小悪魔モンシュ
「モンシュ!」
ベリーニが飛び上がるように立ち上がって訊ねる。「実家はどうしたの?」
しかし、その問いはモンシュには届いていなかったようで、彼女は少し怒ったような顔でズンズンと部屋に入ってきた。
「ずるい、ずるい、ずるい、ずるい、ずるい、ずるい」
モンシュはコニールを、ベリーニを、テーブルの上の料理を順番に指差して、「ずるい」を連呼する。「どうして、侍女二人が陛下と一緒にご飯を食べてるんですか?」
「あ、それはね。僕が誘って……」
俺は説明しようとしてモンシュにギロッと睨まれた。
「あなたは黙っていてください。私はコニールさんとベリーニに訊ねてるんです」
「な……」
真正面からバッサリと発言を停止され、俺は言葉を失った。
「モンシュ!本当に、失礼極まりないわ。ジャスパー様に謝りなさい!」
コニールがテーブルに手を突いて立ち上がり、モンシュを叱る。
「答えてください。どうして陛下とご飯を食べてるんですか?陛下とご飯を食べたいなって私が言ったとき、コニールさんは、身の程をわきまえなさいって怒ったじゃないですか」
「それは……」
「余がお願いしたいんだよ。今日は食欲がなくて、一人じゃ食べきれないと思ったんだ。こちらの二人が猫のせいで食べるものがなくなったってことだったから、丁度良いとも思ってね。申し訳ないけど、もともといつも量が多すぎるきらいもあったし」
「そうだったんですか、陛下。お加減が悪いのですか?お薬をお持ちしましょうか?」
レイが喋り出すと、モンシュは急に膝を床についてへりくだった態度を示す。
「大丈夫。食欲がないのは気持ちの問題だから」
「そうですか。では……」
モンシュは目の端にテーブル上の料理を捉える。「私も御一緒させていただきますね」
モンシュは誰の許可を得るでもなく、部屋の隅にあった椅子を取り出し、コニールとベリーニの間に強引に割って入った。
「モンシュったら、はしたない子」
コニールに叱られてもモンシュはお構いなしだ。
「ジャスパー様。先ほどは、ご無礼致しました。お腹も空いていまして、つい乱暴な物言いを」
「い、いえ」
急にしおらしいモンシュの変化ぶりに戸惑いしかない。「モンシュさんは、ご実家は良かったんですか?」
「ええ。あそこは窮屈で、退屈ですの。それにチャミに餌をあげないといけませんし」
「チャミ?」
「モンシュ。野良猫に餌をあげるのはやめにしなさいよ」
ベリーニが火が点いたようにモンシュに怒り出す。「あなたが甘やかすから、あの猫、調子に乗って今日は厨房の中にまで入ってきたのよ。暴れて皿をひっくり返すから、私とコニールさんの食べるものはなくなってしまって……」
「あら、そんなことが……。でも、それでこうしてこちらで楽しい時間を過ごすことができるんですから、災い転じて福となす、じゃないの」
モンシュは「ねぇ?」と俺に向かって小悪魔的な可愛さで同意を求める。
目は大きくて、頬っぺたはつやつや。
笑うと笑窪ができて、力が抜けそうなぐらいに愛らしい。
しかし、目立たないところで手抜きをする。
ベリーニとペアで仕事をしていると、モンシュが面倒なことは上手にベリーニに任せているのが目について、逆にベリーニはモンシュの企みを知ってか知らずか、どんな仕事も一生懸命。
そういうところから、俺はモンシュのことを警戒してしまう。




