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8.なんでこんなとこにきたのかしら~?

 レクシシュは、また数日の間リトの家にごやっかいになっちゃいましたとさ。


 リトからは助けられた恩だとか、グランマには孫が一人増えたみたいで楽しいだとか言われながら、ずるずると引き止められているけれど、さすがにこのまま居座り続けるのには気が引ける。

 要介護な状態からも回復したことだし、ここにいる目的も合わせて、これからどうしたらいいかも方針は決めたほうがいいんだろう。


 それはそれとして、居座っているせめてものお礼として、お手伝いを買って出ている。

 今は朝ごはんを食べ終わった頃。リトは狩りにでて、グランマは昼食作り、レクシシュに割り当てられた仕事は水汲みだ。


「よいしょっと」


 水汲みといっても、レクシシュの胸の高さくらいある大きな水甕に水を満たすのは、盥を持って井戸との間を何度も往復する重労働だ。重労働なんだけど。


 村の井戸は中央にあって、リトの家は村の端にある。

 水を満たす予定の甕は、リトの家の勝手口からすこし進んだ裏手空き地に転がしてきている。

 リトの家から少し離れているし、仕事の時間の昼は外に村人が出払っているのか、そこらへんに人影はない。


「…………」


 そこで、こっそりと水魔法を使ってすぐに水を甕いっぱいにした。お手伝い完了である。

「ずるじゃないよ、ずるじゃ」

 お手伝いの目的の水甕をいっぱいにすることは達成してるし、わたし自身の力で成し遂げたのでずるじゃない。

 使えない体力じゃなくて使える魔力を活かしただけなのだ!


 まぁ、一瞬で終わるお手伝いもなんだかな。と思いつつ、もう一度、あたりを見回す。誰にも見られていないかの確認だ。


「ぅあっ!?」

 まってライがきた! やばい。こっちのこと見てなかったよね?


 急いで水甕の裏に隠れて、こっそりとの覗いてみる。ライこと、ジェライアスは明るい金色の髪を靡かせながら家の前の舗装道を走り抜けていった。

 ジェライアスもリトと同じように鍛錬を日常に入れてるんだろうな。二日前の魔物戦でのこともあるし、体力づくりにランニングみたいなことをしてたのかもしれない。

 わたしのことなんて気にも留めていなかったようである。よかったよかった。いや、わたしの影が薄いなんて思ってなんていないよ。うん。


 ジェライアスは<<ドムキュア>>でいうところのメインヒーローだ。後に聖女となるリリアンナとずっと一緒に旅をする仲間で、ファンの中でのあだ名は勇者。

 勇者という名も盛ってるわけじゃないんだよね。ゲーム内では追加で仲間入りするキャラはいるけれど、ステータスの成長具合を考えると、ゲーム中ではずっとパーティの主力として活躍するジェライアス。二日前に出会った魔力特化の魔物でなければ、物理攻撃が通るから、大剣で叩き切れるジェライアスは、聖女とのツートップを張れるほどの主力メンバーなのだ。



 ジェライアスの走る姿が完全に見えなくなってから、ほっと大きく息をついて水甕の陰から出る。ほんとに見られてなかったらしい。


 なんで見られてはいけないのか。それは簡単、<<ドムキュア>>では聖女だけが魔法を使えたからだ。人間族の中で、聖女だけが特別な魔力という力を持って生まれる。それが<<ドムキュア>>の設定であり、この世界の真理のはずだ。

 そんな真理の中でなんでわたしが魔法を使えるのかというと、それも簡単。


 わたしが人間族じゃないからだ。


 この世界では、種族間の対立が存在するとわたし……レクシシュの記憶が教えてくれている。

 魔法が使えるのが聖女以外にいるなんてバレたら、それが人間族じゃないなんて丸分かりだ。だから人前で魔法を気軽に使うわけにはいかない。


「………うーん。これからどうするかの前に、現状の整理をやったほうがよさそう?」


 小さく口に出してしまったことを自覚しながら、水甕をごろごろ転がして勝手口から元にあった場所にしまう。あ、水甕の移動は魔法じゃなくて物理でやっている。梃子の原理とぼろぼローブを足場にした摩擦力の勝利なのだ。ふふん。


 水汲みのお手伝いが終わったら、お昼からは雑貨屋さんへ向かって庭掃き掃除のバイトへ向かう予定だ。ジリマ村らしく、時間が空いたときにきてくれたらいいなんておおらかな条件だけど、ちびっこのお手伝いならこれくらいの緩さでも許容されるのかもしれない。

