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4.推しの家にお泊りですが、今夜の寝床ゲット感が強い

「ただいま。ばあちゃんいる?」


 村の一番奥にあるリトの家までたどり着くと、灯りがついたこじんまりとした家の戸をあけてすぐにリトは声を張り上げた。

 そうなのだ。リトはおばあちゃんと二人暮らし。リトのご両親は確か出稼ぎに行ってていないはず。


「はいはい~。リート帰ったの? 今日は遅かったねぇ」


 呼びかけに、家の奥から返事がある。あったかい湯気と良い匂いと一緒だから、ごはんを作っているのかもしれない。

 リトは一度首を巡らせてわたしの方に視線を向ける。うん、紹介してくれる前の合図ってこと? がんばるよ!

 こっくりと頷いて見せると、リトも小さく頷く。かわいい。そのまま、おばあちゃんの声のした奥へ進んでいく。

 炊事場というか台所というか、ごはんを作る場所らしいところに進むと、軽く曲がった背中の白髪をひとつにまとめた女性の後姿が見えた。


「ただいま。遅くなってごめん」

「ふふふ。遅いってのは冗談だよ、おかえ……り?」


 リトがもう一度声を掛けると、作業がひと段落ついたのか、女性が笑顔で振り返った。おっとり素敵グランマだ。あと、笑顔のまま首をかしげた。

 まぁ、驚くよね。孫の背後に見知らぬ子供がへばりついてれば。もちろん、わたしはおんぶスタイルのままなのである。


「あら、見ない顔だねぇ。新しいおともだち?」

「うん。近くの森で会ったんだけど、今日泊まる場所がないらしくて、うちに泊めるつもり」

「ヨロシクオネガイシマシュ!れ、れくししゅデシュ!」


 いい年なのに噛んだ。どもった。緊張しすぎたんだ。いや、子供の体だからセーフである。たぶん。ちょっとリト、半眼で首をめぐらせないで!


「うちに泊まっていくのね。ベッドはどうしようかね?」

 首をかしげたまま、困ったように呟くグランマ。

 おお、グランマ。初対面の子供を泊めるのはOKなわけなのね?

 そこらへんは、田舎になるほど閉鎖的でよそ者を警戒すると思ってたけど、違うのかな?


「床に間借りさせてもらえでもしたら十分です! ベッドなんて贅沢でぇっ!?」

「人の家に泊まるのに、なんで床なんだよ」


 グランマの問題を解決しようと最初の予定(宿屋がないなら店の床の間借り)を話したら、いきなり髪を引っ張られた。

 おんぶスタイルで身動きできない子供へえらい仕打ちだけど、ベッド案を続行するようなこと言ってるぞ。どういうこと?

「もともとお店の床に間借りするつもりだったし、ベッドの心配はいらないですよ」

「どのベッドにするかって話だから。数は足りてるんだよ」

 反論したわたしに、さらに髪を連続でひっぱられる。子供の遠慮へのツッコミなのか? なんだよ、個人的にはご褒美だけど、地味に痛い! 反撃するぞ!?

 しがみついていたリトの首にぎゅっと力を入れるが、反応がない。ノーダメなのか…非力なちびっこの身なのが悔しい。


「仲良しだねぇ。女の子だし、ミレイのベッドを使ってもらおうか」

 一人でリトの首と格闘していると、楽しそうなグランマの声。

「母さんのね。うん、それでいいよ」


 リトのお母さん? え、初耳。リトの家はゲームのストーリー中でも入ることになるから、間取りを把握しているつもりだった。

 ゲームでは、リトとグランマの二人暮らしだったと思ってたけど、お母さんがいる?? それに、お母さんがいるのに、そのベッドが使えるってどういうこと??


「はいはい。あと、そろそろ降ろしてあげなさい。小さなレディをもてなしてあげるんでしょ?」

「ちいさなレディ、ねぇ」


 続けられた言葉と共に、久しぶりに足にフローリングという名の地面が戻ってきた。

 グランマの言うとおり小さくてもレディなので、リトのからかうようなセリフはスルーである。おかえり地面!





 話が進まないと思われたのか、グランマに体の埃を落としたあとに夕食にしようと提案されて、わたし、リトの順番で身支度をすることになった。

 ちびっこが慣れない場所で体を洗うのは大変だし危険だから、いつでも助けに入れるようにってことらしい。わたしの推しが優しい。好き。


 旅立つ最初の村になるこのジリマ村は、大陸マップの中でも生息地が広い人間族の地域の中で、最東にあたる村だ。

 近くにはあのチュートリアル森があるくらいで、あとは原っぱと山が広がっている。

 村人は農業や酪農か、森か原っぱに行く狩人くらいで、ほぼ自給自足。お店があること自体が珍しい辺境である。

 山を越えたら断崖絶壁で、海の先は大陸マップ上では行き止まりで、どうなっているのかは分からない。

 もちろん交通の便は悪いから、雑貨屋さんとか武器屋さんが行商みたいに遠くまで仕入れに行くんじゃないかな?


