5.このシーンってまずくないか!?
グランマに優しく声を掛けられて目が覚めた。
まだ頭から考えが吹っ飛んだままみたいで、思考がまったく回らない。推しの力は凄まじいな!!
ベッドを借りるのに、ぼろぼろの服のままなのは申し訳なくて、前夜はグランマの予備の寝間着をお借りして一夜を過ごした。
普通の寝間着だから貸せてよかったって話してたけど、普通じゃない寝間着ってあるんだろうか? まだハニワ状態です。
お借りした寝間着は上着だけなのに、着丈が床に引きずる勢いで長いチュニック丈だったから、両手で持ちながら移動するような感じになっていて、もちろん両腕の長さが上着よりも短いから、何度か折り曲げて腕まくりした形だ。
昨日もお世話になった浴場の大甕から水を汲んで顔を洗ってきれいにして、髪を梳かす。
それが済むと、当たり前のように朝ごはんを進められた。
「あの。ありがとうございます。いただきます!」
朝ごはんは昨日の晩ごはんと一緒だ。根野菜をがっつりミルクで煮込まれた煮込み料理と、固めのパン。
保存を優先している固めのパンって、スープ系の料理に浸して食べるとホントおいしいよね。
スープにくぐらせてしみしみにさせたパンを口に入れたときのじゅわっと感がたまらない! たぶん、ミルク煮だから、パンにかけてチーズ乗っけて炙ってもおいしいと思うんだよね。
まぁ、そのひと手間をかけるかどうかは味の工夫をしたいか時間を惜しむかによって違ってくるだろうけど。
朝ごはんに食べるとしたら、わたしならひと手間加えたかも。まぁ提供してもらってる側だし、そのままでも十分おいしいし、自分で料理をするタイミングがあればまた考えようかな。
もぐもぐと朝ごはんをかみ締めつつ、ぼんやりと考え事をしながら、洗い物をしているグランマの後姿を見つめる。
朝ごはんといっても、朝日は昇りきっていて外が大分明るくなっている、がっつり遅めのごはんだ。台所の壁にある鎧戸の窓は開け放たれていて、太陽の光が差し込んでいる。体感でいうところの10時頃かもしれない。ほんとに遅めのごはんだ。
……うんうん、ごはんを食べることで頭が回ってきたみたいだ。
朝ごはんをぜんぶ胃に納めて、ごちそうさまをすると、きょろきょろと部屋を見回してみる。
けど、リトの姿は見えないな。どこに行ったんだろう?
リトは双剣とか投擲武器を使ってるはずだし、朝稽古なんてしてるのかな? とも思ったけど、朝稽古は早朝にするものだろう。たぶん。
村に住んでれば、体を鍛えるだけの時間に当てられるはずもなく、生活をするための仕事もあるはずだ。今の時間帯だと、朝の稽古の時間はとっくに過ぎてると思う。
一宿一飯の恩っていうかお世話になったんだから、恩返しとして働くことは必要だ。もし、生活をするための仕事をしているなら、その仕事を少しでもお手伝いをすべきだ。
それなら早速! と、グランマの後姿に声を掛ける。
「あの! カンサリートさんってどこにいますか? お仕事してるなら、お手伝いしたいです」
「え? ああ。リートならリリちゃんと連れ立って外に出て行ったわよ」
ん? リリちゃん? 連れ立って外に出て行った?
これって。
「え」
「リートも男手だし、力仕事じゃないかしら? せっかくお手伝いを申し出てくれたのにごめんなさいね」
脳裏に、かつてのゲーム画面が出てくる。目の前のリトに対する呼びかけるメッセージ画面が見える。
『―――村のはずれの森に現れた魔物が強いらしくて、お隣さんが怪我したみたいなの』
『―――ライと様子を見に行くんだけど、心細くて。リートも来てくれないかな?』
覚えのありすぎる展開ですよ!!!!
「え、と、リリさんとカンサリートさん、どこに行ったんですか!?」
「さぁ? 近くの森じゃないかしら? リリちゃんに呼んでもらえるなんて。とても嬉しいことよね」
これって……やっぱり、リトがリリアンナにお呼び出し受けてるって事じゃないですか!?
グランマもいいことみたいに言うってなんでですか!? いや、昨日の事情はグランマは知らないだろうけど。
昨日の夕方にリトをこっぴどく振ったくせに、舌の根も乾かないうちに、あのセイジョサマはなにしくさっとんのじゃ!!!!!
『あたしたちは、大切な幼馴染だよね。ずっと、変わらないよね?』
そうですね!! リトに対する彼女の中での"大切な幼馴染"って扱い方は変わらないんでしたね!!! 知ってた~~~~~~!!!!
「ありがとうございます!! わたしも何かできるかもしれないので、行ってみます!」
「そう? リリちゃんの力になってくれたら嬉しいわ」
知 ら ん が な !!!!!
グランマの最後の言葉は華麗にスルーして、座っていた席から飛び降りた。
リトのお母さんのお部屋に急いで戻って、部屋の端に寄せていた荷物を引っ掴む。
お借りした寝間着を脱ぎ捨てて、自分の持ち物のぼろぼろの服を急いで頭を突っ込み着る。
あとは<<ペンダント>>と<<がま口バッグ>>のわっかをがぼがぼっと頭に突っ込み、<<ハタキ>>がバッグの肩掛けの紐に引っかかっていること目の端で確認すると、そのまま外に走り出た。
小さい村の入り口から一番遠いリトの家。
昨日の夜に、リトの背中で揺られながら辿った道をひたすら走って引き返す。
早く、早く、と気持ちばかり急いて、なかなか先に進まない。急に縮んでしまったちびっこの体が恨めしい。
あと、<<がま口バッグ>>が進む方向からの空気抵抗を受けて肩掛け紐が首に閉まって苦しい。
だけど、そんな事に構ってなんてられない。
何件かの民家の前を通り過ぎ、武器屋などのお店と小さな広場を通り抜けて、村の入り口にたどり着いても勢いは緩めずに森に入っていく。
目指すのは、村のはずれの森。つまりはチュートリアルな森だ。しかも、使い回しマップだったから、魔物が現れる場所とリトがリリアンナに告白する場所が一緒なんだよ。
だから、目指す場所は、レクシシュがリトと初めて出会った場所だ。
鬱蒼とした森を進んで、3つの人影を見つけて、息を呑んだ。