張り込みかストーカーか 99
簡単に言えば、容疑者の近親者を調べてみようということだ。
なぜなら『再構築者』との親和性、相性というのは、血に宿るからだ。
もし、ハルポナが精神生命体だった場合、学校に通う誰かに転生した後、より相性の良い個体、親や兄弟に乗り換えている可能性もある。
『TS研究所』に残されている資料によれば、精神生命体は転生先の肉体を壊さずとも、別の人間に乗り移ることが可能と思われるという記述があって、これが裏付けのひとつになっている。
組木さんの言う、特殊な方法というやつだ。
砂藤班長の班員に協力してもらって、半田教員、二年生の晦先輩、一年生の瀬尾さんの近親者を調べていく。
半田教員は一人暮らしで、実家は遠く、大学時代の友人が数人、近くに住んでいる。
相性が血に宿る以上、この線は薄いが、できる限りは追う。
晦先輩は母一人、子一人で暮らしている母子家庭だった。
父親は早くに他界しており、親戚も離れて暮らしている。
母親をドローンカメラに搭載した『転生者診断アプリ』で確認したが白だった。
そして、瀬尾さん。両親と同居の祖母、弟さん、全て白で『再構築者』の痕跡は見つからない。
これで完全に線が途切れた、と思ったが、それはひょんなことから見つかった。
俺たちは近親者を調べるために、容疑者の周囲で張り込みをしていた。
あくまでも仕事としてだ。
車の中で瀬尾さんの家を張り込みしている時は、ちょっと自分が変態的なことをしているのではと、恐怖を感じたが、これは仕事なのだと自分に言い聞かせる。
ただ、亜厂と此川さんと御倉には見られたくない姿だった。
後ろに盗聴機器や盗撮用ドローン、周囲のカメラにハッキングを掛けて映像を抜く装置などを搭載した黒塗りのバンの助手席で、椅子を倒して人目を忍ぶ姿は、なんだか情けなさが込み上げてくる。
誰にも見つからないように祈りながら、身を縮こまらせていると、砂藤班長が少し身を起こして言う。
「誰かいるな……」
瀬尾さんの家族は全員、家の中で、時刻は夜十時を回っている。
道路に面した二階の一室が瀬尾さんの部屋で、食事が終わり、寝る準備を整え、今の瀬尾さんはお友達と電話をしている。
それが何故分かるのかと言うと、俺の片耳に嵌ったイヤホンから、瀬尾さんと友達の会話内容が聞こえて来るからなのだが……内容が赤裸々過ぎて、俺は顔を伏せていた。
胸のサイズがどうとか、友達の彼ぴっぴが満足しているかどうかとか、仕事のために聞いているのであって、決してやましい気持ちでは……気持ちでは……。
例え気心の知れた砂藤班長でも、顔を見られたいとは思わないのだから、仕方がない。
「だ、誰かですか?」
ちょっとどもってしまう。
言われて砂藤班長の視線の先を見る。
電柱の陰に、俺と同い年くらいのパーカーを頭まで目深に被った男性が、自転車の籠に機械を載せて、手持ちのパラボラアンテナみたいな物を瀬尾さんの部屋に向けている。
耳からは、瀬尾さんの部活顧問への愚痴が聞こえて来ていた。
男性の顔が影になって見えない。
俺はなんとか目を凝らして、男性を見ようとする。
口元が嗤った?
自然と俺は男性を視ていた。
男性の頭には、光輪が輝き、背中には翼が見える。
顔が三重写しのように、ニヤつく同年代の顔と黒い影と厳しい目をした壮年の男性とが重なって視えた。
「いた……」
「ん?」
「班長、アイツです……取り憑かれてる……」
俺は慌てて写真を撮ろうと『転生者診断アプリ』を起動させる。
「バカ、今はダメだ」
砂藤班長が俺の動きを制止する。
「でも、確実な証拠がないと」
俺が視た、だけでは信ぴょう性に欠ける。
だからこそ、俺は『転生者診断アプリ』での撮影に拘るべきだと思ったが、砂藤班長の言い分はそうではなかった。
「違う。ここで戦闘になったらどうする。
周囲に被害が出ると、誤魔化しきれんぞ」
「あ……」
そうだった。学校で戦闘が起きる分には、学校という閉鎖空間と周囲にはTS研究所専従班が展開して混乱を収めてくれるからいいが、ここは住宅地のド真ん中だ。
簡単に事件を揉み消せなくなる。
そうこうしている内に、パーカー男の自転車は去ってしまった。
「すいません……」
俺は謝った。
「大丈夫だ。着ていた服装、背格好、自転車、集音器……情報は取れた。
探せば見つかる」
砂藤班長はそう言って、俺の肩を叩くのだった。




