7.体が小さいのもふべ……らららららっらららr
「おはよう、レクシシュ」
「おはよう~。よく眠れたかしら?」
「おはようございます」と挨拶をしながらお借りした部屋のドアを開けると、リトとグランマの二人がこちらを見て挨拶を返してくれた。
朝ごはんの時間に間に合ったみたいでよかった、とほっとして、昨日と同じ席を目指す。うん、昨日は寝過ごしてほぼ昼な時間帯だったし、二日連続での寝坊は避けたかったんだよ。ふふ。
「レクシシュ、体の具合はどう? 火傷とか痺れとか残ってないか?」
席に腰掛けた一拍後に、リトの気遣う声音が掛けらる。心配をすぐに拭おうと、連続で首を縦にふる。ふりまくっておく。
昨日、<<ドムキュア>>シナリオの中での初戦闘イベントをリトの負傷なしで終えられたあと、無事に村の中まで戻ってくることができた。
リトの危機をひとまず守りきれた達成感でその場に座り込んでしまったわたしは、また自力で立ち上がれなくなってしまい、またしてもリトにおんぶされてリトの家に連れ帰ってもらった。
そしてそのまま一晩泊めてもらって次の日が今日。
お世話になった恩返しとか考えてたはずなのに、連続の無銭飲食に無賃連泊。しかも、夕べは寝る前まで腰が抜けたままで、グランマに寝る前のお着替えまで手伝ってもらってしまった。けっこう本格的な介護を受けることになってしまって、申し訳ない。
「怪我はないから大丈夫ですよ。心配してくれてありがとうございます!」
「……そうか。よかった」
わたしの返事にリトの寄せていた眉や引き締めていた口元を緩めた。
だいぶ心配を掛けてしまったみたいで、ちょっと悪いことしたなぁとは思うけど、あのままじゃリトが大怪我を負ってたんだから、仕方ないことだよ。
何度同じことが起こっても、わたしは同じ行動をとる自信がある! うん。その自信しかないな!!
それに、昨日は迷惑を掛けてしまったけど、今日は自力で起き上がれたし、身支度だって自分でできた。昼間と同じぼろぼローブにありふれている丈夫な木靴スタイルだ。
髪は櫛で梳かしたけど、前日が要介護だったから水浴びができてない。朝ごはんのあとでもお風呂をいただけないかグランマに相談しよう。
そのあとは何か仕事はあるか聞いてみよう。家の中に無くても、お店で日雇いバイトがないか探してみるのもいいかもしれない。
そうだ、そうしよう。と、朝ごはんをもぐもぐしながら一人で頷いていると、先に食べ終わって食後のお茶を飲んでいたリトが口を開いた。
「今日はこのあとどうするつもり?」
「うーん? お金を稼ごうかなって思ってます」
「お金?」
考えていたことそのままの話題で面白いな~と思いながら答えると、リトに怪訝な顔をされる。
特に変なことを言ってるつもりはないんだけどな??
「はい。カンサリートさんの家でもう二日もお世話になっちゃってますし、少しでも何か返したいと思って」
「返すって、それは僕の方だろう」
「え??」
返す? なんでリトが返すの。意味が分からない。
「魔物の攻撃から庇ってもらったんだから、家に泊まったことなんて恩の数にも入らなくなるよ」
「うーん……。あれはわたしが好きでやったことだし、それとこれとは違うんじゃ」
「なんでだよ。違うわけないだろ」
リトの言うことを飲み込めずに困惑する。そんなわたしを見やりながら脱力するようにため息をつくリト。
昨日のあれは、リトの傷つく姿を見るのが嫌だったわたしの完全な自己満足だから。それを受け入れてくれるだけで嬉しいし、負い目に感じてほしいわけじゃないんだよ。
でも、『返す恩』って思ってくれるのは、負い目とは違う、のかな。
「うーん? 今日の予定を聞かれたのは、わたしになにか用事があったってことですか?」
「何か欲しいものはないか聞きたかったんだ。助けてもらったから、少しでも何かお礼ができればって」
自分の中でまだしっくりこないまま話が止まってしまったのをつなげようと、もともとの話題に戻してみる。と、不思議なことを言われた。それ、さっきほぼ同じ台詞をわたしがしゃべった気がする。
「お礼」
「うん、お礼。たとえば、服を新しく買い換える、とか」
……。
…………。
…………!?
