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3.わたしは言葉が理解できる迷子です!!

振り向けば、推しがいた!!!!!!



着ている服がぼろぼろだとか、自分の手が小さいだとか、自分の身長が異様に低くて見上げる首が痛いだとか、フラッシュバックのように掠めたこの森に追い出されるまでのやりとり回想だとか、もろもろがどうでもよくなるほど大事なことだ!!!!



目の前に推しがいる。見上げるほど近くに推しがいるのだ。興奮しないほうがおかしいよ!!!

わたしから頭みっつ分くらい高い位置から見下ろす形で、紺碧色の髪からのぞくミスティックトパーズ。その視線はひどく警戒している。たぶん、腰に身につけている短剣に手を添えてもいるだろうな。まぁ、明らかに怪しい動きをしていたし、村で見たことない人間だろうし、身なりもこんなぼろぼろだし、ちんちくりんだし、警戒しないほうがおかしいとも頭の隅で思うけど、そんな冷たさを押してもあまりある魅力のかたまり!! すき!!!!

今の年齢は15才で成長途中だけど、初期ステータスが俊敏をメインにバランスがいいから、今だって体を鍛えているはずだ。無駄な贅肉や筋肉をつけていないしなやかな体つき。じゅるり。走ってるとこ見てみたいなぁ、綺麗なフォームで音も小さく走れるんだろうなぁ。そのときになびく髪は太陽の光に照らされてキラキラアクアマリンの輝きを弾くんだろうな。あああああ。好きだ。素敵だ。脳内スチルどころか脳内カメラ連写してパノラマで横に並べて眺めたいしムービーで撮って、脳内再生をリピートしたい!!!!!


「おい。聞いてるのか? それとも言葉が分からないか?」


おっと、見返してにへにへしてるのがばれたらしい。警戒に不振が加わってるよ。やばい!!!


「わ、わかります! 言葉は分かってます!」

「そうか。で? 何してるんだ、こんなところで」


慌てて返事をすると、小さくため息をつかれる。

これは、言葉が通じることと敵意をもっていないことで、少しは警戒を解いてもらえたかな? 腰の剣柄に触れていた手はひとまずは下ろされている。この調子で無害な遭難者だと話をしないと。


「森で迷って、出口を探してたんです」

「こんな浅い森で迷った? 見たことない顔だけど、よそ者か?」

「はい。初めて入った森です。夜に突然森に迷い込んで、右も左も分からなかったんです」


これはほんとのことだ。あの不思議な空間からたぶんこの森に押し出されたんだと思う。自信をもってまっすぐ見返して大きくうなずく。

……うん、さっきからちらほら幼い動作をしちゃうことが気になってきてるんだけど、体が縮んでるみたいだし、体年齢に仕草がひっぱられてる気がする。まぁ、これで警戒を解いて信用してもらえるなら納得できる。まずはリトの信用を得ることが大事なことだ。このまま森で過ごすのはツラい。なんとか村まで連れて行ってもらって、宿屋をみつけて、働くことを条件に寝泊りさせてもらえるように交渉しないといけないしね。


「だから、人が居たから近づいただけで、覗き見をしようなんてつもりは全然なかったんです!!!!」

「…………はぁ~~~~~っ。全力で覗き見したんだな」

「してないですよ!? 失礼な!!!」


悪気も悪意もなかったことを宣言したのに、その場で脱力するようにリトがしゃがみこんだ。そんなリトに全力の抗議を込めて両手のこぶしを握り締めて天に振り上げ、ぶんぶん振る。断固抗議だ!!


「あなたに悪いことをするつもりもないんです。ただ、近くに街とか村があったら教えて欲しくて声を掛けたかっただけなんです」

「わかった。その身なりだし、物盗りか物乞いかと思ったけど、金はあるらしいな」

「た、たぶん?」

「たぶんなのかよ」


わたしの必死の訴えが伝わったのか、しゃがみこんだまま気の抜けた顔を上げたリトは苦い笑いを浮かべた。なにその顔、かわいいな。

お金を持っているかは大事だけど、所持品の確認はまだしてなかったんだよね。がま口にお金が入っているかもしれないけど、確認前だからたぶんとしかいえない。

あいまいな返事へのツッコミに応えられず、振り上げていたこぶしは斜めがけのがま口バッグの紐を握り締めて少し顔をうつむける。唇が知らずにとんがっていく。だってしょうがないじゃないか、知らない場所から知らない場所に突然移動させられてそのまま迷子なんだよ? 周りは暗くてよく見えないし、びっくりしてパニックになってしまうのも仕方ないじゃない。とりあえず人の町で寝床を探して落ち着いてから荷物の確認とかしたっていいじゃないか。


