1.ちんちくりん少女は見た!
長編は初投稿になります。
見切り発車ですが、よろしくおねがいします!!
「り……リリアンナ! 君のことが好きなんだっ。
僕たち、一緒になれないかな?」
おわかりいただけるだろうか。
好きでもなく決定的瞬間を目撃してしまったこのこころもち。
なんとも言いようがないよね!
ドアを通ったはずだったのに、目の前は鬱蒼とした森の中で、振り返ったら開いたはずのドアは消えていて、わけもわからずに灯りを求めてさまよい歩いて、やっと木々の間隔があいてきて、目の前が開けたと思ったら、……これである。
誰だか知らないけど、ピンク色の雰囲気だよ。向かい合う男女の一対だよ。出にくいったらないよ!
せっかく見つけた第一住人だというのに、声を掛けられる雰囲気じゃない。
しかも、困ったことにこれって見覚えがあるんだよね。
なんでだろうね。知らない人たちなはずなのに、見たことがあるって。デジャヴュ? 正夢か何か?
目の前……といっても木の陰に隠れてはいるんだけど、ご丁寧にも横顔がばっちり見れる位置だよ。人を判断するにはうってつけだよ。もしかして狙ってるの? わたしは狙ってなんかないよ!?
そ、の、向かい合う男女は、お年頃な少年少女だ。
リリアンナと呼ばれた、アプリコットカラーの髪に彩られる、うっすらと桃色に染められる白い肌。赤紫色の瞳は潤んで、まるでルビーのようだ。小作りの鼻とふっくらとやわらかそうな口元をもった、とんでもない美少女だ。
その向かいの男の子は青年に片足を突っ込んだみたいに背が高い。アクアマリンよりも濃い紺碧色の髪に、紫色の瞳。表わすならミスティックトパーズ。まっすぐ少女を見つめる瞳は真剣そのもので、逃さないとでも言いたげだ。や、耳に飛び込んできたセリフ的にそりゃあ真剣だろう。根明じゃないとふざけて言えないよね。うん、やつは根明には見えないや。
二人とも目を引く美男美女だよ! うわーい。眼福だよ、やったね! そして見たことがあるんですよ?
「っっぅtっっ!!!!!」
一体どこで見たんだろ、と、記憶が思い当たったとたんに口を塞いだ自分を褒めたい。
えらい!!!! まじでえらい!!!!
こんなシーンで叫び声を上げたら、ピンク色の雰囲気がぶち壊しだよ。
不可抗力だったとしても、この雰囲気をぶち壊したら、その後がいたたまれないよ。迷子を脱するどころか、第一住人に逃げ出されちゃうよ。次の住人を見つけられるかも分からないんだし、そんなことになったら目も当てられない。
まぁ、思い出した内容が内容だけに、叫びたくなるのも仕方ないと思う。
だって、それは目の前の彼の運命の分かれ道で、その命運を握るのが、彼の目の前にいる美少女なのだから。
わたしが思い出したのは、彼を真正面から見つめて、同じセリフを告げられたシーンだった。
そのシーンはなんどもなんども繰り返したシーンで、初回以外は全部、胃をキリキリさせながら進めていた。断腸の思いで先を送る操作をする。
自動で紡がれる言葉は、正面に立つ彼へ突き返し、手酷く傷つけて、最後は乾いた笑みで終えてしまう。
画面越しで繰り広げられる内容に、なんど唇をかみ締めたことか!!!!!
そうなのだ。これは、乙女RPGゲーム<<ドゥームズキュア~この星の祈りを~>>の中のワンシーン。共通ルートから分岐する、彼との運命の分かれ道だ。
<<ドムキュア>>は、乙女ゲームの中では珍しい、RPGの名前がついたゲームで、攻略キャラクターごとのエンディングに分岐するゲームだ。美麗なキャラにスチル、重厚なシナリオで、熱烈なブームを巻き起こした伝説のゲーム。
主人公は小さな村に住んでいた少女で、メインヒーローにひっぱられる形で旅をするようになる。その中で、聖女としての力に覚醒し、やがては世界を破滅の運命から救う壮大なストーリーだ。
その旅の中で出会う数々のキャラクターから仲間を選び、同じ時間を重ねて仲良くなって、選んだキャラクターと救った世界で向かえるエンディングがある。
RPGならではで、シナリオはほぼ一本道だけれど、キャラクターの多さとこなせるクエストの多さで、組み合わせは……何通りだったっけ? とにかく多かった。だから、キャラのレベルを引き継ぎつつ何週も同じゲームを繰り返して、キャラクターの新しい一面に気づけたり、期間限定のクエストに参加したり、あとは武器強化とかレアアイテム獲得とか、はまったらどんどん抜け出せなくなるほど魅力に溢れていた。
……そのゲームの共通ルート。
「そ、そんな……あ、あたしはリートのこと大事な幼馴染だとは思ってて、だからっ」
とまどったような震える可憐な声が上がった。
声のほうに視線を走らせると、眉根を寄せて、彼をちらりと見たあと、視線を逸らすように両目をうろうろと左右に揺らして口ごもる美少女。
ああ――――彼女は彼を選ばなかった――――。
彼の顔から表情が抜け落ちる。絶望とは違う、カラッカラの何か。
「そ、か。そうか……ごめんな、変なこと言って」
そこへ口元にだけ笑みが貼り付けられる。取り繕うように取り成すように、謝罪の言葉を口にする。
ちがう。へんなことなんかじゃない。なんで? なに? 変なことって。好きって伝えることが変なことなの?
口を必死で押さえながら、ぐるぐると感情が渦巻く。ほんと、わたしないす。彼の矜持を傷つけちゃいけない。
でもっ……。でもっ、なんでリリアンナは違うって言わないの? 変なことだって認めるの?
急いで美少女に目を走らせるけど、悲しいかな、混乱してる顔じゃなく、困ったような気まずそうな顔だ。未だに視線逸らしてるし。認める気かよこのやろう!
「今言ったことは忘れてほしい。僕たちは、大切な幼馴染だもんな」
大きく息をついて続いた言葉に、逸らされていた視線がやっと交わって、緊張した空気がゆるんだ。
「……うん。あたしたちは、大切な幼馴染だよね。ずっと、変わらないよね?」
「っ。ああ、僕たちは幼馴染で、それは変わらないよ」
「よかった! ありがとう!
じゃあ、あたし行くね。準備が途中だったの」
「ああ。じゃあな」
穏やかなやり取りをして、笑い合う。
片方は肩の荷が下りたような晴れ晴れとした笑顔で、もう片方はカラッカラのかすっかすの干からびたような虚ろな笑みで。
ああ、もう。こういう空気もいたたまれなさ過ぎて嫌になる。他人の告白シーンに続いて失恋シーンも居合わせることになってしまって、ほんと申し訳ない。
口を押さえたまま、彼らの姿から視線を逸らすように顔をうつむけると、見慣れない明るい色が視界に下りてきた。
なんだこれ?
あれ、そういえば、口を押さえている自分の手も異様にちっちゃいような?
ん? なんでわたしぼろっぼろの服着てるの? は? なにこれ。
「で、あんたは何してるんだ?」
「ぅえっ!?」
速攻で見つかりました。
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