「服!? 服を、リトが見立ててくれるの!?」
リトの口にした言葉がすぐに理解できずに、動きが何秒か止まってた。たぶん、衝撃が強すぎて息も止まってた。理解したら嬉しすぎて生還した!!
「あ、ああ。でもまぁ、村にあるものだから、大した礼にはならないと思うけど」
「そんなことない、すごく嬉しいよ!! すぐに準備するね!」
なんか苦笑しているリトを置いて、朝ごはんを急いで食べ終えて、さらに急いで水浴びをさせてもらった!
リトのお誘いでお出かけできるし、ぼろぼローブから卒業できるし、リトが選んで買ってもらった服を着られる!!
嬉しい時間は早くきてほしいし、長く続いて欲しいし、推しの前ではできるだけベストな自分でいたい健気な乙女心! 今はそのままのぼろぼローブでも服のシワもできるだけ伸ばすのだ!
最速で準備を終えて戻ったわたしは苦笑したままのリトの腕をぐいぐい引っ張って、村の何でも屋をしているという雑貨屋を目指した。
昨日は慌てて走り去っただけだったお店は、簡素な絵看板が掛けてあるこじんまりとした素朴なお店だった。
村の人ならお店はここだって知ってるから、目立たせる必要もないのかもしれない。完全地域密着型か。
「ここだよ。もう開いてるから、入ろう」
店の中を見回してみると、大体を分類されて並べられているらしい。炊事洗濯なんかの家事で使う雑貨や小物類。野菜や薬草なんかの植物の種や畑仕事をするための道具。
ほんとに生活に必要そうなものが大雑把に並んでる。言葉の通りのなんでも屋さんだな。
そんな中で、店の壁に沿うようにいろんな服が並べて掛けられていた。
リトに連れられて服が並ぶ場所へ行ってみると、男女に分かれて色んな服が掛けられている。
村人などの一般の人が着る普段着からちょっとかしこまった訪問着、狩人や冒険者が着るような激しい動きや衝撃に強い丈夫な服、いわゆる防護服もある。これは防具屋も少し兼ねてるのかな。
「どんな服にする?」
女性物の服の陳列棚をしげしげと見ながらリトが話を振ってくれる。
お礼って言ってたし、その意味だけなんだけろうけど、ちびっこの要望を聞いてくれるとこ、優しいよね。好き。
「カンサリートさんに選んでもらえるなら何でも嬉しいです!!」
でもやっぱり、ここは推しにコーデしてもらえる欲を取らせていただく!!
「ふーん。じゃあこの股上の長い男性用の作業服にしようか」
ちろりとこっちを横目で見ながら指し示されたのは、ツナギ。
いや、ゴメンナサイ。ほんとゴメンナサイ。ちびっこが色気づいたように思われましたか。小さなレディから逸脱してましたか。ナマイキ言ってゴメンナサイ。
そのツナギ、見るからに大柄の男性用ですよ。着たらたぶん服の二の腕丈と膝丈くらいまで折り曲げて腕まくりするかすそ上げが必要だし、さらに丸襟じゃないですか。首元まできっちりとボタンを留めても胸元がガッバガバで肩もずり落ちそうですよ。
「ゴメンナサイ。丈夫なローブをください」
素直に謝ってツナギは取り下げてもらう。さすがに推しコーデはむずかしいか。
謝ったらくふんって小さく笑う声が聞こえた。かわいい。
「かわいい服がいいんじゃないのか?」
「か、かわいいのがあれば嬉しいですけど、まずはぼろぼローブをやめたいかなって」
二人で横に並んでどきどきしながら陳列棚から服を一枚ずつめくりながら探してみる。けど、かわいい服って。リトからかわいい服ってセリフが出るのに身震いするんだ。はぁ、幸せ。
まぁ、幼馴染なリリアンナがいるし、女の子はかわいいのが好きっていうのを基礎知識として持ってるのかもしれないな。
「レクシシュの大きさに合うローブか……。
なぁ、おじさん! ちょっと聞きたいんだけど」
小さい陳列棚を大まかに見終えると、少し考え込んだリトがお店の奥に顔を向けて、大きな声で呼びかけた。
人のよさそうな愛想のいい笑顔のおじさんだ。この雑貨屋さんの主さんかな? とぼんやり考えたところで、話が一気に進んだ。
「お、リートじゃないか。どうした?