「ん」


黙り込んで自分の至らなさにぐちぐちと心の中で言い訳を呟いていると、目の前に手のひらが差し出される。

何のことかわからず、混乱したまま目線を上げると、立ち上がって傍に寄ってきたリトと目が合った。


「物盗りでも物乞いでもないし、僕の弱みになる場面に居合わせたのに、それを使って脅しをかけるわけでもないんだろ? そんな無害な訳あり迷子に声を掛けといて、見殺しにするほど人でなしじゃない」


けど、未だに意図が分からず首をかしげるわたしに焦れたのか、差し出していた手のひらがわたしの片方の手首を掴まえる。


「近くの村に向かいたいんだろ? 案内するか…って、は? なんだ?」


リトの話を聞いて、内容を理解したとたん、わたしの視界がさらに低くなった。というか、膝が痛いんだけど、はて?

リトから視線をはずして自分自身の体に目を向けると、地面に膝をついているorzのzが畳まれた状態だ。そして足に力が入らない。


「ごめんなさい。なんか、腰が抜けちゃった、みたい?」

「え? は? なんでだよ?」

「安心、したからかも……」


ははは。と乾いた笑いで誤魔化し笑いする。うん、緊張と混乱の連続だったんだから、仕方な…うん、ごめん。そんな眉間に思いっきり皺をよせてため息つかないでよ、わたしもびっくりして…


「わ!?」


ぐんっと掴まれていた片腕が強くひっぱられ、リトの首に後ろから回される。その間にわたしの体の下にリトの背中が入り込んで、だらりともう片方の腕がリトの肩口に伸びたところを、掴まれていた腕と組まされた。


「は? おんぶ?」


うん、おんぶだね? リトの後頭部が良く見えます。髪が顔に触れてちょっとくすぐったい。でも、おんぶだよ?


「歩けないんだろ? ここも魔物や獣がでるし、両手をふさがれるのは困るから、村につくまでは我慢してくれよ」


うん、リトの言い分は分かる。一応分かるよ? 浅い森って言ってたから、ドムキュアのストーリーがスタートする村の一番近くにある森ってことだ。そこはリトの言ったとおり、序盤のレベルの低い魔物や肉食の獣が出現するエリアだったはずだ。だから、帰り道に敵に遭遇して戦闘になったときに、両手がふさがるのがまずいのは分かる。



分かるんだけど、ちょっとツッコませて!!!

さっきまで警戒してた初対面の怪しい子供をおんぶしちゃうのかよ!? どういう展開だよ!? お人好しかよ! 優しいかよ!! 好き!!!!!!!!


だがしかし!! ぼろぼろの服を着たままリトの背中に居るのがとてつもなく申し訳ない!!!! リトの好意だし移動するためにも必要だしで言えないけど、もう少し綺麗な姿で触れたかったって擦り切れた乙女心が叫ぶんだよ~~~っっ!!

ああ、でも、リトの背中広くてあったかいな。必要な筋肉だけついてる感じ、ほんと想像通りでうっとりする……。










落とされないように必死にリトの首にしがみつきながら色々な感情に悶えているわたしを連れて、リトはさくさくと鬱蒼とした森を進んでいく。

はっっ!! 好きに溺れてるのもいいけど、変な出会い方ではあるけどリトと会えたんだから、村にたどり着くまでに少しでも仲良くなりた……


「ふ…うっくしゅ!」

「おい! 汚いな、つば飛ばすなよ!?」

「ごめんなさい! 顔逸らしたからついてないです!」


すぐに謝ると、長く息をつかれたあと、また森を進みだす。うん、ため息だったね、長かったね。ほんと、ごめんなさい。

もう、仲良くなる前にリトに嫌な思いをさせてどうするんだ。縮んだ体だからなのか、日が暮れてきた森の気温に耐えられなかったらしい。咄嗟に顔を背けたからリトには掛かってないのが救いだ。っと、そうだ。


「あの、ありがとうございます。村につれてってくれるし、おんぶもしてくれて」

本来の目的だったリトと仲良しコミュニケーション作戦を実行に移す。いや、うん。リトとしゃべって仲良くなりたい。

「ああ。これで今日見たことは誰にも言うなよ?」

肩越しに話しかけると、意外とすんなり返事が返ってくる。おんぶしてくれてるし、無害なちびっこには優しい。

が、返ってくる話題がそれかい。やっぱり、目撃した告白シーンは相当ばらしたくないらしいな。もちろん強めに否定するとも。

「もともと言うつもりなんてないです!」

「うん。さっきのやりとりでもそうだって分かったけど、一応な」

少し笑っているのか、体に振動が伝わってくる。ほっとした空気になった気がする。ちょっとは気を許してもらえるようになるかな?

