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影武者ワンダフルデイズ  作者: 彩杉 A
派閥の葛藤

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無事に帰ってきてね

 俺はコールマンとシュバルに倣って素早く旅立ちの準備を整えた。

 雑嚢に荷物を詰め込んでいるとセリカが寄ってくる。


“王都って危険なところなの?”

「どうだろう。普段は平和な街だけど、今はさすがに争いごとがあるかもしれない」


 俺の言葉にセリカは表情を暗くした。


“大丈夫なの?”

「俺?まあ、何とかなるよ」


 それしか言えない。

 今の王都がどうなっているか、全く想像できない。

 だけど、何とかしないと。


“いつ帰ってくるの?”

「往復だけで一週間ぐらいかかると思う。どれぐらい偵察に時間がかかるか分からないけど、帰ってくるまで、早くて十日ほどかな。ごめんね。旅行じゃないから、お土産は買ってこれないかも」


 そう言うと、ようやくセリカはクスッと笑った。


“ご家族が無事だと良いね”

「うん」


 本当に。

 家族のことを考えると、気が急いてくる。


 ガリュー宰相は国王の命さえ奪おうとした。

 そして、国王の異腹の双子である俺を抹殺しようと、執拗に追手を差し向けてくる。

 とすれば、俺の家族に対しても危害を加えているかもしれない。

 逆に何もされていない方が不自然にさえ思える。

 何もされていないことを願ってはいるが……。


 父さんは農政長官として、今も出仕しているのだろうか。

 息子が追われている状況をどう思っているのだろうか。


「ほな。行きましょか」


 シュバルが雑嚢を背負って、コールマンと歩き出す。


「行ってきます」


 俺はアロージャ、セリカ、マクロム、そしてスマイルに向かって手を振り、二人の後を追った。


 ブックローの森に足を踏み入れようとしたとき、後ろからセリカが駆けてきた。

 セリカは俺に向かって紙片を突き出す。


「俺に?」


 セリカは小さく頷いた。


 紙片を受け取って開いて見ると“無事に帰ってきてね”と書いてあった。


 紙片から顔を起こすと、セリカは恥ずかしそうにニッと笑って、ロッジの方へ駆けて行った。


 セリカの背中を見送っていると胸の奥がじんわり温かい。


「なんや、妬けまんな。私は心配されてないんかいな」


 シュバルは「しょうもないわ」と大きくぼやいて、森の奥へ歩いて行った。


 俺はそれでもしばらく動けず、セリカが消えたロッジの壁を見つめていた。

 セリカ。

 ありがとう。

 こんなことされたら、俺、これ以上自分の気持ちを……。


 すると、ロッジの壁からセリカが顔を出した。

 そして、俺と目が合って驚いたようにロッジに隠れる。

 ばつの悪そうな顔でまた現れ、俺に向かって小さく手を振った。


 俺は手を大きく振り返して、二人を追って森に分け入った。



* * * * * * * * * *




 ガリュー宰相に狙われているコールマンと俺はシュバルが魔法で作った荷車の中に隠れ、行商人に扮したシュバルが荷車を引く格好で王都の中に入った。


 久しぶりに見る王都は拍子抜けするほど変化がなかった。

 良く見る日常の風景がそこにあった。

 いや、それどころか、どことなく華やかな感じすらある。

 軍隊が警戒している様子もなければ、各所に翻る王国の旗も以前と同じだ。

 俺とコールマンは日よけ用の布を頭から被って顔を隠しつつ荷車を出た。


「どうなってるんでっしゃろ」


 シュバルが首をかしげてコールマンを見る。


「まるで王宮内の異変など伝わってないように見えるな。オッフェランに近い北東部なら先の騒乱の影響が残っていて雰囲気は多少違うだろうが、この西部は平穏そのものだ」


 シュバルは青果を売っている店の主人に声を掛けた。


「私ら久しぶりに王都に入ったんですけど、最近、何か変わったことってありませんか?」

「久しぶりに変わったこと?そりゃ、オッフェラン帝国が攻めてきたってことよ。竜騎隊の一部が裏切って王宮を攻撃したって聞いた時は、さすがに俺もまずいと思ったぜ」

「なるほど。それ以外には?」

「それ以外って、そりゃあんた、何たってキングオブキングス、ロイス三世陛下がお隠れになったことだよ。あれからもう一年以上経つけど、未だに何となく王都全体に活気がなくってさ。陛下は我々国民の親のような存在だったから、仕方のないことだけどよ」

「ロイス三世陛下……」

「でも、今の陛下が御結婚されるって噂で、活気が出始めたところだ。本当に陛下がご結婚ってことになると、御祝儀ってことで、何だかんだお金が遣われる。今から仕込みをやっておかないと儲けそびれちまうわ」


 陛下がご結婚?


「おい。ロイス四世陛下はご存命なのか?」


 コールマンがずいずいと店主に近づく。

 近衛兵団副団長特有の威圧感が出てしまっている。


「な……。あんた、何だよ?ご存命ってどういうことだい?お隠れになっていたら、そりゃ大変なことだぞ。こないだ王宮から年が改まったら大きな発表があるっていう知らせがあったんだ。大きな発表って言ったら、今の陛下の御結婚以外にないってもっぱらの噂だよ。王宮の広報の人も否定しなかったし」

「な、なるほど。そうですか。お時間取らせました。えろう、すんまへん」


 シュバルが慌てた感じでコールマンと店主の間に割って入って、コールマンを背中で道の方に押しやる。「さ、先へ急ぎましょ」


 強引に歩き出したシュバルはコールマンと俺を人気のない裏道へ連れて行く。


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