好きな女性のタイプ
「こう見えて、コニールさんはお酒がお好きなんですよ」
「ちょっ、モンシュ、やめてよ」
モンシュの発言にコニールが顔を赤くする。
うろたえているコニールを見るのは初めてだ。
「へぇ。食堂で飲むんですか?」
俺の問いに、コニールは諦め顔でため息とともに肩を落とした。
「いえ。食堂は人の目がありますので、部屋に帰ってから……」
「ジャスパー様はお酒はいかがなのですか?」
モンシュの問いに俺は腕を組む。
「どうでしょう。まだ、飲んだことないので」
国の法律で学生は酒を飲んではいけない。
異腹の双子になったことで俺は学生ではなくなったのだから飲んでも良いのだが、今の今までそういう発想には至らなかった。
「じゃあ、今度ご一緒しましょう」
そう言って微笑むコニールに大人の女性の包容力を感じる。
コニールに誘ってもらえると嬉しくて俺は思わず「いいですねぇ」と返事をするが、抜け駆けはできないからレイに話題を振る。
「陛下もいかがですか?」
「余はだめかも。外交儀礼なんかで晩さん会に出席することがあるけど、少し飲んだだけで、気持ち悪くなっちゃうんだ」
レイは苦そうな顔を作る。
「それは残念」
俺はレイが行かないのならコニールと飲むことはできないと心の中で断念し、モンシュに話題を振る。「逆に、モンシュさんはどうなの?強い?」
「私ですかぁ。コニールお姉さまほどじゃないですけど、私も嫌いじゃないですよ。お酒を飲んでみんなで陽気になるのが好きです。ですからジャスパー様だけじゃなく、陛下ともご一緒できると幸せです」
「ダメダメ」
コニールが遮るように大きく手を振る。「モンシュとはご一緒されない方が良いですよ。この子は抱きつき魔で、酔うと誰にでもすぐ抱きついちゃうんです」
「そうなんですか?」
否定するかと思ったが、モンシュはニコニコ笑って「お酒飲むと、人肌が恋しくなっちゃうんですよね」と隣のベリーニに抱きつく。
「ちょ、ちょっと」
抱きつかれたベリーニは困惑顔だが、モンシュはお構いなしに頬をベリーニの頬にくっつける。
「でも、本当はベリーニが一番強いかもしれません」
モンシュは楽しそうに告げ口する。
「何言ってるの!」
ベリーニは大きく目を見開いた。
「だって、ベリーニはどれだけ飲んでも顔色が変わらないじゃん」
「へぇ。すごい。余の代わりに晩さん会に出てほしいな」
「滅相もございません」
ベリーニはテーブルに両手をついて頭を下げる。
その拍子にテーブルに額をぶつけて、「あいたたた」とやっている。
それを見て、みんながどっと笑う。
ベリーニの少しおっちょこちょいなところがまた可愛い。
得意なタイプではないが、モンシュが来てから場が盛り上がっているのは間違いない。
満遍なく全員に発言させ、話題が尽きたところで上手に次の話題に転換するということを自然にやっている。
おかげでコニールやベリーニとも随分打ち解けた気がする。
「陛下が好まれる女性のタイプはどのような感じですか?」
モンシュの質問がこの国の王に対するものとしては、かなり際どくて一瞬時間が止まる。
「モンシュ。陛下に失礼でしょ。やめなさい」
「そうよ。立場をわきまえないと」
コニールだけでなく、ベリーニまで慌てた感じでモンシュをたしなめる。
二人きりの時に「侍女の中で誰が一番可愛いか」という質問をしたことを思い出して、俺もかなり失礼なことを訊ねてしまっていた、と少し反省し、助け舟を出す。
「陛下は、すべての国民を分け隔てなく愛するというお立場上、そういうことは言えないと思いますよ」
「ジャスパー様のおっしゃるとおりよ」
「分かりました。失礼しました」
モンシュはさすがに非を認め、謝罪したが、転んでもただでは起きない感じで、すぐに矛先を俺に向ける。「じゃあ、ジャスパー様はいかがですか?」




