謎の鎧 95
人形の伸ばした手を背後から『想波』の剣で斬りつける。
少し縮んだ身体を補充しようと、新しい木に触れ、同化する試みを阻止する。
亜厂は防御に徹していて、此川さんが投げる『彫刻刀槍』が攻撃の要だ。
回転を伴い、突き刺されば周囲をごっそり削り取れる。
人形との戦いは、いかに回復させないようにしつつ、質量を減らせるかという戦いだ。
未だコミュニケーションが取れるかどうかすら分からないが、ここまで来ればとにかく相手の心をへし折らないと、話もできない。
此川さんが攻撃し、亜厂が防御を請負うのなら、俺がするべきは、人形の回復阻害だ。
「誰?」
此川さんが俺に声を掛けて来た。
顔は隠しているし、カムナブレスは進化しまくっていて、前とは似ても似つかない状態だ。
分からなくて当然、そのことに少し、ほっとする。
「満月くん?」
「え、日生くんなん?」
俺は歩き方からして変わっているはずだ。
機動隊員たちに動きの基礎から教わった成果が出ているはずで、体型的にも多少は締まったはずだ。
つまり、外観から俺だと判断する要素はないはずなのに、何故かバレた。
いや、この状況で助けに来るのは俺しかいないという消去法だろうか。
しかし、技術的には『想波』を充填すれば、DDでなくてもカムナブレスを一時的に使う方法はあるし、他の支部から来た助っ人という可能性もある。
もしくは、この人形『再構築者』と敵対している『再構築者』という可能性もあるのだ。
俺はまだ彼女たちの前に姿を現し、許しを乞うには実力不足で、組木さんに尻を叩かれて出て来たものの、これが終わればまた修行に戻るつもりだ。
だから、彼女たちの言葉は聞かなかったことにして、淡々と作業を進めることにする。
人形が木を補充しようとするなら、それを無くしてしまえばいい。
『欲望』の成形を得ていない、ただの『想波』は外界に対して操作はできないが、直接的な関与はできる。
つまり、俺は人形の近くにある木を次々に切り倒していく。
人形が動きたい方向の木を切り倒し、同化させないようにする。
その間も此川さんの攻撃は続き、人形は小さくなっていく。
俺は『想波噴射』でスピードを底上げし、人形が逃れようとする方向を塞ぐ。
業を煮やした人形が弓を俺に向ける。
悪手だ。
それまで防御に回っていた亜厂が、一気に距離を詰めて来る。
「させない! 舞え! トツカノツルギ!」
人形が気づいた時には、大きく跳んだ亜厂の『木刀ボールペン』が真剣以上の斬れ味を持って迫っていた。
防御体勢。
人形が腕を差し出し、当然のように亜厂がそれを斬り裂いた。
人形の四肢が斬り飛ばされる。
人形はまるで水袋のように全身をうねらせ、ひと回り小さな身体を作る。
今だ! 俺もカムナの剣で人形を斬る。
割合として大きい方が人形の意識を内包しているのだろう。
さらに小さな人形へと形を変えていく。
「いくよー! 穿て! グングニール!」
次第に小さくなって、ついには元の大きさ程度まで戻った。
俺、亜厂、此川さんで三角形に人形を取り囲む。
「観念しなさい!
あなたには選択肢があります。
このまま、元いた世界に帰るか、私たちによって封印されるか、どちらにしますか?」
亜厂が木刀ボールペンを突きつけて警告する。
ただ、この選択肢には本来、もうひとつある。
肉体、この場合、木製の人形だが、それを失って魂だけで漂う道だ。
人間に取り憑くのではなく、木製の人形となると次の体は見つからないかもしれない。
「元いた世界に戻るのなら、こちらへ。
封印がお望みなら、あちらへ」
亜厂が自分と此川さんを示して説明する。
俺の方に来たら、魂だけで漂うということだ。
じりっとした間があって、俺たちは固唾を飲んだ。
歩き出した人形は、亜厂の方を向いた。
亜厂はほっとしたように両手を広げた。
だが、そんなに聞き分けのいい『再構築者』がいるだろうか。
それは此川さんも同じように考えていたようで、人形の歩みに合わせて俺たちは少しずつ間合いを詰めていく。
「分かってもらえて嬉しいです」
亜厂の胸に、人形がぴょんと飛ぶ。
その手には、いつのまにか一本の短い矢が握られている。
「させへん!」
俺と此川さんが同時に動く。
『想波噴射』を使った俺は、亜厂を横抱きに庇う。
同時に此川さんは、その『彫刻刀槍』で人形をかち上げた。
空高く打ち上がった人形。
「……あ、満月くん……その……ありがとう……」
亜厂の言葉に応えず、俺は亜厂から離れると、もう一度『想波噴射』で飛ぶ。
あいつを消滅させる!
腕の噴射孔を人形に向ける。
消しとべ!
純粋な『想波』のエネルギーをぶつける。
人形が粒子になって消滅していく。
そして、慌てて人形から離れる魂が見える。
───戦好きの侯爵か。なればアレは我が獲物だな───
ベリアルはその魂に見覚えがあるようだ。
つまり、エルパンデモンのやつか。
「どうする?」
───滅多に来ない老骨が、人への憑き方も知らぬらしい……ならば考えがある……───
ベリアルの考えに沿って、俺はその場を後にする。
「待って、満月くん!」
亜厂が去ろうとする俺に声を掛けてくる。
俺は『想波噴射』に力を送る。
「……また、会える?」
俺は答えることなく、その場を後にした。
「なあ、ほのか……本当に日生くんなんやろか?
」
此川さんの半信半疑な声を聞きながら、俺は大きく飛ぶのだった。