でも、うん、て相槌の言い方かわいいね。こっちの年齢にあわせてるのかな? 優しい。すき。


ざくざくと暗い森の中を進んでいくと、進行方向が薄明るく見えてきた。もしかしたら、森の出口が見えてきたのかもしれない。

さすがチュートリアルな森だ。リトの言うとおり浅い森なんだろう。そこで迷子って聞いて困惑していたリトの気持ちも分かる気がする。こんなとこで迷うか?ってとこだよね。

森から出て村に着いたら、一度お別れになるはずだ。それまでに次に会う約束をしておかないと。

「そうだ! わたしレクシシュっていいます。お名前を教えてもらえますか?」

「カンサリートだよ。けど、なんで今なんだ?」

もう一度、肩越しに話しかけると、いぶかしげな返事が返ってくる。

え。そんな変なこと聞いたかな? 名前も名乗らずに分かれるのは失礼だと思うんだけど、この世界ではそうでもないってこと?

「お礼をするためですよ! 村についたら別れるでしょ?」

「別れる?」

首をかしげながら聞き返せば、逆に鸚鵡返しで返ってくる。同じ仕草しながら。

え。なにそれ。かわいい、すき。息切れする。あと、リトの髪がほっぺ擽ってくるの幸せすぎる。衝天しそう……。まって、まだ会話の途中なの、がんばって、わたし!!

「だ、だって、宿屋を探さないといけないし……、宿屋まで案内してもらうのは、さすがに迷惑をかけすぎかなと……」

「村に宿屋なんてないぞ」


は!?!? ちょっ、幸せで遠のきかけてた意識が戻ってきた! 宿屋がない!?


「なんですと!? え、今日の寝床どうしよう!? お店の床なんて間借りさせてくれるかな……」

あ。そうか。旅立つ最初の村は確かに宿屋はなかったよ。武器屋と道具屋はあるのにね。

武器屋さんとかなら、お店の床で寝かせてくれるかもしれない。最悪は雨風がしのげればなんとかなるだろうし。


「だから、分かれる必要ないんだよ。僕の家に泊まればいい」




「…………。 ぅぇえっ!?」










リトと話して……っていうか押し問答している間に、あっという間にチュートリアルな森を抜けて、村へたどり着いた。

村へたどり着いたけど、わたしはリトの背に乗って片腕にお尻を支えられた状態で村を移動している。

小さい村の入り口から一番遠いリトの家までおんぶで移動ですよ。ちびっこみたいだからまだセーフだけど、ちょっといたたまれない。

まだ腰抜けてるだろうってリトの気遣いです。やさしい。

や、リトの家に連行するための手段なのかな? 結局わたしを泊めてくれるって気遣い?


村の中でのおんぶ状態とお泊りさせていただくことに観念して、やっと気持ちにゆとりが出てきたからか、視線が首ごと左右に動く。

なんども冒険をスタートした始まりの村だけど、画面越しでしか見ていなかったから、新鮮に感じる。実際に中から見るとこんな感じなんだな。村のマップはもう丸暗記してあるから地図が脳内で展開されて、そのとおりのマップになってるから面白い。


「珍しいのか? 何にもない村だぞ」


きょろきょろしていたわたしが怪しかったのか、怪訝な声で呼びかけられる。

確かに、村の中に入ったとたんに周囲を見回しだすなんて怪しいなわたし。

「今の動きって物盗りみたい? そんなつもりじゃないです!」


慌てて否定すると、立ち止まって肩越しに振り向かれて視線があった。近いです。ごちそうさまです!


「物盗りの下見なら気づかれないようにするだろ。そんな堂々と見ないだろうし、疑ってはいないさ」

「そっか……よかった」

「最初に脅しすぎたか? 心配しなくても今さら追い出すなんてしないよ」


しょうがないな、みたいなため息をひとつして、安心させるように言われて、やっと肩の力が抜ける。

脅されて怯えているというよりも、リト自身に疑われたり嫌われたりするのが嫌なんだけど、今日初めてあったばかりだし、今の仲良し具合で言うのは躊躇うよ。とりあえずは怯えてるわけじゃないってことは伝えないと。

「脅されたなんて思ってないですよ! カンサリートさんに少しでも疑われたくないだけです」

あれ? あ、やばい。言うつもりなかったのに! 持ってたはずの嫌な大人感どこいった!


「言っただろう? レクシシュのことはもう疑ってもないよ」

「……ありがとうございます。へへっ。嬉しい」

はにかみ笑顔いただきました!!!

ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうございます。


嬉しくて首に回していた腕に力を込めると、またため息をついて、歩きはじめる。

怪しい子供から子供の知り合い程度に昇格できたかもしれない。


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