

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四対一のアウェー

「悔しかったです。私でさえ、こんなに屈辱的な気分になるのです。ましてや、皇帝陛下の娘であるファミル様はどのようなお気持ちか……」


 エリゼはキュッと瞑った目から大粒の涙を零した。


「本当なの?」


 蔑むような目でモンシュが俺を見つめる。


「いや、僕はそういうことは良く分からないって言うか……」

「本当よ」


 腰の引けた俺の退路を断つように背後からベリーニの声が響いた。「ごめんなさい、ジャスパー様。私、先ほどガリュー様とのやり取りを聞いてしまったんです」


「え?」


 俺は驚いてベリーニを振り返った。「あの場にいたんですか?」


 頬を朱に染めたベリーニは小さく頷いた。


「私があの部屋のバストイレの掃除をしていたら、お二人が入っていらっしゃったので、出るに出られず……」


 そうですか、と俺は覚悟を決め、エリゼと向かい合う。


「エリゼさんのお察しの通りです。ファミル様はリーズラーン兵士の蛮行を許すことができず、執務の間で陛下にあのような態度を取られたようです」


「やっぱり……」

「許せない!そんな兵士は断罪に処すべきよ」


 モンシュが怒りをあらわに、ドンと手にしていたポットをテーブルに下ろす。「ジェイ。どうするつもり?」


「そんなこと訊かれても……」


 俺はモンシュの剣幕にタジタジだ。


「ガリュー宰相はジャスパー様に、何もするな、と。皇女殿下の非礼を口実に同盟を破棄し、オッフェランに攻め込むつもりです」


 ベリーニはいつになく熱い口調でエリゼに報告する。


「本当ですか?」


 エリゼはベリーニを見つめ、次にその視線を俺に向ける。


 俺はまともにエリゼを見返すことができない。


 嗚呼、と頭を抱えるエリゼの代わりに、モンシュがさらにヒートアップする。


「何よそれ!こっちが悪いのに、皇女殿下を悪者にして、オッフェランに攻め込むなんて、頭おかしいんじゃないの?」

「モンシュ!」


 コニールがたしなめるが、モンシュは俺に向けた圧を弱めることがない。


「皇女殿下はどうなるの?ジェイ」

「どうなるって……」


 ガリュー宰相の威圧的な言葉が耳に響く。「宰相は強制送還するって」


「じゃあ、防がなくちゃ駄目ね」

「駄目って言ったって」

「皇女殿下の体調が悪化して、遠距離の移動に耐えられないことにするのよ。強制送還されたら、すぐに戦争になっちゃう」

「でも、どうやって?」

「それは……侍医に悪化したって言っていただくしかないわ」

「侍医は嘘をついてくれないよ」

「皇女殿下にお芝居をしていただくというのは、どうでしょう?」


 いつも慎重なベリーニがモンシュの味方をして案を出したことに俺は驚いた。


「ちょっと、ベリーニさん。そんなの、侍医に見破られてしまいますよ」


 侍医が悪化したと認めなければ、お芝居をしたところで意味がない。


「いえ。ライガンの魔法でそのあたりは何とかなるのではないかと思います」


 おいおい。

 エリゼまでが……。


「危ないですって。嘘が万が一、陛下の耳に入りでもしたら……」


 部屋の中はアウェー感が満載だが、俺は必死に抵抗した。

 頭も体も疲れきっている。

 面倒なことは、もうたくさんだ。


「お芝居がうまくいっても、事態は変わりませんよ」


 コニールが部屋の中央にやってきて、凛とした声で話を終わらせた。


「そうです。そういうことです」


 俺は深く同調した。


「ですから、オッフェランからスタンリー皇帝陛下にお越しいただきましょう。リーズラーンで一大事だと知らせるのです」

「え?」


 問題をさらに大きくしようとするコニールの発言に俺は戸惑うばかりだ。「スタンリー帝を呼ぶ?」


「だって、そうでしょう?ガリュー宰相がオッフェランに攻め込む理由を消すには、オッフェランの皇帝陛下に、直々にリーズラーンと仲たがいするつもりはないって言っていただき、皇女殿下が非礼を謝罪するのが一番だと思うの」

「でも、どうやってスタンリー帝を?」


 そんなことできるわけがない、という感情を込めて首をすくめる。


「ライガンならできると思います。陛下とライガンは幼馴染ですから」


 エリゼがやっぱり乗り気で、俺はがっくりと項垂れ、もう好きにしてくれとソファに身を委ねた。


「じゃあ、頑張って」


 モンシュに手を握られる。

 何かを託すような目で俺を見てくる。


「は?」

「では、参りましょう。ジャスパー様」


 立ち上がったエリゼが俺を促す。


「どこへ?」

「ファミル様のところです。方向性は決まりましたので、実行に移す相談を」


 そんな滅茶苦茶な。


「俺、ファミル様に近づくなってガリュー宰相に厳しく言われてるんですよ。見つかったら処刑されちゃいます」


 冗談で言っているのではない。

 逆らう奴は皆殺しだと言ったときのガリュー宰相の目を思い出しただけで身震いがする。


「意気地なしね」


 モンシュは非難するが俺は無言で顔を背けた。

 すると、その俺の目の前にコニールが立ちはだかって不敵に笑う。


「見つからなければ良いのでしょう?」

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