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影武者ワンダフルデイズ  作者: 彩杉 A
派閥の葛藤

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102/165

鋭いリーン

「どないします?」


 シュバルが割り込んで訊ねてくる。


「え?」

「このまま次に行きまっか?それとも……」


 家の中の様子も確認するか。


「どうしましょう?」


 ここまで来たら、家族の顔も見ておきたい。

 しかし、この以前のままの実家の様子が罠だということも考えられる。

 ガリュー宰相の手の者が手ぐすねを引いて待っているということはないだろうか。「中に入るのも、何となく怖いですよね」


「待ち伏せがあるかもしれませんな」

「ええ。可能性は高いように思います」

「私が見てきてやろう」


 コールマンはヌッと大通りに顔を出すと、ローブのフードをすっぽりとかぶり、そのまま俺の実家の方へ歩いて行ってしまう。


「あ。ちょっと……」


 俺が声を掛けても、コールマンは振り返らない。


「まあ、コールマンさんなら捕まることはないと思いまっせ」


 コールマンは実家の方を見ながら、一度通り過ぎ、急に踵を返すと、また家の方を見ながらこっちに戻ってくる。

 そのまま帰ってくるかと思ったが、また振り返って、次の往復を始めた。

 あまりに動きが不自然だ。


「ちょっと……、怪しすぎません?」

「確かに。ローブのフードが不気味ですわ」

「呼び戻しましょう。あれだと、何の関係もない通行人から王宮に通報されてしまいます」

「そやね。……あっ」


 シュバルが驚いた顔でコールマンを指差す。


 コールマンが実家の前で誰かに話しかけられている。フードの中を覗き込まれているのは、素性を怪しまれているのだろう。

「まずい」


 俺は咄嗟に大通りに飛び出し、コールマンと通行人の間に割って入ろうとした。

 そして、通行人に見覚えがあることに気付いた。

 リーンじゃないか。


「え?」


 リーンが驚いたように俺を見る。「お兄ち……」


「ちょっと、こっち来い」


 俺は妹の口を手で覆い、周囲に目を配って、路地の方へリーンを引っ張った。


 路地に入って手を離すと、リーンはすぐに咎めるような目で俺を見つめる。


「ジェイ兄。こんなところで何やってるの?」

「何やってるって……」


 何と言えば良いのだろう。

 返答がものすごく難しい。

 リーンが認識している現在の王宮の状況が分からないと、かみ合わないやり取りになってしまうだけだ。

 突然正直に「ガリュー宰相を討伐するための情報収集」などと言えばリーンを困らせ、自分の身の危険も増す。

 我が家がガリュー宰相の監視の目に晒されている可能性は高い。「お前こそ何やってるんだよ?」


「私は学校の帰りよ」


 リーンは後ろめたさを感じさせない堂々とした態度だ。

 だとすると、実家にも変わったことは起きていないということか。

 いや。少なくとも農政長官の父さんはある程度正確に王宮内の騒動を見聞きしているはずだ。

 意外に臆病な父さんがそれを隠して家の中で平然と日常を送ることができるものだろうか。


「そっか。そうだな。ハハハ……」


 笑いも続かなければ、話の接ぎ穂も見当たらない。


「この人たち誰?王宮の人?何か怖いんだけど。ジェイ兄、やっぱり何かやらかしたんでしょ?」


 リーンは言葉とは違って怖そうな様子は見せず、遠慮のない目でコールマンとシュバルを見る。

 さすがリーン。

 肝が据わっている。


「やっぱりって何だよ」

「ビー兄が言ってたもん。ジャスパーを見かけたら誰にも言わずに俺に教えてくれって」

「ビゼー兄さんが?」


 俺はコールマンとシュバルを見てから、リーンの肩を掴む。「ビゼー兄さんと会ったのか?」


「ちょ、痛い、痛いよ。ビー兄はこないだ帰ってきて、今は家にいるよ。任務が終わって、少し長めの休暇がもらえたみたい。次の国境傍の任務に就くまで、しばらく羽を伸ばすって」


 これだ。

 屈託のないリーンの瞳に死神が映っているのを見たような気がした。

 全身に震えが起こる。

 緊張感が汗となって滲み出る。「ん?どうしたの?」


「いや。何でも……」


 俺は自分の動揺を妹に悟られないように、視線を外してリーンの周りを歩いた。

 執務の間で戦斧を持って襲い掛かってきたビゼーの狂気じみた目が脳裏に浮かぶ。

 あの印象がかつての優しかった兄の姿を消し飛ばした。

 もう二度と普通には言葉を交わすことはできない気がする。

 しかし、そんなことをリーンに告げることはできない。「他に……、他には何か変わったことはないか?」


「変わったこと?別にないけど」

「本当か?父さんも母さんも無事なんだな?」


 リーンがジトッと粘りつくように俺を見つめる。


「ビー兄も変だけど、ジェイ兄はもっと変」


 リーンは俺と違って頭が切れる。話をしていると、すぐに考えていることを見透かされてしまうことがあるから怖い。


「そうかな。久しく会ってないから家族のみんなが元気かどうか、知りたかっただけなんだ。じゃあ、俺はそろそろ行くよ」

「え?ここまで来たのに、うち、寄ってかないの?こないだはサッと帰っちゃって、お父さんもお母さんも、すごく残念がってたんだから。今日は寄ってってよ。また、私が叱られるじゃん。さあ、そちらのお二人もどうぞ」

「あ、いや、リーン。……俺の言うことをよく聞いてくれ」

「だから、何?ジェイ兄、さっきからずっと変なんだけど」


 リーンの声に含まれた棘がどんどん鋭利になり、目尻が吊り上がる。

 それはそうだ。

 久しぶりに会った兄に路地に連れ込まれ、その兄が挙動が変だとイライラもしてくるだろう。


 俺はどうすれば良いかと助けを求めてコールマンを見た。


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