え、そのお嬢ちゃん用の防護服?
お嬢ちゃんに合うローブはちょっと置いてねぇな」
おお……さすが店の主だ。店内の商品を把握してて、すぐに答えが出せた。
が、ここにはわたしのようなちびっ子が着れるような防護服がないだって!?
わたしの大きさに合う服がないかも聞いてみると、普段着はあるらしい。見せてもらうと、かわいらしいエプロンドレスだった。
あれ、これってリリアンナの初期ステータス画面の服とデザインが一緒じゃない? 村娘の服装としては定番なんだろうか。……まぁ、炊事洗濯や畑仕事をすると考えたら、便利な服にはなるかな。
「エプロンドレスか。レクシシュ、これはどう?」
リトもこれなら無難かと思っているのか、特に意見を向けずに首を傾げてこちらを見てくる。なにそれ、かわいい。
脳内でかわいさに悶えつつ、割と真剣に困って眉尻を下げながらリトを見上げた。
「うーん。できればローブがいいんです」
そう。村娘の普段着としては便利な服なんだけど、わたしとしてはちょっと困る。
今はジリマ村のリトの家に居候の身で、基本は村の中にいる。それなら村娘コーデのかわいいエプロンドレスでもいいんだけど、問題はずっと村に居るわけじゃないというところ。ずっと居候で居続けるわけにはいかないし、村に留まり続けることはできない。
<<ドムキュア>>の物語が進みだして状況が変化するとき、村の外に出る可能性が高いなら、普段着よりも丈夫に作られた防護服を持っていることは大事だ。
わたしの視線を受けて困っていることが伝わったのか、あごの辺りを人差し指で軽く叩きはじめる。考え込んでる?
「そうか。どうするかな。ばあちゃんの服も使えないし」
いや、そこでなんでグランマの服の話がでてくる? そういえば、寝間着は普通のでよかったって言ってもいた気がする。なんだそれ。
リトの話の意味がつかめずに脳内で疑問符を飛ばしまくっていると、雑貨屋では一旦なにも買わずに家に帰ることになった。
え。リトとのお出かけはお仕舞いってこと?
雑貨屋のおじさんに見送られて、リトをぐいぐい引っ張ってきた道を引き返す。
お出かけの終わりにちょっとしょんぼりしながら家に帰って何をするか聞くと、家捜しって返ってきた。
「家捜し。家捜し? なぜ??」
しょんぼり状態からまた疑問符でいっぱいになって思わず呟くと、身丈の合う服があるかを探すってことらしい。
「ばあちゃんのでも母さんのでもいいんだけど、基本的にワンピースっぽい身丈のローブしかないから、使えないんだ。でも、長く着るものだし、母さんの小さい頃の服が残ってないかと思ってさ」
リトのお母さんの小さい頃?? その頃からグランマと同じ服を着てるってこと??
相変わらず話が掴めないまま、さくさく家路を急ぐリトの後をついて行った。
家に帰り着くと、簡単にグランマに了解を得て、リトのお母さんの部屋に入る。
ここはわたしが寝泊りさせてもらっている部屋だ。使わせてもらっているリトのお母さんのベッドと、もう一つ大きめのベッドがある。たぶん、リトのお父さんのベッドだ。
その部屋の隅の床を触っていたと思ったら、軽く木が擦れる音がして、正方形の木板が取り出された。え。それって蓋? 地下の部屋があったの????
