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影武者ワンダフルデイズ  作者: 彩杉 A
王宮での生活

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レイの食事

「起きて。起きてください」


 肩を揺すられ、ハッと目を覚ますと、母さんがいた。


「母さん……」

「え?」


 その人はキョトンとした顔で俺を見返してきた。

 良く見ると、母さんとは似ても似つかない。

 それはコニールだった。


「あ。ごめんなさい。寝ぼけてて」


 コニールが何故俺の部屋にいるのか。

 途端に緊張して、俺は瞼を擦りながら、その場に座り直した。

 ソファでうたた寝していたようだ。


「いえ。私……、お母様と似てますか?」

「いや。そういうわけじゃないんですけど……。寝ぼけちゃってて」


 ハハハと笑ってごまかす。

 幼い頃に戻って母さんに抱きしめられていた夢を見ていたなどとは言えない。


「お風邪を召されてはいけないと思い、声を掛けさせていただきました。それから食事の用意をお持ちしましので、お召し上がりいただけたらと。寝起きだと、お腹が受け付けませんか?申し訳ありませんが、私は次の用事がございますので、失礼します。しばらくしましたら、片づけにまいりますね」


 どれぐらい眠っていたのだろう。

 自分の部屋に戻り、ソファに腰を下ろしてぼんやり窓の外を眺めていたら、いつの間にか意識を失っていた。

 レイとガリュー宰相の緊迫したやり取りや、レイが体調を崩したのを目の当たりにして、気を張っていたのが、一人になった途端に緩んだのだろう。


 窓の外はすっかり暗くなっている。


「あの……、ベリーニさんやモンシュさんは?」


 俺の部屋の担当はベリーニとモンシュだ。

 コニールがここに給仕に来てくれたことは一度もない。


「モンシュは休暇をいただいて実家に帰っています。ベリーニは少し他の場所を掃除しておりまして……」

「帰省ですか。それはいいですね」

「あ……。失礼しました」

「え?」

「いえ。ジャスパー様は、お仕事上、休暇は……」

「まあ、そうですね。僕の場合、休暇をいただいても、帰る実家がないって言うか」

「申し訳ありません」


 努めて軽い口調で言ったつもりだったが、コニールに平謝りされてしまい、俺は立ち上がって、手を振った。


「そういうつもりで言ったんじゃありません。ただの感想ですから。気にしないでください」

「いえ。気が回らなくて、申し訳ありません」


 その時、部屋の前の廊下で何かがガラガラと音を立てた。


「あのー」


 ドアから顔を見せたのは、レイだった。


「陛下!」


 コニールが慌てて、ドアに走り寄る。「何か、御入用ですか?」


「あ、いや。ごめんね、コニール。余がうたた寝をしてたから、給仕が遅れてしまったんだよね?」

「あ。いえ……」

「陛下。実は私も今、コニールさんに起こしてもらったところで……」

「そっかぁ。ジャスパーもご飯、まだなら、一緒に食べようかと思って」

「ここで、ですか?私は構いませんが」


 俺がそう返事をすると、レイは喜色を浮かべ廊下からワゴンを押して部屋に入ってきた。

 ワゴンには食事が乗っている。


「陛下!私が運びます。陛下は座ってお待ちください」


 コニールが代わろうとするが、レイは「余のわがままだから」とそのままワゴンを押し続け、テーブルに皿を置く。


「やっぱり」


 レイはテーブルの上を見て、何か得心顔だ。


「どうされました?」


 俺が訊ねると、レイは自分が運んできた食事と、既にテーブルに並んでいた俺の食事を指差す。


「明らかに余の方が多いし、内容も少し違う」


 確かに、レイの食事は質も量も俺のものとは違う。

 例えば、同じステーキでもレイのものの方が肉が大きいし、脂身が少ない。

 スープも一見同じようで、中の具材が違った。

 デザートもレイのものは、きれいにカットされているし、果物の数が多い。

 籠のパンも山盛りだ。


「まあ、それは当然かと」


 国王陛下と俺が全く同じものを食べているとは思っていなかったし、同じものだとしたら畏れ多い。


「余はそもそもこんなに食べられない。いつも食べきれなくて、勿体ないと思いながらも残してしまうんだ。ジャスパーやコニールはこんなに食べられる?このジャスパーの量でも多いぐらいなんだけど」

「ま、まあ……」

「そ、そうですね……」


 俺とコニールは互いに表情を確認しながら曖昧に頷いた。

 俺は今まで自分の食事の量に一切の不満はなかったし、今、目の前で見るレイの量の多さに驚くところもある。

 確かに、これを全部は食べきれない。

 しかし、厨房係もレイに食べてほしいものがあってのことだろうから、そこを軽々に否定はできない。


「それに、食べるのが遅くなって、侍女や厨房のみんなには後片付けの時間が遅れてしまって申し訳ないと思ってたんだよね。明日から、せめてジャスパーと同じものにしてもらうように侍従長に言おうっと。きっと作るのも、同じものを出せる方が楽だよね。イチゴのへたなんか、自分で取れるから、余のだけわざわざカットしてくれなくても良いんだし」


 レイは満足そうに頷いた。


「ジャスパー様。お水、お持ちしました。あ、あれ?」


 ノックをして部屋に入ってきたのは、ベリーニだった。

 レイが部屋にいることに、驚いているようで、一度部屋を出て、間違えていないか確認している。

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