 膝にあごを乗せつつリトが出てくるのを待ちながら、ツラツラと設定を頭の中から引っ張りだしながら考える。

 しばらくは立って出待ちしてたけど、足が疲れてきたので今は座り込み中だ。


 何が言いたいかって言うと、お湯じゃなくて水浴びで身支度ってこと。

 川は少し離れてるし、生活用水は共用の井戸を使うことになるから、身を清めるお湯を用意するのは大変だよね。

 さっき使わせてもらったけど、大きな甕に水が溜めてあって、そこからくみ出して使うみたい。身を清めるための浴場というよりは、石が敷き詰められた洗い場だった。

 田舎の民家に小さいながらも浴場があること自体に驚いたけどね。いつかはたっぷりのお湯を張ったお風呂に浸かりたいなぁ。



 あと、ゆらゆらと不安定に揺れる部屋の灯を頼りに大きな甕を覗き込んだとき、暗くて薄ぼんやりしてたけど、見慣れない色合いが見えた。赤色と肌色と黄色だったかな?

 水分をいく分か残したままの髪の毛をつまみ上げてみる。明るい赤色が混じった金色だ。

 驚いたことに、赤金髪のちびっこになっていた。いや、小さなレディだった。目の色は黄色なのかも。

 ……これは明らかに日本人のカラーリングじゃない。


 分かっている名前も、レクシシュだ。日本人のときの名前が思い出せない。レクシシュっていうのが馴染みがあるし、ぼんやりとだけどレクシシュの生い立ちが体験した内容として思い出せる気がする。

 意識としては日本人の感覚もあるし、<<ドムキュア>>のゲーム内容も把握してるように思うのに、他のわたしがまるっとレクシシュなんだ。

 ……変なかんじ。まぁ、隠れ家Berから追い出されたと思ったら森の中にいたんだから、状況も意味不明だ。

 なんとなく思い返せるのは、『リト愛を熱く語ったこと』『リトを助けてくれって言われたこと』『仲良くなれるために子供の姿になったこと』だ。

 『リトを助ける』ことくらいしか分からないなぁ。うーん。それは望むところだし、できることはやりたい。


 だって、彼女が彼を選ばなかったら―――。



「おい、なにしてる!?」

「ぅえっ!?」



 真上から突然声がして飛び上がった。

 うん、言葉通り弾かれたように飛び上がって、お尻が宙に浮いたあと、足裏で支えられずにそのままお尻から着地した。

 痛い。腰骨打ったか? あごもだ。ヒリヒリよりジンジンする。

 考え事してて口を開いてるわけじゃなかったし、舌を噛まなかっただけましかな……。


「わ、わるい」

「カンサリートさんは悪くないよ。ぼんやりしてて、勝手に驚いたんです」

 お尻をさすりながら立ち上がると、そわそわと所在無さげな両手が見えた。

 ホント、リトは悪くないんだから、罪悪感なんて覚える必要ないのになぁ。

 そういうとこだぞ、と惚れ直しながら顔を上げ、「う゛っ!!」と目を閉じて咄嗟に顔の下半分を抑えた。


「ど、どうした!? 口の中でも切ったか?」



 いいえ、鼻血がでそうなだけです!!!!!!!!



 目の前に推しがいる。髪から水が滴っている推しがいるのだ。お湯じゃないけど湯上り美男子である。興奮しないほうがおかしいだろうよ!!!???

 直前のお尻やあごの痛みなんてどっか行くほどのド煩悩の答えを素直に口に出さなかった自分をめちゃくちゃ褒めたい!!!

 子供に戻ったからか、つるっと本音が口からでるから油断ならないんだよ。ここは慎重に。

「だいじょぶ! お、男の人の濡れ髪に見慣れなくて、恥ずかしいだけでっ」

「は……?」

「ぅあ?」

 痛みじゃないよと早口に、というか叫ぶような勢いで返事をした。

 んだけど、返ってきた反応が硬い、ような。

 え。今のセリフ大丈夫だったよね? 水の滴る推しが見られて拝み倒したいですなんて言ってないし。小さなレディ(気に入った)らしい反応になってるよね? 恥じらいってもんでしょ?


 しばらく待ってみるけど、やっぱり反応がない。

 興奮を抑えるための防御(目閉じと鼻血抑え)をそろりと外してみると、体を拭くための大きな布を頭からすっぽり被ったリトが居た。

 ん? どゆこと?


「カンサリート、さん?」

 ぽつりと呟いてしまった名前に、ちょっとビクついた後、被った布を両手でガシガシかき混ぜ始めた!

 意味の読めない動きにこっちがビクつきますよ! ほんと、何ごと!?

「いや、気にしないで。……ばあちゃんの言った通りだったって分かっただけ、だから」



 え、なに。もしかして、 照 れ て ら っ し ゃ る ……???



 まだ髪を頭ごとガシガシかき混ぜながら、「行くよ」って呟くように声を掛けられて、首を何度か縦振りしながらついてった。

 うん、分かってますよ? 森で拾ったがきんちょが変な反応したから気まずいというか気恥ずかしくなったってこと、だよね? 初心な反応に釣られたというか、いや、初心な反応したか自分、いやしたな。小さなレディな反応したもんな。それに対してのリトの反応のほうが初心だわ。かわいいわ。これは放心しちゃうほどかわいいわ。顔のリアクション難しい。ハニワ顔になってないか?


 というか、そのままグランマの元に戻って食卓を囲んだはずなんだけど、リトのお母さんのベッドとお部屋(個室というか夫婦の寝室らしいけどいいのか?)をお借りしてベッドにもぐりこんだはずなんだけど……。

 何を話したのか全っ然おぼえてないよ、どうなってるの。あと、いろいろシリアスなこと考えてたはずなんだけど、全部頭から吹っ飛んだ気がする。


 わたしの頭大丈夫?

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