取り出した木板の向こうを見ると、蔦草で編まれた梯子が括りつけられていた。地下室の床もすぐ見えたから、そこまで深さはないらしい。
「じゃあ、僕は中を探してくるよ。少し時間が掛かると思うから、レクシシュは好きなことしてていいよ」
わたしが状況に追いつけない間に胸あたりまで地下室に沈めて声を掛けてくるリト。それに首を縦にふる。
わたしの反応に何かを思ったのか、にこっと笑うと、地下室に飛び降りるようにリトは消えていった。え。突然のファンサですか? ありがとうございます。
……。
…………。
「……うん、グランマのお手伝いでもしてよう」
<<ドムキュア>>のゲーム知識だけでは分からないことがこの世界にはあるらしい。ちょっと深めな地下室なんてあってびっくりした。ゲームの中では地下室はマップ表示されなかったから知らなかったのだ。話の腰を折りまくってしまいそうで、わたしのために動いてくれているリトに聞くのは躊躇ってしまったけど、情報収集と情報整理は大事なことだ。グランマに教えてもらおう。
わたしは空気を読めて主張も濁せる大人感を知っているのだ。ふふ。嫌な大人感の有効活用!
お昼ごはんの下ごしらえを手伝いながら聞いたところ、なんだかすごく不思議な話を聞かせてもらった。
グランマの着ている服は、とても丈夫な糸を使って織った特別な布を贅沢に使った強力な防護服らしい。その特別な布は裁断してしまうと効力を失ってしまうらしく、成長するたびに服を新調する。もしかしたら、リトのお母さんの小さい頃に使っていた防護服があるかもしれない。ってことらしい。
その不思議な話の前提がすっぽり抜けてたからリトの話がさっぱり分からなかったのか。
リトはそのまま家捜しを続けていた。お昼ごはんが出来上がったら一度呼びにいったけど食べ終わったらまた潜って行って家捜しを続けている。
ちょっとリトの時間を使いすぎている気がして申し訳なくなる。わたしのサイズのローブをゲットするのがこんなに大変だなんて思ってなかった。
「カンサリートさん!」
「うん? ああ、レクシシュ。どうかした?」
「あの、もうそろそろ切り上げませんか? 日が傾いてきましたよ」
「あぁ……もうそんなに時間が経ってたのか」
わたしの呼びかけに地下室から顔を出して窓の外を見るリト。
ガラスのない鎧戸を上げた窓からは、やわらかいオレンジ色の日が差し込んでいる。ばっちりな夕焼けだ。
「ごめん。お礼のつもりだったのに、一日無駄になったな」
肩を落としたリトは地下室から上がってくると、わたしに頭を下げた。
「え?? ムダってなんで??」
「あの雑貨屋、夕方には閉まるんだ。今日中に服を贈ろうと思ってたんだけど、これじゃ間に合わない」
夕方には何でも屋さんは閉まってしまうらしい。さすが田舎の代表のようなジリマ村、朝が早い分夜も早い。
「わたしはカンサリートさんとお出かけできて嬉しかったですよ。それに、服が決まらなかったらまたお出かけできるじゃないですか! そっちの方が楽しみです!」
なんかじっと見つめられる。
「あんたさ、小さなレディなんだろ? もっと恥じらい持ったら」
「え!? やっぱり何かレディから逸脱してましたか!?」
「やっぱりってなんだよ、やっぱりって」
リトは気の抜けたような笑いを浮かべた。やっぱりレディな反応じゃなかったらしい。推しの前では少しでも素敵なレディでいたいんだ。気をつけよう。
今日は一旦、服のことはおしまいってことにして、お風呂に入ってグランマ&わたし作の夕ごはんを食べる。今日も定番のミルクスープだ。水風呂に入る分、夜は冷えるから暖かいごはんがほしくなるんだよね。ゲーム本編スタート時の季節は春先くらいだったと思うから、もう少し暖かくなったら焼き物の料理もおいしく食べれるようになると思う。
安心する味ににこにこしながらもぐもぐしていると、リトがこっちに目を向けた。
わたしの倍以上は量を食べるのに、わたしよりも先に食べ終わっている。きっと口が大きくて噛む速さも早いのだ。わたしが遅いんじゃない。はず。
「レクシシュ、食べ終わったらでいいから、僕にもう少し付き合ってくれる?」
「? うん、いいですよ」
リトの言葉に首を傾げつつ、二つ返事で応える。
今日の用事は済んだと思ってたんだけど、他に何かあったかな??