 お昼ごはんまでには時間があるから、今のうちにできるだけの整理はしておこう。

 裏手空き地まで戻って、いい感じの木の切り株にそっと腰を下ろす。ふふふ。推し彼シャツを常時装備のわたしには、乱暴な動きなどもってのほかなのだ。


 今わたしが知っていることは、①わたし自身がもともと持っている<<ドムキュア>>というゲームのストーリー。②レクシシュがもともと持っている生い立ちとこの世界の知識だ。

 <<ドムキュア>>では、人間族側から聖女が現れ、仲間たちと共に世界を救うストーリーだ。そのストーリーの中には出てこなかった異種族の存在。それがこの世界にはある。いや、<<ドムキュア>>のストーリーには関連しなかっただけで、世界観の中では存在したのかもしれないけども。


 レクシシュの知識では、まず、この世界というか大陸はアシュトルラールと呼ばれている。

 アシュトルラールには、寿命も特性も異なる4つの種族がいる。知恵と人口を活かして平野を管理する人間族。高い身体能力を持ち大森林や渓谷などを管理する獣人族。水中や空中で活動する能力を持ち海や空を管理する亜人族。大陸の自然植物から生まれてくる万物に近い精霊族だ。

 そして、人間族以外のすべての種族は、魔力を持ち、自在に操る術を知っている。

 人間族の中では、聖女が唯一の魔力保持者だけれど、ほかの種族は魔力保持も魔術使用も誰でも使えるものなのだ。ちなみにレクシシュは精霊族らしい。

 この間起こったリトピンチのイベントの状況から、人間族の一般人は魔力の存在自体を知らなさそうだ。種族間の対立もあるし、交流もないなら当たり前のことかもしれない。

 でも、あのイベントで体験した得体の知れない力が魔力だと知ったなら、同族の特別な聖女は大丈夫でも、異種族の得体の知れない人物なら間違いなく警戒されて攻撃の対象になる。


「リトは……」


 リトは、どんな反応をするんだろう。わたしが人間族じゃない、得体の知れない力を持っている生き物だと知ったら。

 他の人間族にどうこう言われても、もともとの扱いとそう変わらないし、自分の身を守ればいいだけだしどうとでもなるけど、リトには……。リトの蔑む様な目で見られるのは新たな扉が開きそうだけど。リトに嫌われるのは、気味悪がられるのは、悲しいな。


「うん。やっぱり内緒だね。使う時はさりげなく使っていこう」


 今までこっそり魔術を使ってきたわたし、ぐっじょぶ!!!! いい仕事してたね。

 あとは、精霊族は他種族よりも高い魔力を持ってるらしいし、何ができるかも確認しよう。

 それに、精霊族のわたしがこのまま人間族の村に留まり続けるのは止めたほうがいいかもしれない。バイトを増やして所持金を増やしたら、ジリマ村から出るつもりで行動しよう。



 ……でも、そもそも、なぜわたしがここにいるか。っていうのもひっかかってるところなんだよね。

 いつの間にか入っていた隠れ家Barから何か持たされて追い出されたらリトに遭えたってところとか、持たされたペンダントがリトを助けるために大活躍したとか、なおさらひっかかる。


 有り体に言えば、RPGゲーでいうところの特定の戦闘時のみに参戦する、<<スポット参戦>>を無理やりやらされた感じなんだよね。もともとのストーリーにいないレクシシュがこの世界に居るのは、いわゆるアバターキャラがスポット参戦してるってことじゃないか?


『ならさ、リート大好きなプレイヤーとして、リートが辛い場所に立つことになるとしたら、君は助けてくれるかな?』


 ふと、隠れ家Barに居たお兄さんの言葉が思い浮かぶ。

 やっぱりあのお兄さんのあのセリフが物語ってるのか。でもそれなら、リトピンチのイベントを無傷でクリアできたからには、わたしがここに居る理由もなくなるのかな。それとも……。


 つらつらと考えを巡らせていると、ガチャリと音がして、リトの家の勝手口から、大好きな推しの顔が覗いたのが見えた。きょろきょろしてる。何か探し物かな? かわいい。好き。

「おーい! レクシシュ。昼ごはんできたってさ」

 あああぁ!! リトがわたしの名前を呼んでくれている!!! わたしを探してくれてる!!!! いや、お昼ごはんで呼びにきてくれたってことだけども!! リトの生活の中にわたしが自然に居られることが嬉しすぎる!!!

「は、はーい! 今行きます!」

 わたしを呼んでくれるリトの声に、声が震えるほどの全力の上機嫌で応えながら、急いで立ち上がって勝手口に向かった。



 どうしよう、リトの傍に居ると頭がぱーんってなって考えられなくなっちゃうよ。割とまじめにどうしよう。

面白いと思っていただけたら、いいねや☆評価いただけると嬉しいです。

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