夕ごはんをおいしくいただいて、ごちそうさまと後片付けが終わる。引き続きお世話になりっぱなしなので、後片付けはせめてもの恩返しなのだ。
そのあとはリトの部屋だと教えてもらった扉の前まできた。ごはんのあとの用事だ。
とんとんとノックして、レクシシュです。と声を掛ける。……関係ないけど、わたしの名前って名乗るときに丁寧語でしゃべると高確率で噛みそうな気がする。発声訓練して滑舌をよくしないといけない気もする。がんばろ。
どうぞ、という返事を聞いて、そっと扉を開けた。
ゲームのマップでも見たことのある、リトの部屋だ。部屋は広いけど物は少なめ。ベッドとサイドボードとクローゼットがあるくらいのシンプルなお部屋だ。
「おじゃまします」と軽く頭を下げつつ部屋に入ると、ベッドとサイドボードの上にあるものにびっくりした。
服だ。クローゼットの中に入りきらないくらいの小山になるくらいの服が並んでいる。
しかもローブだ。ローブというかこれ全部が丈の長い服っぽい。
「地下にあったローブと、もしかすると着られかもしれない服を出してみたんだ」
服の山に驚いていると、補足するようにリトが教えてくれる。
「え。これ、全部わたし用? ですか??」
「着れるかは別だけどな」
そういいつつ、わたしをサイドボードの近くに立たせると、服の山から一つずつ体に当てては丈や色を見てくれている。
でも、成果はあまり宜しくない。リトの眉間にシワが寄ってる。凛々しい。すき。
「ワンピースも少し丈が長すぎるな。今着てる寝巻きみたいになる」
ローブ以外に持ってきてくれたリトのお母さんの子供時代の服も、わたしが着るとなると長すぎて服のすそを踏みそうな長さになる。
……わたしが小さいんじゃないよ。リトとの身長差は頭みっつ分くらいなんだよ。お母さん大きくないですか。
「あとは、これくらいか」
服の山も最後に差し掛かって、拍子抜けというか一仕事終えたというか肩で大きく息をつきながら、一枚の服があてられた。
シンプルな革シャツだ。今まで見ていた子供でも着れそうな丈の長い服じゃなくて、袖も長めなシャツ。でも、身丈としてはむしろ丁度いいかもしれない。袖は長袖だから捲り上げないといけないけど、裾は上げる必要がない。
そこにまたシンプルなベルトを充てられる。ふむふむ。革でできたシャツだから丈夫な分ごわごわ広がるからそれで抑えるんだね!
「すごい! ちょうどいいです! これ、どうですか!?」
ちょっとテンションの上がったわたしは、革シャツをあてたまま、くるりと回ってみた。実際に着ているわけじゃないけど、ふんいきだ!
「そうだな。今日一晩はそれで間に合わせたらいいんじゃない? 僕が着れなくなった上着で悪いけど、また改めて買えば良いし」
……。
…………。
…………!?
こ………ここここここれはリトのお古の服!? つまりは彼シャツ!? 推し彼シャツ!?
「ど、どうした?」
今のわたしが着たらシャツワンピみたいになるけど、逆にそれが良い!!! 全力で感謝する!!!!!
「リト、ありがとう!!! わたし、服はこのままコレを着たい!!」
「え? なんでさ?」
「だってリトの服だもん! これは譲れないよ!!」
「? ……。あー、まぁ、気に入ったんならいいけど」
「リト、ありがとう!!!」
急にテンション縛上がりしたわたしの反応に、リトの顔がちょっと引きつってた気がしたけど、ごめん。気にする余裕がない。
これで、一日リトを連れ回したお買い物デートは何も買わずに終わることになった。
うん、わたしは大満足です。推し彼シャツを抱きしめて寝たいよ。
雑貨屋のおじさんのセリフは一つでおわった!
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